先日、鍼灸の研究会で少しばかりお話をする機会がありました。
その時の内容もまた機会があれば記事にしたいと思いますが、今日はその後に行われた懇親会で質問された、「先生は患者さんの邪気を受けないんですか？受けた時どうされていますか？」という言葉に思わず笑ってしまった（失礼！）ので、改めてそのことについて書いてみたいと思います。
「治療家が患者さんの“邪気”を受ける…」
この言葉は、“気”を扱う鍼灸師の間ではよく囁かれる言葉です。
さて、本当に患者さんの“邪気”を受けることなんてあるんでしょうか？
今から３０年ほど前、鍼灸師になりたてだった私は当時所属していた鍼灸の研究団体から派遣され、ガンで入院されている患者さん中心に往診をしていた事がありました。
日に数人の患者さんを診るだけで、帰宅するともうフラフラ…何もする気が起きません。
今から考えると若かったなぁ、未熟やったなぁと思いますが、当時も、そして今も「邪気を受けた」なんて思いません。患者さんの邪気を受けるなんて失礼な！
もちろん今は、当時よりもっと数も質も大変な患者さんを抱えていますが、全然元気です！
江戸時代の観相家、水野南北の『南北相法極意修身録』 …鍼灸師の方はよくご存じの名著ですが、その中にこんな言葉があります。
千日千夜祈るといえども己に実（まこと）あらざれば神明いずれにあらん。
これは、人間と神仏の間についての言葉ですが、人と人の間でも同じです。口先だけの追従や同意は、すぐに化けの皮が剥がれてしまうものです。最近流行の“傾聴”や“カウンセリング”なんかでもそうですね。
人間というものは、相手が心底でどう思っているかで動かされるものです。
人間の世界は、計算や下心で成り立つかも知れませんが、神仏など目に映らない世界には、計算や打算はありません。そこでは、真心だけがまかり通るのです。
きっと、目に見えない“気の世界”もそうなのでしょう。
また、黄帝内経の上古天眞論篇にもこうあります。
恬淡虚無であれば、自ずから気が満ち溢れ精神は発揚として、病が入り込む余地などはなくなってしまうのである。
※恬淡虚無とは、
私心なく物事にこだわらずあっさりしていることで、道家思想の根底をなす。恬淡は物に執着せず心安らかであること。虚はつきぬけて空っぽであるの意。無も同様の意を持つ。
東洋思想における虚と無は、空っぽの状態ではなく超越した状態と捉えられることが多い。
類義語に「無欲恬淡」「無欲淡泊」「虚静恬淡」など。
昔からいかがわしい宗教や、邪気を受けないようにするにはこのグッズを！、などといって勧誘する変な宗教（？）がありますが、そんなものに惑わされず、医学（東洋医学）の知識や治療技術の研鑽に力を注ぐべきかと思います。湿邪を持っている人が湿邪を受けやすいのと同じように、邪気を持っている人が邪気を受けやすいんですね。
きちんとした天賦の常識や知識、確かなことを見極める心眼、そして技術をもって臨めば、ことの正邪は判明します。
臨床というのは、互いの“神”と“神”を触れ合せ、重なり合わせる行為です。それこそが人と人との関わり合いであり“縁”なのでしょう。
“神”とは、精神、心、身、魂などと置き換えても良いかも知れません。
正も邪も共存してこそ道…
道を太極と置き換えるとわかるように、陰も陽も、虚も実も、正しいも悪いもないのと同じように、正も邪も良くも悪くもないんですね。
肩の力を抜いて打算なく真心をもって事に当たれば、必ず正しい道は拓かれていくに違いありません。
…それでも「邪気を受けます」という方は、『いど鍼灸整骨院』まで…
もちろん治療費、またはお布施を忘れずに…（笑）
陰陽太極図
…ボクがもう少し商売上手だったら、邪気払いのペンダントやら腕輪なんかを売りつけるのに…あ、どんな邪気も払えるという鍼もいいなぁ～それもマルチ商法で…（ぼそっ）
水野南北『南北相法極意修身録』
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