痛みの有り得ぬ世界があるなら甘味が主食の世界と同義で | 奇なる悪戯に近い神の啓示を人型は断片すら飲み込めず

奇なる悪戯に近い神の啓示を人型は断片すら飲み込めず

IDは適当な厨二病単語の羅列なので、お気になさらずに。
何処かのそれを、かつてに思いを馳せ懐古文言を混ぜ加工。
100人オフの名刺代わりとお遊びで、30日間連続更新します。
無駄にサービス精神を発揮した、後で嫁に罵倒されるやつです。

 

大寒も過ぎつつもまだまだ寒さが厳しいこの時期のお話。
ソフィーとペネトレはおうちで温かいものを飲みながらくつろいでいます。
ペネトレは猫の男の子。何故だか人間の言葉を喋ります。
いつの間にかソフィーの家に住み着いていました。
いつもソフィーが思ってもみなかった事をお話してくれるのです。

「あー。まだまだ全然暖かくならないわね、ペネトレ。
 地球温暖化なんて言ってるのに、今年は格段に寒いじゃないー」
「温暖化って言い方は相変わらずムカつくよね。
 その『温暖』という表現は、快適で過ごしやすいというニュアンスじゃないか。
 もっと危機感に迫った言い回しに直すべきだと思う。地球高温化だとかね。
 もっとも、地球そのものが人類を害とみなしていて、
 削減する為にこの環境を作っていたりしていたとしたら面白いんだけどね。
 マスゴミはそれを大衆に知らしめないように、
 あえて柔らかいニュアンスの言い回しを使い続けるという」
「相変わらず憎まれ口を叩いたり陰謀論がお好きだこと。
 そういえばこの間の雪は本当に滑って怖かったわ。
 関東の都心部ってすっごく雪に弱いのよねー」
「雪の多い地方の人から見ると、関東の雪の弱さって噴飯モノみたいだよね。
 そうそう。『怖かった』というキーワードから強引に繋げちゃうんだけど、
 ところで何故怖さを感じるのかって考えた事はあるかい?」
「何故怖さを感じるのかですって? …そういえば考えた事も無いわ」
「ソフィーが怖いものはお化けだよね。後は何かあるかな?」
「あたしがお化け嫌いだなんてバラさないでよー。
 確かに怪談なんかも嫌いだけどね。
 あとはゴキブリや毛虫とかハチも怖いし、高い所も怖いかしら…」
「他には何かある?」
「えーとねー。あ、泥棒も怖いかな。あたしの3DS盗まれたら泣いちゃう。
 後は殺人犯も怖いー」
「お化けが出そうな廃墟も怖いんじゃない?」
「あー、凄く怖いそれ。病院の廃墟なんかもすっごく怖いよね」
「結構怖いものが出て来たね。じゃあ順に追ってみるね。
 怖いという事、つまり恐怖という感情は、
 そもそも生命を守る為の防衛本能であり、
 ある程度知能を持つ動物であれば誰もが持っている」
「いつものが始まるのね。続けて」
「人が持つ恐怖は、他の動物が持つ漠然とした防衛本能が、
 環境により少し細かく分類されるように進化した。
 突き詰めれば、人が抱く恐怖は三項目に分類される。
 細かく説明していってみよう。 
 ひとつめは『痛覚に対する恐れ』だね。
 最も原始的な恐怖と言ってみても良いだろうね。
 相手の攻撃により痛みを被るかもしれないという事で抱く恐怖だよ。
 痛みという感覚は一般的には誰もが嫌う。
 この感覚を与えそうな対象を避けようと恐れる。
 ふたつめは『未知に対する恐れ』だね。
 これも『痛覚に対する恐れ』と同様、極めて原始的な感覚と言えるだろうね。
 自分に攻撃してくるかもしれないという事で、今までに知らない対象を恐れる。
 みっつめは『喪失に対する恐れ』かな。
 ここは原始的な感覚と後世的な感覚の二つが混ざる。
 原始的な感覚で言えば、
 手足を奪われたり目を潰されたりという事を恐れるという事だね。
 後世的な感覚で言えば、
 自身の物品や財産を奪われるという事に相当するだろうね。
 手足も物品もそうだけど、奪われた後には奪われたなりの不自由が発生する。
 手足や目を奪われた後の生活は、想像するに不快だろう?
 そこの不快さと当然痛みも加味して、恐怖を感じるのさ」
「あー。言われてみればそうね。考えた事も無かった」
「という事でみっつに分類されたけど、
 実は根幹は『痛みを被るかもしれない』という一点に辿り着く事が解るだろう?
 つまり言い切ってしまえば、恐怖=痛みに対する恐れ なんだ」
「…んー。まだ良くわかんない」
「じゃあソフィーが上げてくれた怖さを感じるもの順に噛み砕いていくね」
「うん。まずお化けが怖いというのは、何を怖がっているのかしら?」
「それは『未知に対する恐れ』が該当するだろうね。
 自身の今までの常識では理解出来ない、
 もしくは科学的に説明し切れないという点がもたらす恐怖。
 ここには気持ち悪さというものも混ざって来るんじゃないかな。
 攻撃された際にどういった被害を被るか解らないという点も恐怖だろうね。
 殺されるかもしれないし、呪われるかもしれない。
 呪われたとしたらどういった不幸な目に遭うのかなんて読めないけど、
 そこで頭に描く不幸というのは、何らかの痛みを被る自分の姿なんじゃないかな」
「ふうん。じゃ、ゴキブリや毛虫だとかハチに怖さを感じるのは?」
「これは、『痛覚に対する恐れ』と単なる驚きが混ざっているね。
 この感覚は実は虫の種類によって異なるんだ。
 例えば毛虫やハチは毒を持っていて、刺されると痛い。
 これを怖がるという事は『痛覚に対する恐れ』が先立つ。本能的なものだね。
 対してゴキブリの怖さは、単なる驚きさ。
 往々にして人は『驚く』という事を『怖い』と表現してしまう場合がある。
 ゴキブリの場合はまさにそれさ。毛虫も若干気持ち悪くて驚くけどね。
 もっともゴキブリの生態を知らずに、
 どういった攻撃をされるかを解らない人が居たとしたら、
 やはり『未知に対する恐れ』というものが発生するだろう」
「ふーん。じゃあ高い所に怖さを感じるというのは?」
「これは『痛覚に対する恐れ』と『喪失に対する恐れ』の複合かな。
 落ちたら手足を複雑に折って失う可能性もあるし、当然痛い。
 それが元で死ぬかもしれない。と思う。
 この想像力が怖さを増幅させているんだろうね。
 逆に言えば、想像力が無かったとしたら高い所は怖くないんだ。
 もしくは慣れる事も出来るだろうね」
「命綱を付けたりしてね」
「そう。命綱を付けたりして落ちる心配が無いと解ったとしたら、
 高い所の怖さは相当和らぐだろうね。
 それでも怖くて堪らない人も居るかもしれないけど、
 それは過剰な想像力で自分の首を絞めているのさ」
「じゃあ泥棒や殺人犯の怖さはー?」
「泥棒の場合は『喪失に対する恐れ』だね。
 自身の物品や財産を奪われるという事による後世的な感覚とも言える。
 ソフィーが3DSを盗まれたとしたら心を痛めるだろ?
 殺人犯はそのまんまで、命を奪われるからさ。ここは原始的な感覚に分類される。
 泥棒に命と物品を奪われるというケースもあるだろうけどね」
「んー。じゃ、病院の廃墟とかは何で怖さを感じるのかな?」
「これも『未知に対する恐れ』による怖さだろうね。
 どういった痛みを与えてくる対象が居るのか解らないし、
 もしかしたら崩落して身体にダメージがあるかもしれない。
 誰かが悪戯で仕掛けたボウガンなんてあったりするかもしれない。
 お化けが出るかもしれないし、ホームレスが住んでいるかもしれない。
 その辺りをひっくるめて、
 未知の攻撃をされるかもしれないという所に怖さを抱くんだろうね」
「へえー。改めて考えてみると面白いわね。
 自分が怖いと思ったものを突き詰めていくと、
 怖いという事にも色々あるんだね。
 ね、ペネトレ。怖さを失くそうとしたらどうすればいいの?」
「怖さを失くしたいのかい。それは結構難しいだろうね。
 そもそも怖さっていうのは最初に話したとおり、
 生命を守る為の防衛本能だからね。
 でも思考実験として考えてみるのは悪くないかもね」
「まずは『痛覚に対する恐れ』よね。
 これは痛いという事を失くしちゃえばいいのよね」
「そう。ファンタジーを含めて物理的に考えたとしたら、
 凄く丈夫な全身を包むバリアなんて張っていたらいいかもね。
 あらゆる攻撃も跳ね返すみたいな。
 肉体的に言ってみれば、痛覚を削除してしまえばいい。
 例えばモルヒネなりの薬物に頼っても良いだろうし、
 ロボトミー手術などで痛覚を消し去ってしまうなんてのも効果的だ」
「身体に悪そうねー」 
「そりゃそうさ。
 で、これでまず痛みを感じない身体が出来ましたー。
 ロボトミーソフィーは痛みを感じません。
 手足を引き千切られても痛くも痒くもありません。
 あらゆる攻撃も跳ね返します。核爆発が起きても平気ですっと」
「なんであたしなのよう。まあいいわよ。
 これでゴキブリや毛虫やハチは怖くなくなったのね」
「虫どころか、宇宙人が来ても大丈夫さ」
「じゃあ殺人犯も大丈夫ね。次に『未知に対する恐れ』よね」
「でもこの状態のソフィーだったら、どんな敵が来ても大丈夫なんだよ?」
「あ、そうか。って事は『未知に対する恐れ』も自然に消えるって事ね」
「この段階ではね」
「何よその含みのある言い方はー。
 じゃあ次の『喪失に対する恐れ』に行こっか」
「バリアとロボトミーの無敵状態ソフィーだったら、
 手足を奪われたり目を潰されたりする心配は無いよね。
 財産や物品だけど、これは逆説的に考えると解り易いかもね。
 つまり喪失する事が怖いとしたら、喪失する財産を持たなきゃいいんだ」
「…そうきたかー!
 ってでもそれじゃあ意味無いじゃないー。
 あたし3DSは持って居たいんだけどー」
「単なる思考実験じゃないかー。
 財産も何も持たないし、
 職場も親族も友人も恋人も含めたあらゆる人間関係も持たないとする。
 だとしたら失うものって無いよね?」
「寂し過ぎるけど、確かに失うものは何も無いわね。
 って事は、『喪失に対する恐れ』が消えるって事ね…。
 でもここまでやらないと怖さが消えないとなると、
 難し過ぎて現実的じゃあないわね」
「そりゃあそうさ。
 怖さという感情だって、喜びや嬉しさといった感情と同様、
 人が楽しさを感じながら生きていく為には必要不可欠なんだ。
 改めて考えてみると、死はこの三重奏なんだ。
 命を喪失し、その先は未知であり、恐らく痛みを被るという」
「……」
「だから死ぬという事は、怖くて仕方無いのは当たり前なんだよ」
「なるほどねー」

(でももっと怖いのは、死んだその先の事なんだよね)
ペネトレはソフィーの無邪気な笑顔を眺めながら、
この辺りの話をいつ聞かせてあげようかと胸にしまうのでした。