What If This Is All The Love You Ever Get? | 8-hour workdays

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音楽を中心に、気ままにブツブツ

当時准教授だった先生も
今はもう80歳.
歯切れのよかったユーモアに富んだ
しゃべりも,活舌が失われ,
笑いよりも悲しさの方が
増していた.

先生は我々がいた研究室ではなく,
同じ大学の別の研究室で教授になった.
その後,私立の大学に移り,
今もフルではないが
非常勤として教壇に立っている.

 

その日の会場は,

40歳から70歳近くまでの

同窓生で埋まっていた.

皆,逝去した教授の教え子たちだ.

当時准教授だった先生は,

亡くなった教授の退官後の人生を

スライドを使いながら説明し始めた.

 

自分のテーブルには

同級生が集められた.

25年ぶりぐらいだろうか.

みんなそれなりに年を取っていた.

 

当然参加していない

教え子たちの方が多い.

ここに来る人たちは

何を求めて来たんだろう.

 

もちろん教授を偲びたいという

気持ちが第一かもしれないが,

同時に過去への郷愁に

浸りたくて足が向いたのかもしれない.

 

自分はどうだったんだろう.

 

毎日,訳が分からないぐらい働いても,
未来はよく見えず,そんな中
はっきりとしたあの頃に
戻りたかったんだろうか.

 

会場には,何十年も前の教授の姿と

それを囲む生徒たちの

写真が映し出されていた.

 

こんなに偲んでくれる人がいるなんて

幸せな人生だったんだろうな.

 

自分は当時准教授だった

先生の所に挨拶に行きたかったが,

60代の先輩達が囲んでいて,

中々そこに行けなかった.

その光景は,傍から見ると

政治家のパーティにも見えた.

 

20分後,集団が引いたため,

すぐに後輩たちを連れて

先生の所に向かった.

 

「ご無沙汰しております」

 

「おお~,エイト(仮名:自分)君!

 変わってないな!」

 

「覚えていてくれたんですね」

 

「君は特徴的だったからね.

 先生が生きてた頃は

 何かと君の話題が出ていたよ」

 

そんなに自分は印象的な

生徒だっただろうか.

 

「みんなの実験図ばっかり

 マックで描いていたからですかね」

 

当時自分は実験よりそっちに

のめり込んでいた.

そのせいで自分の卒論は

区民だより並みに薄い.

もちろん内容もスカスカだ.

そのくせ実験機器や手順を

表した図には力が入っていた.

 

「おお,エイト!

 オマエ相変わらずだな」

 

自分の喋りを聞いて,

当時助教だった先生が

寄って来た.現在は他の大学の

教授でアカデミアの中でも

有名な方だ.

 

「ええ,先生のビールに

 さきいかを入れるために来ました」

 

「あれか!泡が出るやつ」

 

「研究室での唯一の私の発見でした」

 

そこにいた当時のメンバーは

懐かしくて笑った.

 

自分はここに何を求めて

来たんだろうか.

このほのぼのとした

制限時間付きの雰囲気を

味わうためなのか.

 

昔の自分だったら
斜に構えていた上に,
尖りまくっていたため,

 

同窓会? けっ!

 

と反抗期の子供のような

振る舞いをしていただろう.

 

今の自分は,いつ亡くなっても

いいように,会える人には

会っておこうと軟化した態度に

変わったのかもしれない.

 

偲ぶ会は3時間ほどで

お開きとなった.

 

「先輩,私,割と近くに

 住んでいるんですよ」

 

いくつ下の後輩かわからないけど,

会場を去ろうとしたときに

そう言われた.

 

「先輩の前職にいた,私の同級生,
 ご存じですか?」

「ああ,知ってるよ.
 この間,その子を入れて
 みんなで飲んだよ」

 

「今度彼女を入れて

 飲みましょうよ」

 

「そうだね,伝えておきます」

 

自分は微笑みながら,
社交辞令だろうと思い
その場を去った.

「エイトさん!
 2次会は行かないんですか?」

2個下の後輩が訊ねてきた.

「悪い,同級生の方で
 飲む約束をしちゃった.
 今,オマエは,日本橋勤務?」

 

「ええ,そうです」

 

「じゃあ,そこらへんの会社の

 同窓生集めて,また飲もうよ」

 

「是非とも!」

 

こういった会での約束は

残念ながら,実現したことは無い.

 

「エイトさん!行くよ!」

 

同級生が自分に呼びかけた.

 

さて,行くかね(続く)