日本でのチェロの修理 その4 | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

修理の結果、音がどうなったか持ち主の方の報告を紹介します。


こんにちは、ガリッポです。

こんなに小さなパワーショベルがあるんだと日本で撮った写真です。おもちゃじゃなくて仕事に使うものです。庭師の道具なのでしょうけどもいろいろな道具があるものですね。


ミルクールのチェロについて書いてきましたが、先週もミルクールの量産チェロが修理調整のために来ていました。1898年製のBretonというメーカーのもので量産品としてはよく見るものです。

このチェロの厚みを調べてみると広い範囲で表板も裏板も5.5mm位あります。エッジ付近は薄くなっていますがそれ以外がどこもかしこも同じくらいの厚さなのでおそらくプレスではないかと思います。プレスでは8mmとかの厚さにはできないようです。5.5mmなら裏板の中央も弦の力を支えられないほど薄いということもありません。ただし力は分散しないでしょう。
スクロールのクオリティは紹介しているものと変わらない感じですが、胴体のほうはちょっとクオリティが落ちる感じがします。
ニスは匂いの感じではラッカーではないように思います。もちろん高級なフランスの楽器に使われるようなものではありません。色は鮮やかなオレンジ色ではなく褪せたような色です。

一番重要なことはほとんどのところが5.5mmのプレスのチェロの音がどうかということです。

工房で持ち主が弾いているのを聞いている感じではこれがプレスかどうかははっきりはわかりません。すごく心地よい音ではありませんが変な音というほどおかしくはありません。あらかじめ板の厚さを測ってしまったので私に先入観があるのかもしれませんが木箱のような感じがします。もちろん皆さんにはわからない表現でしょう。それくらい感じ方は微妙です。

分かる人には全く違うものとして分かるかもしれません、こんなものはまともなチェロではないと。しかし単に音が出るということで言うと決して音が小さいということもありません。低音も強さがあります。高音も心地よくは無いですがひどく耳障りということもありません。低音は深いものではなく同時に多くの倍音が出ているように思います。低音と同時にそれより高い音も一緒に鳴っている感じがします、それでボリューム感が得られているのではないかと思います。
これは私特有の分析的な聞き方で一般の人とは違う聞き方かもしれません。持ち主の方はそれがプレスだとは知らないでしょうから気にしたこともないでしょう。

私の好みだと好きではないということは言えるかもしれませんが、プレスは音が良くないとか買うべきではないと誰に対しても言い切れるほどではないように思います。一方削り出しの楽器でももっとひどいものはたくさんあると思います。

楽器の作りの違いは言うほど結果として出て来る音については決定的ではないということです。


他にもこのような例がありました。
私は以前ドイツのオールドヴァイオリンとしては珍しい平らなアーチのブッフシュテッターのものを紹介しました。二つのブッブシュテッターとゲオルグ・クロッツと比べると一つのブッフシュテッターとクロッツの音がよく似ているという話でした。クロッツはドイツの古典的なオールド楽器です。さらに同僚の話によるとヴィドハルムというとくにアーチのぷっくりと膨らんだドイツのオールドヴァイオリンと別のブッフシュテッターの音がよく似ていたそうです。
明らかにアーチの構造が違うのに音は似ているというのですからわけがわかりません。オールド楽器の場合状態も違えばなされた修理も違います。そうなると構造の違いなどはよくわからなくなってしまうということです。ストラディバリやデルジェズにもフラットなものや膨らんだアーチのものがあります。特定のものが低い評価になっているということはありません。

平らなアーチが良いのか膨らんだアーチが良いのかも弾く人によるだけではなく個々の楽器によるということもあります。やはり弾く前に決めつけてしまわないことが重要です。


相性や好みというのはあってその人にとっては絶対にAの楽器が優れていると思えても、別の人にとってはBの楽器のほうが絶対に優れているという風に感じることがあります。この場合、我々としてはどちらも「良い楽器」と考えます。私がどちらかが良いと思っても私の好みにすぎません。どちらが好みか弾いた人の意見を聞きます。「あなたはこちらがお好みですね」となるだけです。
お店としてはいろいろなものを取りそろえているのが理想です。
またはっきり社長や店主の好みが仕入れに現れている店もあるでしょう。その場合は自分の好みに合う店を選ぶことが重要です。

私が楽器を作る場合に構造を変えても全く正反対の性格のものにすることはできません。好みに合う人にしか合わないのです。
しかし商売する場合客を逃すことになるので、あたかも誰にとっても優れたものであるかのように営業をかけるでしょう。意図的にそうするのではなく自分の感じ方が世界中誰でも同じだと信じて疑わない人も少なくないと思います。

初心者や自分の好みを分かっていない人にとってもそうやって言ってくれると買い物は簡単に終わります。楽器に凝りたくないという人は鵜呑みにして終わりということですね。



ブログを見てくれている皆さんのうち、まったく私と同じような好みの人なら、もっと私の主観ではっきりものを言えば共感が持てるでしょうが、私の好みとは違う趣向の人もいるということを念頭に置いておかなくてはいけません。


楽器に限らないことです。
何かの製品で詳しい人にどれを買ったらいいですか?なんて質問をすると
「あなたが何を求めているかによって違ってくるので答えられません」となります。それに対して「そんなの分からないから『良いやつ』を教えてくれ」と思うわけです。定番の高級品を教わって、買ったら家族などに「これは何だか知らないけど『良いやつ』らしいんだぞ」と見せるわけです。一生詳しい人にはならないタイプです。「世界的に評価の高い巨匠の作品だ」と分かっていないのに分かった気になっているのも同じことです。


まだ製造法が確立していない生まれたばかりの産業分野ならあのメーカーが優れているということもあるかもしれませんが、それがヒットすれば他のメーカーも同じような製品を作ってきます。後発のメーカーはより性能が良いもので対抗してきます。そうなると「あなたが何を求めているかによって違ってくるので答えられません」となります。


弦楽器も4~500年前からあるもので修行すれば誰でも立派な楽器を作ることができます。弦楽器が難しいところは意図的に音を作り出すことです。

そのため「あなたが何を求めているか」が分かってもじゃあこのメーカーですよと言うわけにはいきません。


どの楽器も同じ材木を使い、同じ方式で作られています。スライド式とか回転式のような違いは無く、表板を開けても全く違う仕組みになっているものは無く違いは加工の品質が高いか低いかだけです。品質が高ければ上等なものだと私たちは考えますが、音に関しては考慮に入れません。なぜかと言えば見ても音は分からないからです。

作者やメーカーも音に関して特定のねらいをもって楽器を作ってないものがほとんどです。こういう音が売れるから作るというものではありません。それしか作り方を知らないのでそう作っていてたまたま売れたり売れなかったりするということです。

製造国の国民性などは音に現れません。仮にその国の人たちが特定の音の好みを持っていてもそれをメーカーは作ることができていないのです。

このようなことは誰からも教わることは無いので私も初めは国ごとに独特の音があるんじゃないかと考えていました。国ごとのオーケストラの響きなんてことはクラシック通によって語られることもあります。
しかし楽器の製造に関してこれは経験によって正しくないことが分かってきました。弦楽器製作の世界にはそんなに高度な技術がありません。

男性用や女性用というのもありません。ビオラのようなものなら体格に合わせてサイズを選ぶわけですが、大柄な女性もいれば小柄な男性もいますから単に体格の問題です。
音の好みなどで女性用として作られてあるものもありませんし、お客さんを見ていても男女で特定の音を好むということもありません。

産業として原始的であるということですね。

それに対して私はかなり特徴のある楽器を作るようになってきています。自由自在にどんな音の楽器でも作れるようになりたいと私は思っていました。多くの人はそのような事すら目指しません。自分が知っている作り方を「正しい作り方」と信じて作り方を変えないからです。
チャレンジしたことのある人にしかわからないと思いますが弦楽器製作の実際のところでは砂糖を増やして甘くしたり塩を増やしてしょっぱくしたりという調整ができないのです。作ってみて出来上がったらこんな音になったというだけです。
私の場合にはオールド楽器と同じようなものを作ってみたらオールド楽器のような音の楽器ができたというだけで、どうしてそういう音になっているのかはよくわかりません。

唯一分かるのは板の厚みです。
薄くすれば低い音が出やすくなるというそれだけです。
それすら全く知られていなくてどこの本にも書かれていませんし、ヴァイオリン製作学校や師匠からも教わったことはありませんでした。私が実験や観察によって導き出したものです。

私の作る楽器の場合にははっきり音の共通性がありヴァイオリンでもチェロでも同じです。しかし他の職人の楽器に比べて群を抜いて優れいてるということはできません。

詳しい人ほど特定のものだけが優れいているとは言わないはずです。

弦を張ってみました


はじいてみてもC線の一番低い音が相対的に出にくいなと感じました。ちょっとずつ上げていくとあるところからボーン!!と出だすのです。板を薄くしたので低い音が出やすくなっているはずですが「もっと薄くするべきだったかな?」と心配になりました。そのボーン!!すら以前は無かったはずですから改造して低音が良くなったと言えるでしょう。ピアノでも一番低い音は聞こえづらいのてチェロという楽器の限界かなとも考えました。長めの魂柱をきつく入れてあったのでそれをちょっと短くゆるくしたりして半日くらいああでもないこうでもないとやっていたらウソのように段差は感じなくなりました。
なぜ段差がなくなったのかもよくわかりません。私は運だと思います。

あとは持ち主の方に不満があれが何とかしようというところです。


大掛かりな修理が終わった後は楽器の特性が著しく変わるので、新しい楽器を買ったときのように使いこなしを探って行かなくてはいけません。以前紹介したカルカッシのラベルの付いたオールドヴァイオリンの修理で持ち主の方は楽器を受け取ったその週末のコンサートで使用しようと考えていたようです。

しかし思っていたのと楽器の音が違っていていひどく落胆されました。「音は強くなったけど台無しになってしまった」と言っていました。多くの場合は「音が強い=良い」と考えるので普通なら修理は成功です。

この人は音が分かる人でした、私もまずいなと思ったわけですが、その後異なる弦を試したところ非常に気に入ってもらえて修理以前よりも格段に良くなったと今では言っています。
修理はネックがグラグラしていたところを直してネックの角度も正しくしたものでした。それで健康的な状態になったわけです。グラグラのネックがしっかりついたので音が強くなったのでしょう。音の質としてはきつくなりすぎてしまったのです。そこで張りの強い弦からきめ細やかなものに変えてベストマッチになりました。

楽器の調整には小手先のマイナーなものから根本から見直すメジャーなものがあります。バスバーの交換やネックの角度を変えるのは楽器のフィッティングに関わる部分です。さらに板の厚さを変えるともなると根本から変更することになり大掛かりな修理になります。もっと大きな変化としては楽器自体を変えることです。したがって自分の使っている楽器の音が気に入らないとしても小手先の調整で満足するのか、大掛かりな修理や改造で良いのか?そもそも楽器自体を変える必要があるのか?考える必要があります。

当然メジャーな調整ほどお金がかかる代わりに効果も大きいものです。基本的に楽器自体は気に入っているけども、と言うのならマイナーな調整を行うべきです。状態が悪くて潜在能力が出ていないなら大掛かりな修理が必要で、全く自分の好みとは違う方向性なら楽器を変えるしかないということもあります。

メジャーな調整では効果は大きいですが細かくねらっていくことができません。全体として良い方向に向かったのならさらに微調整をして詰めていくことです。現実的には一度やってしまったらもとには戻せませんから嫌でも微調整を始めることになります。

ゴルフで言えば長いクラブほど遠くまで飛んで短いクラブで微調整するものです。一打目から短いクラブで始めるとなかなかカップに近づいていきません。
このような考え方はとても重要で、細かいことにこだわって全体を見落とす「木を見て森を見ず」という状態にマニアックな人ほど陥ってしまうのです。
あらゆる趣味の分野で木を見て森を見ずに陥っている人が上級者ぶって偉そうにしていますから。弦に関しては自分でも交換できるものなので異常にこだわりを持ってしまうことがあります。

魂柱の調整もあります。駒の交換を頼まれたときに、過去に職人に魂柱の位置の調整してもらったのでその位置から絶対に魂柱を動かさないでくれと言われたことがます。しかし駒の交換のほうが魂柱よりメジャーな調整になります。駒が変わればずいぶん音が変わるので過去に行った魂柱の調整などは無意味になります。もし駒を交換するときに魂柱が斜めになっていて外れそうなら真っ直ぐに直すべきです。駒の交換が終わってからもう一度魂柱を調整するべきなのです。



さっきのヴァイオリンの話に戻しますが職人としてはグラグラのネックは悪い状態、ガチッとしている方が健康な状態でより潜在能力は発揮されると考えます。そこに他のオールド楽器でいい結果を得られていたピラストロ社のエヴァ・ピラッツィ・ゴールドを同僚が薦めたのです。その結果は「音は強くなったけど台無しになった」というものでした。
他のオールド楽器でいい結果が出ていたので悪い弦ということはありません。しかしこの場合には合わなかったということです。

そこで最新のラーセンのイル・カノーネのソロイストを試すととても気に入ってもらえました。ソロイストとノーマルは他のメーカーで言うところのミディアムとストロングのようなものでソロイストのほうが強い張力だそうです。

私はエヴァ・ピラッツィ・ゴールドも同じような方向性を目指したように思いますがそれでも、人によってこうも反応が違うものです。
エヴァ・ピラッツィ・ゴールドは当たりはずれがかなりあるように思います。

弦メーカーは楽器メーカーと違ってかなり近代的になっています。かつては単にガットそのものの質でグレードの違いがあっただけでした。それがパッケージによって特定のキャラクターを持たせたものになりました。あるものは明るく輝かしく、別のものは暖かみがあり柔らかいものというようにです。
人工素材になるとさらに可能性は広がります。マーケティングで求められている音を分析して、新しい弦の試作品をたくさん作って演奏家にテストしてもらい製品化していることでしょう。試作品を我々も提供を受けたり、お客さんで未発売のものをテストしている最中の人もいます。好評だったのに生産化に至らなかったものもあります。製造上の問題があったのでしょう

それでも張ってみないと分からないものです。
「良い弦はどれですか?」と聞かれても楽器や弾く人によって違うので答えられないのです。

このように入念に製品開発される現代の弦ですが、一方で「人為的に作られている音」を不自然に思う人もいます。人気のある弦でも必ず「私は好きではない」と言う人がいるものです。そのためメーカーは協力している世界的に有名な音楽家が弦を絶賛するコメントをウェブサイトやカタログ資料、雑誌の広告などに乗せてアピールするわけです。

いずれにしてもまずは楽器自体を健康な状態にしておくことが重要でそれを微調整するために弦のチョイスなどをするのです。好きな弦に合わせてわざとネックをグラグラに改造するなんてことはしません。カチッとしたネックにあった弦を探すのです。


このように修理調整というのは大掛かりなものから始めて、微調整で詰めていくものです。自分の楽器で行った微調整を気に入って教え子などにもさせる先生がいますが根本から点検してから始める方が良いと思います。楽器によっては全く逆の調整が必要になるでしょう。しかしある弦を使って上手く行ったという経験があると全く症状が違う楽器にも同じ調整法を施そうとするのです。

同様にオールドの名器を使っている名演奏家が気に入った弦だとしても自分の楽器に合うとは限りません。楽器が違うからです。同じ作者の楽器を持っている人は参考にしても良いかもしれません。それでも二つと同じ楽器はありません。同じ楽器でも修理前後で合う弦が違うのですから。

オールド向きとか新作向きの弦というのもよくわかりません。
安価な楽器の場合にはやかましい音のものが多いのでそれを抑える方が良いでしょう。

オーナーからの報告です



丁寧に書いてもらってありがとうございました。少し恥ずかしいかもしれませんが抜粋して紹介させていただきます。

修理が終わってまず、見た目がきれいになっていることに驚かれたようです。掃除すべきではないという売り手から買ったので汚かったのです。
音も変わっていることはすぐにわかって上等な楽器になったという感じはあったでしょう。ただすぐには弾きこなすというところまではいかなかったようです。修理したての楽器も新作の楽器と同じで多少は弾きこみも必要になってきます。今すぐ結論をというよりはじっくりと修理の成果を確認していく方が良いでしょう。



楽器が手元に帰って来て
奮闘中です。まだ3日程ですが、色々な事を感じたり
おどろいたりしています。
上手くまとめられませんが
帰ってきた金曜日から今日まで思った事を書きます。(
音だけに絞ってません)


とにかく軽くなりました。
磨きをかけてもらって
違う楽器のようにきれい
になり 音を出す以前に
感動しました。

最初に開放弦やらスケール
やら、終わったばかりの
本番のチェロのメロディを
C G D Aの5度違いで弾いてみたりしました。

底の方からわきあがるように
響いてくるようで、今までと
響き方の違いに少し戸惑いました。

音程がはっきり出るように感じました。fとpの差がはっきり出る。
一皮も二皮もむけたかな!
という音に感じました。

音の広がりがすごくある。
今までとは全く違う世界。

弾いているうちに
下の3本は
ボンボン鳴って
深い音になってきました。
まだまだこれからよくなりそうです。

A線には2日間少し手こずって
弾く場所をあれこれ試してみましたが、なんとなく
しっくりこなくて
弦をAだけパーマネントソリストに戻してみたところ
びっくりするほど良くなりました!
いい音がします!!

私にはもったいないような
楽器になりました。
どの弦もまんべんなくよく
音が出ます。
まだまだこれから色々探って
弾き方 音の出し方を
勉強しようと思っています。


さらに後日

この一か月以上にわたって
楽器修理のための準備から
終了まで本当にありがとうございました。
昨日レッスンに久しぶりに
自分の楽器を持って行きました。修理を終えた楽器を見ての先生の反応が面白かったので、私自身が感じた楽器のことと合わせてお知らせします。

日々の練習に必ず取り入れている重音でのスケール
3度 5度を24日から再開しました。
音程がはっきり出るので
シビアです。ピッタリ合ってないとすぐわかって怖〜。

特に荒い音が出ていたA線
でしたが、それがなくなりました。例えが悪くて申し訳ないのですが、ゴミやヘドロで
詰まっていたパイプが詰まりが解消されてすっきりした!
っていう感じです。

レンタルしていた楽器は
今日北海道札幌市へ帰って行きます。音が出やすい楽器で
弾くのはたいそう楽でしたが
どこを弾いても全く同じ音色がしました。面白くありません。

私の楽器はそれでも
弾く場所 圧力 右手の加減で
色々な音色を追求する事が可能になりました。
もちろん道半ばですが
一生勉強ですね。またその事が楽しくて嬉しくてたまりません。チェロが大好きです。

昨日のレッスンでの事です。
日本の子弟事情?では先生は
1人 が普通のようですが
(色々な先生に習うと
言ってる事が違って訳分からなくなると言う)
私はせっかくの人生(大げさ?)なので別な目でも
見てもらいたく現在は2人の
全くタイプの違った先生のところへレッスンに通っています。
1人は現役のプロオケ
1人は35年フランスのリヨン国立オケのプレイヤーを
勤めて5年ほど前に帰国した方です。こちらは今年から
お世話になっています。

昨日はフランス帰りの先生の
ところでした。
楽器はヴィヨームだそうです。
修理を終えた私の楽器を手にとってしばらく眺めて
とても上手でいったい誰の
修理なのかしつこく尋ねられたので簡単に経緯をお話しました。ブログも見たいと仰るのでブログも
紹介しました。
私の楽器の素性も聞かれ、
ミルクールの工場の120年
程前の大量生産品だと5回くらい繰り返して言いましたが
今の大量生産とはちがうぞ
これは良い楽器だ良い楽器だと言ってゆずりません。

ドイツの機械で作られた量産品を修理の間借りていたそうです。新品ですからまず音は出ます。それとの比較も語っていただきました。
フランスで長年活動しフランスの一流の楽器を使っている先生なら、フランスの楽器が2流などという出まかせを信じているはずがありません。それに近いものになったので良さはすぐにわかってもらえたようです。

さらに


お返事ありがとうございます。パソコンの画面がずっと変で携帯を使用しているので
段落がずれてすみません。

練習していて笑いがとまりません。自然に笑えてくるのです。おかしいと思われるかも知れませんが、本当です。
普通ってこんなにすごいの?
って毎日思います。

ネックの差し替えや駒の
交換と、どのように
関わってくるのか私には
わからないのですが、
とても弾きやすく楽になった
なと感じます。

いつかのブログに
修理か製作か、どちらだったか思い出せないのですが
お客様が涙していたお話が
載っていました。
泣くほどの事でも.......
って書かれてていたように
記憶していますが
泣くほどの事でした!
修理をしてもらって
こんなに嬉しく感謝した事は今までに一度もなかったし
本当に 涙 です。
そしてそれが笑みに変わってくる訳です。

修理では老朽化した部分と製造上の問題があったところを「普通」にしてあげました。私がたくさんの楽器を見たり作ったりして知った「普通」です。良い楽器というのはこういうものだという私の中の普通です。

雑音が少なくなると音程がはっきりします。
ずれていればすぐにわかってしまうのです。
そのことも書いてくれています。


単に師匠の教えや教科書通りにしたから自分は正しいと言い張るのではなくて使った人が実感できなくてはいけません。自分が立派な職人だと思われることよりも、美しさや楽しさに心を奪われることの方が大事だと思います。芸術家でも職人でも自分が得をするよりも我を忘れて美しいものに魅了されている人を私は尊敬します。


こちらの先生は、○○○○の楽団のチェリストです。

昨夜のレッスンに持っていったところ、
これはすごいね!ものすごく格が上がったと思う。
大成功じゃない?僕がセカンドに欲しい とおっしゃいました。
(こちらの先生の楽器はトノーニ。私にはどちらかというと明るい音に聞こえる)
レッスンの場所は先生のご自宅のホール(100人くらい)。
素晴らしい音で響きました。特に低音がズシンときました。!。先生の腕の凄さもありますが、
レッスン時に何回も何十回も私の楽器を弾いてもらっていましたが、
音の抜け?(うまく表現できませんが)が、まるで違って
音がまるく筒のようになって飛んでいく感じ(表現が下手ですみません!)でした。
もう あとは 言葉をお借りするなら ”つべこべ言わず練習する”です。

このチェロは死ぬまで私の大好きで大事な親友でいてくれると思います。

先生はイタリアの楽器が良いと信じていたそうですが実際に弾いてみれば一発で考えは変わったようです。上級者が弾く事でより能力が発揮されたようです。

先生にも非常に喜んでもらえたようです、その一方で日本に出回っている楽器のレベルが相当低いんじゃないかと心配になりました。楽器を仕入れるほうは出来の良し悪しが分からずに酷い楽器や状態の悪い楽器を輸入していることでしょう。そのようなものは次の初心者の手に渡るので日本にひどい楽器がたまっていくのは良くないですね。

最近 私が切に望んでいた、私の先生のオールド楽器のような
まるい、ポーポーとした音が少し出せるようになってきて、
ますます笑い(笑み)のとまらない毎日です!

さらに最近になってコツが分かってきてより楽しくなったようです。
必ずしも地位の高い演奏者だけでなく、楽器演奏をより楽しんでもらうことにつながっているとしたら励みになるものです。

余計にお金は払ってしまったようですが結果的には良い楽器を手に入れられたとのことです。このような修理は業者も面倒なら言い訳を並べてやろうとしないでしょう。私は目の前に問題のある楽器があると許せなくてそのままにしておきたくないのです。

私の持論の「ひどくなければ何でも良い」というのが今回も証明されました。量産品で構造にやはり問題があったのです。それさえ直してあげれば楽器は機能するのです。量産品なので部品ごとに別の人が作ったものです。急いで作ってあったのでちゃんと作りきっていなかったのです。それを私が100年後に仕上げてあげました。弦楽器は「名人にしか出せない音」とかそういうものではありません。初めて作ってもちゃんと弦楽器の音がするもので、戦前のヴァイオリン製作学校の生徒が作ったチェロなんかは今となっては結構良い方です。学校の場合には工場と違ってコストなんて考えていないので先生が教えるとおりに作ってあるのです。

やはり基本的に古いということは音響上有利だと言えます。難しいのは新作でできてすぐです。より有利な条件を追求していく必要があります。しかしそれも時間の問題です。余計な事をしない方が良いということにもなりかねません。

このチェロは修理前は金属的で鼻にかかったような音をしていましたがすっかり良くなったようです。私がバスバーを交換すれば新品の量産楽器でも耳障りな音は和らぎます。理由はわかりません。金属的な音で困っているなら可能性はあります。逆はできません。たまたま今回の修理では私の癖と症状があっていたということになります。


まとめ

面と向かってそんなに悪いことは言わないでしょうがそれでもかなり満足していただけたように思います。楽に音が出るようになると弾き方もスムーズになって見違えるようになります。次にお会いするときが楽しみです。

今回の修理は単なるオーバーホールに加えて厚すぎる板を普通にしました。この楽器のネックは標準より短く継ぎネックをしなくては直すことはできませんでした。短いままです。修理代が高くなり過ぎます。中のブロックなども交換したいところですが無理です。
すべて完璧にというわけにはいきませんでしたが大事なところは何とかできたと思います。

古い楽器は音響上有利になっている部分もある代わりにオーバーホールが大変です。今回のものは状態はかなり良い方です。120時間もかかっています。

現在も職場でドイツ・マルクノイキルヒェン戦前の量産チェロのオーバーホールの仕事をしています。ほぼ同じような仕事です。表板に割れがあったり修理の多い部分もありますが、板が厚すぎるという点でもフランスのものと全く同じです。したがってドイツ製でもフランス製でも大差ないということになります。これも100~200万円の楽器としてはとても優れたものになると思います。それとともに新品のニスを塗る前のチェロを購入して改造することも取り上げてきています。

量産品についてもただバカにするのではなくてどこがいけないのか理解する必要があると思います。問題点を解決してあげれば高級なチェロに遜色ないものになるのです。これが商人と技術者の見方の違いです。