こちらは梅雨がないのですっかり夏です。
Tシャツと短パンで出社しています。エアコンがないのでそのような工夫が必要です。

またDIYで箱を作ってます。だいぶ手際が良くなりました。このように大理石の平らな石板に置いて隙間ができないようにカンナで調整するとがたつきが無くなります。こんなことするのはDIYでは聞いたことが無いですね。

二つ続けて作りました。そのほうが効率が良いです。

道具が整理されるだけでなく時には箱を机の上に置いて作業することもできます。使うごとに箱に戻せば道具で机の上がいっぱいになってしまうことを防げるでしょう。
先日は十代の生徒が課題か何かでインタビューに来ました。
全くの素人に急に専門的なことを言ったりしてもいけないし難しいものです。師匠が受け答えをしていましたが、私も時々補足していました。
木材は何の木を使うのかからはじまっていつもの疑問です。
私がやっているオールド楽器のコピーを作っていることに興味を持っていて「似た音になるのか?」とか「良い音になるのか?」という質問をしていました。
これに関して言えることは、似てる面もあるし似てない面もあるということです。
私はいかにも現代の新作というものに比べればオールド楽器の雰囲気は出せるともいます。方向性は似てると言えるでしょう。
良い音になるか?となると定義するのは不可能です。何が良い音なのかについて決まりはありません。
「現代の楽器よりオールド楽器のほうが音が良いのか?」も聞いていましたが、同様の理由で現代の楽器のほうが好きという人がいたとしても「あなたは間違っています」と言うわけにもいきません。
「古い楽器が高値で取引されています」と言うことはできます。また「スター演奏家はほとんどみな古い楽器を使っています」と言うこともできるでしょう。
これらのことを合わせれば古い楽器のほうが音が良いと考えられているとはいえるでしょう。「考えている」というのは思い込みかもしれません。考えるだけなら、現代の楽器のほうが音が良いと考えることもできます。スター演奏家も現代の楽器をすべて試奏したうえでオールド楽器を使っているわけはありません。プロの人や教師でも現代の楽器の愛好家はいます。
全くの素人に説明するにはややこしすぎます、どうすべきでしょうか?
弦楽器の演奏とは縁のない人が観光で見かけて工房を覗きに来たくらいなら、「古いワインのように古い楽器には独特の音色がある」とでも言えば分かった気になって帰っていくでしょうか?
理系的な趣向の人には木材が化学的に変質し、使い込まれることで物理的に変化が起き音量が増大すると説明すれば期待通りの答えを得られるかもしれません。
喜ばれるにはその人が期待する答えを与えることです。
それに対して専門家として答えるなら音については語らないのが一番責任のある態度です。古い楽器に関する専門書がたくさんありますが音については書いてありません。言葉にすることができないからです。音について語ることは業界のタブーなのです。音について客観的に言葉で評価を定めることはもちろん数値化もできないのですから、当然音を値段の数字に反映させることはできません。音で値段が決まっているわけではありません。
正しく言えばそうなんだけど、それじゃあ疑問の答えになりません。新聞やテレビ、雑誌のようなメディアの記者ならそんなことは知らないので、画期的に音が改善する方法を発見したとかオールド楽器の音が良い秘密が分かったというような記事が毎年出てきます。でもメディアで終わりで弦楽器業界でまともに受け止めることはありません。メディアの対象は弦楽器を手にすることもないような人たちだからです。
私が古い楽器と新しい楽器のどちらの音が良いかという問いかけに答えるならいつものようにそれだけで大量の文章になってしまいます。簡単に答えるのは難しいです。
①オールド楽器と現代の楽器では作りが違うためもともとの音が違う
➁楽器が古くなることで音が変化する
③これらを合わせるとオールド楽器と現代の楽器では音が違う、どちらが良いかはその人の価値判断
オールド楽器のコピーでは①の作りの違いについて近づけることができるが➁の古くなった変化は再現できません。そのためコピーでは古い楽器と典型的な現代の楽器の中間的な音のものができる可能性があります。
例外が沢山あります。その説明がクレジットカードの契約書のようにずっと続きます。オールド楽器でもいろいろな作りのものがありいろいろな音のものがあります。現代の楽器もそうです。何と何を比べるのかによって違います。
楽器を手にしない人にとっては究極的な話になりますが、あらゆる楽器を試した人なんていません。実際に楽器を購入するなら同じ予算の中で買える楽器での比較となります。弾く人によってどうだとか、考え出したらきりがないです。
学校の課題は聞いたことを書けばそれでいいのでしょう。職人がこう言っていたと発表すればクリアーだと思います。
ニスのことも聞いていました。「ニスで音が違うのか?」という質問です。ニスには高級品にはオイルニスとアルコールニスを用い、安価な量産品にはラッカーやアクリルのニスが使われます。という知識だけでも十分だと思います。
どっかで聞きかじっていれば名器の音の秘密がニスにあるといううわさを知っているかもしれません。
これもいつもある質問で、ニスによって音に違いはあります。ただし、オールドの名器はほとんどニスがはげ落ちているためニスのおかげだというのは難しいでしょう。後の時代の「巨匠」でも何でもない職人が修理のために剥げた所を補ったり、保護をするために全体にニスを塗ったりしています。それで音が台無しにはなっていません。
それに対して表面のニスははがれても、木材に浸み込んでいるものがあるんじゃないかと考えるでしょう。私はいろいろな材質のものを試したことがありますが、音が特別良かったことも悪かったこともありませんでした。あまり影響がないと思います。浸みこんだ成分も風化してボロボロでしょう。
それに対して新品の楽器では厚くニスが塗られているので音への影響は明らかにあります。
その時作業がしやすい方法をとっていたのだと思います。今ならサンドペーパーがありますが昔は無くて、もしも石の粉で木の表面を磨いていれば木材の内部に石の成分が含まれているかもしれません。その成分を顕微鏡で見つけて「音が良い秘密を発見した!」というのは飛躍しています。電子顕微鏡を使っていると一見科学的なように思えますが、成分が見つかったことと音響との関係性は証明していません。
ここでも音については語らないことが一番間違いがありません。
よく言われてきた勘違いについては言えるでしょう。
私が聞かされてきたのは、ニスは柔らかいほうが振動を妨げないので良いというものでした。このようなことは同業者の間でも本気で話しているのを聞くことがあります。
そもそも「硬いニスは振動を妨げるので音が悪くなる」ということについて私は疑問があります。というのは私は柔らかいニスを使っていた時がありますが別に音が特別良かったことはありませんでした。様々な分野で振動や騒音を抑えるのにゴムが使われることがあります。ゴムは柔らかい素材ですが振動は吸収します。洗濯機の脚をゴムの上に置けば静かになります。それに対して金属のようなものは叩くと耳を突くようなキーンと鋭い音がします。硬いのにです。
さらに材質の硬さについて勘違いしている意見を聞きます。
例えばアルコールニスの場合、アルコールに溶ける天然の材料はみな柔らかいものです。そもそも硬いものは溶けません。それなのに「この材料は硬いから音に良くないので使ってはいけない」と教わったものです。ニスの材料について本を書いた人物は材料の専門家であって楽器のニスの専門家ではないです。楽器にした時に硬いのか柔らかいのかは考えていません。楽器業者が書いても辞書的に材料辞典のような本から写しただけです。
私はニスのサンプルを塗ってみて金属のものでひっかいたり、薄い板に塗って板を曲げて弾力を調べたりしています。感覚的なものですが、「本に書いてあるから」と信じるよりははるかにましです。
それで言うと以前より硬いニスを使っていますが音は強くなり響きも豊かになりました。それでも天然樹脂ではそれほど硬いものができません。硬い材料はガラスのようにもろいものでぶつけたりすれば表面がボコッとへこんでバリンとニスが割れてしまいます。そういう意味ではゴムのようにへこみが戻るほうが楽器を保護する性能に優れていると言えます。ただし消しゴムのようにこすれて減っていくようではニス自体が弱すぎます。
硬い材料はもろくてあやういので弾力のあるものを混ぜて使うべきだと言うつもりで本には書いてあるのを、硬いと音が悪いので柔らかいものを混ぜるべきと勘違いしているのです。
私の楽器で良い結果を得られたニスを別の人が作った楽器に塗ったら耳障りな嫌な音になってしまいました。合うか合わないかの問題も大きいです。
人工樹脂ならずっと硬くて丈夫なものができます。そのため天然樹脂のニスはあらゆる産業で使われなくなりました。扱いに慣れていない初心者や子供が使う楽器ではそのようなものが適しています。そこまでくれば硬さが問題になることもあるかもしれません。ポリッシュマシーンで磨き上げるとなるとニスが薄ければ被膜が削り取られてなくなってしまいますからスプレーで分厚く吹き付けるわけです。硬いニスで分厚い層になればさすがに音に影響があるでしょう。
「オイルニスは柔らかいので音が良い」というのはおかしいです。オイルニスはアルコールニスよりも硬い樹脂を溶かすことができます。アルコールニスよりも硬いニスを作ることができます。
ただし硬い樹脂を溶かすには特別な知識が必要で、単に溶剤で溶かすだけなら柔らかい樹脂しか溶けません。このようにして作られたオイルニスはとても柔らかいものです。それを言った人はこの製法のオイルニスのことを言っているのだと思います。その時代その地域ではオイルニスは柔らかいものしか作れなかったのです。油絵の画材の本に書いてある知識ではそのようなものばかりです。
しかし技術は右肩が上がりに進歩するものではなく、すでに古代エジプトでは硬いニスが作れたかもしません。ルネサンスの頃には硬い樹脂を溶かす方法を知っていて画家も使っていたでしょう。失われた技術で現代の人が知らないだけです。
人工樹脂でも柔軟な成分を混ぜれば柔らかいものが作れます。アクリルニスは戦時中日本に天然ゴムの産地が抑えられて入手が困難になったゴムをアメリカで人工的に作る研究がもとになっています。そのような製品には弾力に富んだものがあります。したがってオイルニスだから柔らかいので音が良いとかそういうことは言えません。オイルニスは必ずしも柔らかくないし、柔らかいから音が良いということもありません。何一つ合っていません。これが専門家の間で正しい知識として語られているのです。
こうなるので音のしくみについては語らないのが一番間違いが少ないです。弾いて自分の耳で試してみてください。聴覚にはかなり個人差があり好みも人によって違います。音が良いとか悪いとかを決めることはできません。
こんな答えでは弦楽器の音に興味を持ってもがっかりすることになります。
申し訳ないですね。
その子は、師匠に「あなたはどんな音が好きですか?」と聞いていました。暗い音で柔らかく、遠鳴りする音が好きだと答えていました。まさに私の作る楽器の音です。
師匠のために楽器を作るのではなくて、使う人のために作るべきですが、それも悪くないでしょう。私はほかのユーザーの希望にもこたえられるように研究は続けていきます。
そんな課題があることも面白いです。
自由研究などは日本でもありますが、専門家に取材する課題なんて私は日本で育ってやったことがありません。
うちの会社の初代の職人の楽器がよくもどってきます。


今回は初期のもので1940年代のものは私もめったに見たことがありません。古くなっていることもあって見た目の雰囲気は良いです。こういうのを見ると余計なことをしなくてもいいなと思います。赤や黄色のような鮮やかな色は退色して褪せています。木材も黒ずんできています。その結果琥珀色になってきます。イタリアのモダン楽器と同じです。彼らが特別なことをしていたのではなくて新作でよくあるようなオレンジ色のニスを塗ってあれば100年もすれば琥珀色になってくるのです。300年もすればクレモナの名器のような黄金色です。
このような琥珀色や黄金色をイタリアのニスと勘違いしてしまいますが、汚れが重要な役割を果たしています。何百回イタリアの名器を眺めていても分からないことですが、アンティーク塗装でコピーを作ってみるとそれが汚れであることが分かります。現代のものと同じオレンジ色のニスに汚れが付けば色が濃くなって「燃えるような赤いニス」となり黄色いものに汚れが付けば黄金色になります。
つまり黄金色のニスとは汚くなっているだけです。
初代の職人はそのあとの時代に楽器用のニスメーカーによって市販されているニスを使ったようです。これ自体は大きな産地ではよくあったことでフランスの楽器のニスが酷似しているのもニスメーカーがあったからかもしれません。現代でも市販されています。自家製のニスのほうがかえって品質が悪いものがあります。そういう楽器を買って苦労されている方もいます。私も失敗作で胃が痛くなるようなことがありました。ニスは本当に硬くなるには数年かかります。乾くのが遅いだけなら何とかなりますが100年経っても指紋の跡がつくようなニスの楽器があります。
初代の職人ですが、人工的な色素もニスに使うようになったのだと思います。色はひどく退色しているものがあり緑色っぽくなっているものもあります。木材も人工的な染料で着色してありわざとらしいものです。仕事も大雑把になり独特の雰囲気になります。師匠に習った時から徐々に自分のスタイルに変化していったのです。職人が少なかったうえに戦後のベビーブームや経済成長で大量の楽器の重要があったのでしょう。比較的安価なものも作っていたようです。それにしても自分の工房にこもって製作ばかりして他の楽器を見ていないといつの間にか感覚が変わっていることに気づかないでしょう。
初期のもののほうが職人から見ると良い楽器に見えます。音はいずれも力強いもので我々は全くかないません。ニスは人工的なものが含まれているのか硬いものが多くメンテナンスが楽で助かります。音は力強いわけですから硬いニスは振動を妨げて音が悪いというのが嘘であることは日ごろから思い知らされています。
初代の職人のさらに師匠の楽器も知っていますが、それほど鳴りません。その人のほうが年代が古く、はるかに有名で値段も高いのにです。コレクターのようなお客さん向きです。
初代の職人の楽器も、音が強いだけがすべてではありませんので必ずしも理想的なものとは言えません。
こんな事もあるので私はうぬぼれたりはしません。
自分を世界一だと思っている頭のおかしい職人がいるものです。
自分の町で一番にもなれません。
オールドの時代にも味のある音の楽器が作られ、モダンにはとりわけ強い音の楽器が作られました。肩を並べることができれば満足です。
師匠は楽器には個性があるということを説明していました。一人一人の人間が違うように楽器もみな違います。同じ人が作ったのならある程度類似性はあるでしょう。しかしそれが良いとか悪いとか決めるのは難しいです。使うほうも個性があります。それが合うかどうかが重要です。
材料のチョイスであったり、作り方だったりそういうものは職人それぞれ考え方があります。話を聞けばみな持論を熱弁するでしょう。カリスマ的なオーラや熱意、また人柄の良さに心酔してし信じてしまうのは危険です。理屈ではなく弾いてみて自分に合うものを選ぶべきだと思います。
別に個性を出そうとしてしのぎを削っているわけではありませんし、見事な個性だと評価されるわけでもありません。なぜか楽器は弾いてみると皆音が違うという意味です。細工も人によって違います。自分の好みもあるし師匠の影響もあるでしょう。一人一人の人が違うように楽器も違うのです。友達と過ごすなら気の合う人が良いでしょう。世界一の偉人である必要はありません。
このためどこの誰の作ったものに「運命の愛器」があるかはわかりません。