こんにちはガリッポです。
1月の日本での試奏ですが日にちは決まってきました。これまでにない人数で手間取ってしまい皆さんにはご迷惑をかけています。何しろ職人なものですから、このような作業は全くの素人です。
クリスマスは祝日で、日本で言うと大みそかやお正月のようなものです。忙しい時期でしたのではかどりませんでした。
具体的な時間や集合場所を時期が近い順番に決めていきます。
弓については皆さん良い弓があれば試してみたいところでしょうが、持って行ける本数が限られているので現実的に弓を探している方の価格帯に集中させたいと思います。チェロ弓は1本くらいは用意したいと思います。
弓については当ブログでは私が弓職人ではないので多くは語ってきませんでした。弓職人の難しさは本人に語ってもらうしかありませんが、戦前までは工場のように弓の製造に特化しどんどん作っていたようです。機械も蒸気機関を各部屋の天井に付けられた滑車に伝達していたようです。旋盤のような機械は弓作りでは欠かせないものです。
しかし多くは手作業でたくさんの従業員を雇っていました。彼らがまた弓職人として経営者になります。ヴァイオリンと同じように弓職人も憶えきれないほどの人がいて有名な人はごく一部です。
フランスのミルクールやパリ、ドイツのザクセン州は工場がいくつもありました。ヴァイオリン本体に比べると産地は限定されています。
現在は大量生産する工場と大都市に工房を構える弓職人に2分しているでしょう。大量に生産している弓は日本でもおなじみでいつでも入手できるのは輸出用にそれだけの本数を作っているからです。製品にはランクがあって同じメーカー名でも星印みたいなものが付いていてランクを表していたりします。金属部分の材質が500円玉に使う洋白という合金、銀、金によってもランクの違いが表されています。
それに対して個人規模でやっているような人がいます。お客さんは新しい弓に興味を示さない事が多く、修理や売買、鑑定などが重要な仕事になっています。いかに製作に精進してもお客さんに期待されていないのはヴァイオリンと同じです。
ヴァイオリン工房でも毛替えや簡単な修理はやっていますが、特殊な修理はやはり弓職人に依頼することになります。
そのためかつての産地に比べると、知識が豊富で様々な流派の弓を研究しているのがメリットとなります。もはや流派のスタイルではなく自分で研究したスタイルになっていることもあり戦後の作者でもプロの演奏家に愛用されているものがあります。うちのお客さんでもプロのヴァイオリン奏者やプロオケのコンサートマスターでも愛用している人がいます。値段は30万円もしません。
戦前の弓はいくつか有名な職人の会社の製品があり、他の工場でもそれに迫る品質のものがありました。下請けとしてそれらの会社に弓を供給していた「ゴーストライター」のような職人のものは30万円くらいのものでも、焼印が変わると50万円くらいになることもあります。
弓でも知名度が値段には重要で、誰の弟子だとかどこで修業したかとかも重要な要素です。しかし先ほどの説明のようにたくさんの従業員を雇っていたのですから、単純作業や雑用だけをしていたのか、仕上げまで任されていたのかはわかりません。
私は弓の専門家ではないので鑑定なんてのは全くできません。当時から有名だったメーカーならニセモノもあります。無名メーカーで品質が良ければお買い得です。鑑定は楽器店の店員が「○○だと思う」では意味がありません。権威のある鑑定士の一筆が重要です。
いずれにしても手に取ってみてしっくりくるものを見つけるしかありません。ヴァイオリンと同じです。
プロの方だと何本も持っていて音楽によって使い分けるという人もいます。弓は古いもののほうが軽いものが多く新しくなるほど重くなる傾向があります。演奏者の間でも重めの弓のほうが力強いとして好まれる傾向が強いです。ミルクールと東ドイツならミルクールのほうが量産が始まった時代が古いのです。そうなると重さも違ってきますがあくまで使い手の好み次第です。
たとえば古典派のような音楽には軽い弓、ロマン派には重い弓、現代の曲にはカーボン弓のようにです。カーボンは素材として新しいからではなく、弓を傷めるような弾き方をする「斬新な曲」の場合です。
カーボンの弓は当初は軽くて持った時に違和感があり嫌われました。最近のものはプラスチックで固めてあり重さは木製のものと変わりません。安価な木製よりは質が良いとの意見もあります。
もちろん同じ時代でもいろいろなものがありますから必ずしも重さが時代によって決まっているということはありません。
ここでも数字にこだわる人がいて精密な秤で何グラムかという数字に執着する人がいます。しかし重心が違えば持った感じで重さは違って感じます。その人は自分の頭の中で決めた数字が欲しい人です。
弓こそしっくりくるものを手に取って選ぶもので値段や名前で選ぶものではありません。
弓を作るのに比べてヴァイオリンを作るのは少なくとも5倍以上の時間がかかります。
通常ヴァイオリン弓なら20~30万円も出せば立派な職人によるものです。5万円以下のものではバタバタ暴れて演奏が困難なものもあります。初心者がこのようなものを使うと余計に難しいです。
我々からすればヴァイオリンの5分の一くらいの値段が弓の値段として妥当だと思いますが、演奏者にとっては少しでも弾きやすいものを使いたいのでもっと高いものを求めたくなるものです。際限がありません。
私はヴァイオリン職人だからかもしれませんがまず良いヴァイオリンを選ぶことが弓選びを容易にすると思います。
今年を振り返ってもあまり思い出しません。職人の仕事をしていると作業に集中していてすぐに時間が過ぎてしまいます。チェロの修理を始めれば1か月や2か月はあっという間です。前回は3月、4月に休暇を取ったのですぐに夏になり、そうかと思えばもうこんな時期です。チェロのために作業台を作り材料を集め、どんなものしようか考えているだけでもう終わりです。その間前に作ったヴァイオリンの修理や改造もありました。
チェロは古い量産品を改造したり、新しい工場製品を改造するような作業を3本もこなしました。
皆同じような傾向になりました。ミルクール、ザクセン、新品です。
量産品と比べるとやはり音の違いははっきり分かります。
聞いている立場になりますが私の個人的な印象では、量産品はチェロの本体のところから音が出ているような感じがするのに対して、改造したものは音がチェロから抜け出て自由に空間に広がって行く感じがします。広いホールではより顕著な差になるでしょう。幽体離脱のような感じです。
幽霊みたいな音という表現は聞いたことがありませんが私はそう感じます。量産品では音が楽器にへばりついて重たい感じがします。これは厚い板の楽器で感じる「重さ」とも通じると思います。
ザクセンの戦前のチェロはとても耳障りなものが多いです。
私が改造修理した結果、ザクセンのチェロとは思えないような穏やかな音になりました。ミルクールのチェロでも同様です。このあたりもいつも話している通りです。
うちの店には完全な修理をしていないミルクールのチェロがあって特に高音は金属的な音がするものがあります。名門オケのチェロ奏者の方が自身のチェロを修理している間貸していました。その人のチェロは現代の見事に作られたもので、その人が弾けば現代のチェロのほうが耳障りな音は無く音量に関しても優れているように聞こえます。
先日は外国からの短期の留学生がレッスンを受けるためにチェロを借りたいということで店にあるものをいろいろ試していました。私が修理したようなチェロでは音が弱すぎて、金属的な音のするミルクールのチェロを選んでいました。
留学生にとっては一番音量があると気に入ったチェロは、名門オケのチェロ奏者が弾くと大したものでは無いということを私は知っています。このように評価はさまざまになります。私が改造した結果良くなったという人もいれば改造する前の金属的な音のほうが良いと評価する人もいるのです。
また別の方はアマチュアで何を弾いても金属的な鋭い音がします。
量産チェロをいろいろ試していましたがどれも鋭い音でした。そこで私が改造した新品のものを試すと一番気に入っていました。しかし値段が予算をオーバーしてしまいました。
私が改造した新品のものと、戦前のザクセンの量産品を改造したものを比べると、古いチェロのほうが音に鋭さがあります。とはいえザクセンのチェロとしては嫌な音ではなくて音に角があって手応えがあるように感じます。一番音が丸くて柔らかいのは新品の方です。
私の同僚のチェロを弾く職人は新品の方をいたく気に入っていました。
たくさんの楽器を知っている者からすると素性の良い楽器だと見抜いているようです。数十年も弾きこめばずっとよく鳴るようになるはずです。全くの新品の時点でもそんなに悪くは無いと思いますが学生では見抜くは難しいでしょう。
音の明るさについても語ってきています。
板の厚みと相関関係があるというもので、厚い板では明るい音、薄い板では暗い音になるというものです。
同じメーカーのかなり安価な量産品のチェロとヴァイオリンをしばらく前に仕入れました。見た目は量産品としては悪くない物でしたが持ってみると重いのです。やはり測ってみると板が厚いのです。仕上がってみてヴァイオリンの方は私が弾くと子供用のヴァイオリンのようでガッカリしました。弾いた感じが小さな楽器に感じます。楽器全体が響かず小さな楽器のようです。
チェロは同僚が弾きましたが、音の出方は量産品の中でも重いものです。明るい音さえも出てこない感じでした。結果的には厚い板でも明るい音にはなっていません。このようなことはこれまでもありました。
そういう意味では明るい音の楽器はそれよりは一段階上のレベルだと言えるのかもしれません。
またある中古のヴァイオリンは見た目は悪くないものでした。
しかしまたまた持ってみると重いのです。
特に重量物が胴体の上端と下端にあるように感じます。厚みをマグネットのはかりで測ってみると表板はまあ現代としては普通くらいのものです。裏板は中央が4mm強でこれも特に厚くはありません。通常は中央が一番厚くなっているものですが、このヴァイオリンではどこに行っても4mm程度の厚みがありました。
持った時の印象がはっきり数字で出ました。
とても残念なヴァイオリンです。
製造するときに裏板をちゃんと最後まで削らなかったのです。
当時は開けずに厚みを測る道具もなく、バレなかったのでした。
今から改造するとなると結構な手間がかかりますから東欧で作られた新しい楽器を買ったほうが安いように思います。
あと半日作業を続けていれば文句の無いヴァイオリンになったのですからもったいないものです。分業でそればかりやっているなら半日も要らないでしょう。
数時間をケチった結果使い物にならない楽器になってしまいました。
売ろうとしても店頭に何年もずっと残っていることでしょう、数時間ケチったせいで何年も店頭に眠ることになるのです。間違って買ってしまう人も気の毒です。
軽いほど音が良いという事ではありません。そのような誤解がカーボン製の魂柱など意味が分からないものが作られる原因です。
最後まで仕上げていなくて板が極端に厚すぎるものは重いというだけです。
私もこのようなブログを始めて、皆さんに確かなことを伝えるために責任感を持つようになりました。
量産品は初めからバカにして本当に音が悪いかどうかは考えもしなかったものです。職人は師匠から教えを受けているので、その基準に達していない量産品は初めからダメだと決めつけているのです。しかし個々の楽器にもっと興味を持つようになりました。勉強になります。
しばらくブログはお休みにします。
2019年2月からまた再開します。
今年も贔屓にしていただいてありがとうございました。