僕を優しく包むカーディガン。 -13ページ目

歳をとっても子供のまま。



去年の秋、一人で遠出をしたことを思い出した。

***

懐かしい街に来た。
小雨がパラパラと顔に当たっている。
天気は悪いが僕の心は清々しかった。

駅にあるコーヒー屋で温かいコーヒーを買った。
少し大きかったかな、と買ってから思った。
店員の爽やかな笑顔が印象に残っている。

乗車券を買った。
目的地まで1110円。
小銭がなかったので券売機に2000円を入れて買った。
オレンジ色の切符だった。
自動改札を抜けてホームへ向かった。
5番線乗り場に電車はもう停車していた。
あまり人が乗っていない車両を選んで乗り込んだ。
僕は青いシートの上に腰を降ろした。
隣の6番線に電車が滑り込んできた。
白い電車だった。
そうこうしている間に僕の乗っている電車が音をたてはじめた。
予想以上のエンジン音の大きさに少し不安になった。
ホームに鳴り響く合図と共に電車は走り始めた。
僕の耳にあてたイヤホンからは昔の洋楽が流れている。


僕は今、暗いトンネルの中にいる。
さっきまで凄く景色が綺麗だった。
赤く染まったもみじや黄色いイチョウは風に揺れていた。
朝露が残っていてキラキラ光っていた。
気が付けばコーヒーはもうなかった。
そんなにたくさん飲み込んだ記憶はないのになぁ、と独り言を言ってみた。
もしかしたら知らないおじさんがひょっこり顔を出して、
「あ、少し飲んだよー。」
なんて言ってくるかもしれないと思ったからだ。
だって本当にそんなに飲んだ覚えはないから。


30分くらい体を揺らされてたら、だんだん眠くなってきた。
この窮屈な『自分のスペース』でなんとかしっくりくる体勢を探してみたが失敗に終わった。
仕方ないので窓に頭をつけて目を閉じた。
常に首の筋が伸ばされていてストレッチをしているみたいだった。
このまま寝てしまえば首の筋が古くなった輪ゴムのように伸びきってしまって元のように縮んでくれなくなってしまったらどうしよう、と考えたら怖くなったので眠るのをやめることにした。


それにしてもまだ先は長いのだ。


***

何であの日あそこに行きたくなったのか
全然覚えてはいないが

「一人でこんな所まで来た」

という優越感に似たものを感じていた。

***

子供の頃、よく父の車に乗せられてこの海まで来た。
少し肌寒い秋の浜辺で僕は一人、ギターを弾いて歌う。
あの日の感情も今日の感情も全部吐き出した。
適当にコードを鳴らしてラララって歌った。
歌える曲は全部歌った。

気が付いたら太陽は沈んでいた。


僕は一人。孤独。


またしばらくこの海は見れないな。
冷たいギターをケースにしまって鼻をかんだ。
ちょっと薄着だったかな。

***

あの日の行動力はすごかった。
思い立って自分の部屋を飛び出していくまで
時間はかからなかったし全てが苦に感じなかった。

また一人で遠くに行ってみたい。
今度は知らないところへ行ってみたい。


あ、そういえば
次の日僕は風邪を引いて寝込みました。