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こんにちはガリッポです。
ものの値段とは難しいものでいろいろな考え方があります。
私のところで職人は製造コストで値段を考えます。
丁寧に作れば時間がかかるので値段が高くなるという考え方です。
工業の考え方です。
特にチェロでは安い製法や手抜きによって作らているものが安いわけです。
職人から見れば「ちゃんと作ってあるもの」は良いものだと思います。しかし職人はそれぞれ考え方に違いがあり、見た目も音も様々になります。そのため高価な良いものと言ってもその中から自分の好きなものを選ばなくてはいけません。
それに対して特に日本の人は作者の評価によって値段が決まっていると思っています。作者の「才能」で値段が決まっていると思い込んでいます。才能がある人はうまくできるので精巧にできているものが高いという事になります。そうではなくて音が良いというかもしれません。
一見同じように思うかもしれませんが実際には才能を評価するのは難しいことです。自由に経済活動ができる社会なのでみな自分の利益になるように行動しますから公平な評価をしようという勢力はありません。
精巧にできていても無名な作者なら値段は安くなります。何かのきっかけで有名になれば精巧にできていなくても値段は高くなります。音になると評価するのはとても難しいです。楽器の差よりも弾く人の技量の差のほうが大きいからです。
これは商業の考え方です。
これらの二つの考え方には矛盾があってしばし対立します。
製造側の理屈でコストをかけて作ってあると言っても買う人が魅力を感じなければ製品は売れません。欲しいという人がいなければ値段はつきません。
装飾を施して余計な手間をたくさんかけたり、不器用な人や未熟な職人が時間をかければ高級品になるでしょうか?
いずれにしても職人が見て良くできているものは安上がりに作られたものに比べると値段は高いです。一方で評判が独り歩きして異常に高騰したものに比べれば安いです。
とくにチェロに関して大事なことは安いものは安上がりに作ってあるということです。
ブランド名で物が売れるということは現実のことですが、そのような考えの人は当ブログには用が無いと考えます。問題外としてもはや考慮しません。
「音で売れる楽器」について考えてみると先生が薦めるということもあります。業者と癒着してリベートをもらうためではなくて本心から良いと思う楽器を薦める場合を考えてみましょう。
先生も人によって違うのです。
職人が見てちゃんと作られている楽器を高く評価する人もいるし、とにかく結果として音がよく出る楽器を評価する人もいて我々が見て信じられない楽器ばかりを選んでくる人がいます。
それに対して他の楽器より音がよく出てもイメージ通りの音と違えばダメということもあります。雑に弾いても大きな音が出る楽器か自分の意図が反映される楽器なのかということもあります。もともと持っている音色に何とも言えない心地よさを感じることもあります。
どちらを大事に考えている先生なのかによってこちらも対応しなくてはいけないので仕入れをするなら両方のタイプの楽器が必要です。つまり程度の差こそあれ実際にはその両方とも考慮に入れる必要があるということです。実際にさっきまで強い音の楽器を褒めていたのに、繊細な音の楽器を「これも悪くない」という人もいるんです。限られた予算や選択肢で何を優先するかという話になります。
従って楽器の選び方としてはとにかく結果として音が大きい楽器を求める場合はその通りで、弾いてみて音の大きい順に選べば良いということになります。この場合こそ値段やメーカー名や製造国を考慮する必要はありません。
それに対して職人が自分で楽器を作ると理想的なものができます。私の考え方ではまず正確に加工する技能を持っていて、世の中に存在する「良い楽器」というものがどういうものなのかを勉強して知っていく。それと同じようなものを作れば理想的な楽器の出来上がりです。それがパッと弾いて大きな音がするかというとそうではないです。
例えば50~100年くらい経った楽器であれば音は強くなっています。とりあえず音はよく出るなと思うでしょう。しかし非常に癖が強かったり量産品や雑に作られた楽器の音なのです。古い楽器こそ手放しに「古いから良い楽器」と考えずによく音の質をチェックする必要があります。
オールドの高価な楽器でも実は品質や作風、状態にはバラつきがあり、ただでさえ数が少ないのに理想的な楽器というのは少ないです。質を重視する人なら新しく作る楽器のほうが素直で癖のない理想的なものを現実に手に入れられるということがあります。
古いもので理想的なものは高価です。
もちろんネームバリューで異常に高くなっているものに比べれば安いものもあります。
新作の良いところは素性の良い理想的な楽器が手に入るということだと私は思います。パフォーマンスに関してはまだまだです。
職人の腕前と「良い楽器」がどういうものか知っているということが重要だと思います。結果的に鳴ればいいのなら腕前は関係ありません、理由が分からなくても偶然強い音がする楽器を探せばいいのです。精巧に作られていない物なら値段も安いはずです。
雑に弾いても強い音がする楽器を使うことが練習になるのか?と自分は何のために練習するかということも考えてほしいです。
職人としてはまずクオリティの高い楽器、それの古くなったものならさらに良いと考えます。そのような楽器を良いと思う上級者や先生も少なからずいます。
何を使っていいかわからないという初級者なら私が良いと思って作っているものを黙って使って腕を上げれば相当な音は出せると言いたいところなのですが、そんなことを言っていたらよくいる思い込みの激しい職人の一人になってしまいます。私の言うことを鵜呑みにしたらまたウンチクの独り歩きです。
一方で無造作に作ってあるのに音が良い楽器もあるので職人特有の楽器の見方は傾向であっても絶対ではありません。無造作に作ってあって良い音がする楽器は職人の考える理想の「良い楽器」とは何かという点で大いに考えさせられ修正を迫られるもので研究対象として興味深いものです。
修理の続き
特にモダン楽器の場合
①アーチがペッタンコ②板が薄い③古い
とにかく鳴ればいいというのであればこれで十分です。
近代的な美しい楽器でも良いし、そうでなく凝って美しく作ってなくても大丈夫です。このような何でも無いような楽器が意外と音が良かったりするものです。こういう楽器で見事な演奏をする人がいます。
その一方でぷっくらと膨らんだような楽器をうまく弾きこなす人もいます。自分で作っているので言えますがこちらを作るには相当気を使うもので、作っている人自体がまれで良いものを作れる人は現代ではほとんどいないでしょう。それに比べればだれが作ってもできる可能性があるのがペッタンコの楽器です。
量産品を改造することでこのようなものはできます。
問題は改造に手間がかかるのに楽器の値打ちは変わらないことです。改造しても見た目が同じで元の量産楽器の値段でしか売れないのです。量産品の値段にしかならないなら中国製などをそのまま売ったほうが労力が少なく儲けが大きいのです。
中国製を改造しても中国製の量産品にしかなりません。
音が良い楽器が欲しいならもっと高いのを買ってくれというのが業者というものです。
チェロの場合板を薄くする作業は三日ほどかかります。それ以外に表板を開けてバスバーを削り落としてまた新しいものを付け、表板を付け直し、駒や魂柱を新しくする作業が必要です。一週間以上の仕事になり数十万円の仕事になります。古い楽器ならさらに故障個所や消耗している個所の修理が必要です。
新品の楽器を改造するのはコストパフォーマンスでは悪くないように思います。数十万円増しでずっと上等な楽器になるのですから。ただし、木工用ボンドのような強力な接着剤で付けられているので表板を開けるとエッジがボロボロになってしまうという問題があります。それに対して機械の性能が上がっているので昔の量産品ほど悪くないのです。その値段ならしょうがないというのが量産品です。
古い量産品の場合にはそれでも希少なので新品よりは高い値段をつけることができます。壊れた状態であれば、それに修理代を差し引いた値段で買い取ります。そこは見極めが重要で赤字になるような状態の悪いものはタダでも引き取ってはいけません。結局手も付けず場所を取ってしまうだけだからです。
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裏板の合わせ目が開いていたので接着しなおします。板は厚みを薄く削った後なので見違えるようにきれいになっています。
Gクランプという専用の道具で5つで1万円くらいするものです。ホームセンターで売っているような一般の消費者向けのものとは値段が全然違います。
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上、中央、下と3回に分けて接着しなおしました。一度に全部開けてしまうとてんやわんやになります。上と下は外から見ても空いていることが明らかでしたが、中央は外からみると隙間があるようには見えませんでした。うち側から見ると空いていました。
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ボタンの部分は割れていましたので補強します。
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パフリングの切れ目のあるところまで一段下げて新しい木を入れます。
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接着します。このような修理は意外と手抜き修理のためになされていないものです。やるべきことはわかりきっていますが、きちんとなされているケースは少ないのです。
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仕上げるとこのようになって新品の時と同じ強度になります。
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表板は厚みを薄くするだけでなく
表面も滑らかに仕上げます。特にバスバーの付けるところがボコボコしているととても作業が難しくなります。
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色が白くなっているところは多く削った部分です。厚すぎると言ってもすべてが均等に厚過ぎるというわけではありません。
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バスバーは初めはただの棒なので表板のカーブに合わせて削ってぴったり合うようにします。
普通は一日くらいかかりますが5時間かかりませんでした。と言っても工場で量産される楽器に5時間もかけていないでしょう。削っては当ててみて削っては当ててみることを5時間やっているというと気が遠くなると思うかもしれません。集中しているとすぐに過ぎてしまいます。職人の仕事をしていると一日が過ぎるのが速いです。
たった5時間集中が続かない人は職人に向いていません。
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クランプは弱い力で締めるのが肝心でギュウギュウやると表板にめり込みます。弱い力で多くのクランプで付けるほうがベターです。理屈から言うと完全にバスバーを加工できた場合、両端に一つずつでぴったりつくはずです。そのように加工するのが理想です。現実は安全第一に行きましょう。
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ネックを入れ直すので表板の切り込みも埋めなおします。こういうのは細かい仕事ですが完璧に接着するのは結構大変です。ネックを入れるときにボロボロ取れてきてしまいます。
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接着ができたので上を加工します。
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ブロックを新しくします。量産品なのでとにかく質の良いものを付けます。由緒ある楽器なら木目もオリジナルに近いものを選びます。
横板は枠を取り付けて形がゆがまないようにします。
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面を合わせます。精巧に作られている楽器なら表板と裏板の形が同じなので理屈通り行けるのですが安価な楽器は難しいです。
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接着は固定が肝心でかなり物々しい感じに見えます。DIYなどをやっている人は参考にしてください。
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ネックを入れ直すので横板も足します。
もちろん無理やりクランプで締め付けるのは良くありません。接着面同士が力をかけなくてもぴったり合っているのが大事です。しかし薄い板の場合には接着のにかわで濡れるとゆがんで来るのでしっかりと止める必要があるのです。
このようなクランプはドイツ製で一つ4000円くらいします。こういうものは日本では売っていません。日本は工業国のようでいて固定する道具というのは意外と整っていないのです。
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薄いものは接着の時にゆがんでしまうので厚めの板を張り合わせてから薄く削ります。従来のネックはだいぶ斜めについていたようなので埋めなおすことで正しく取り付けることができます。
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四角い状態でくっつけるのはクランプで固定しやすいからです。角を落とします。
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当たり前のように加工してこれです。当時のフランスの流儀ではこのように角を丸くするのがよく見られます。由緒のある楽器ならオリジナルと同じにするのがセオリーです。この楽器の場合には初めにすでに雑に交換されていました。
オリジナルのブロックはこのようなものでした。
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これを再現してもしょうがないでしょう。
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裏板の合わせ目は再び木片で補強しました。過去の修理で付けられていたものよりは薄いものです。
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以前は隙間が空いていて木片で強度を持たせようというものでした。接着をし直したことで隙間は無くなりました。しかしウィークポイントであることには変わりないので力が集中しないように補強する必要があります。隙間なく接着し、薄い木片で補強したことで振動の伝達も有利になったことでしょう。
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表板も上の方は合わせ目に不安があったので接着しなおし補強しています。f字孔の横の割れも補強しました。ここは表板を開けずに木片を付けてありました。最近の修理でしょうが当然ぴったりついてはいませんでした。
これで表板を締めれば胴体の出来上がりですが・・・・
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表板が開いている状態ならエッジの損傷を直すのも簡単なのです。
今回の修理は時間が限られているので時間との闘いです。
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こちらもです。
まだまだ続きます
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表板を接着します。このようなクランプはセットで7万円もします。アマチュアで楽器製作をするより楽器を買ったほうが安いのです。
軸は鉄でできていて重いので持って帰ってくるのが大変でした。すべては持ってこないで2度に分けて接着しました。
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チェロらしくなりました。
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ネックは下にも横にも板を足します。これだけ材料を張り付けてもサイドは最終的には厚い所でも1mm以下まで削りますが、0.5mm足りないとネックがぴったりつきません。
駒を高くしてパワーアップしても音を鋭くしないためには根元を高くするのです。下に足してあるのはそのためです。当然下に行くほど狭くなっているので長さを足すだけでは裏板のボタンと合わなくなります。両サイドも足すことでボタンを損なわずに済みます。と言っても1mmにも満たない話です。
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ここはちょっと複雑な修理でした。時間を見ながらできそうだったので直しました。
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こういうところもやり始めたらきりがないです。
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表板のコーナーも傷みの激しい2か所は時間がありそうだったので直しました。反対側は過去の修理で直されていましたが、およそフランの楽器には見えない物でした。こちらも過去に修理歴がありさらにその上に直すので難しかったです。だいぶフランス風になりました。全くこんなことも分かっていない職人がほとんどなのです。
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ネックを取り付けるとさらにチェロらしくなります。指板も削りなおす必要がありました。これを売った業者は相手が素人でクレームがなければお構いなしというくらいだったのでしょう。
指板は過去に交換されていて当初はC線のところだけ平らになっているものだったのでしょう。スチール弦の現代にはメリットが無いので前の修理で丸く削ってありましたが、上手く削ってあるとはいえませんでした。今後もアマチュアなら5~10年に一度くらいは削りなおす必要があるでしょうがこの厚みなら20年くらいは大丈夫でしょう。
ニスをクリーニングして傷なども補修しました。新しい木を取り付けたところも十分補修できました。机の上にはクレンザーの「ジフ」があります。ニスのクリーニングに使いました。私がいつも使っているものよりもきめの細かなものでさすがに日本で売っている製品なだけはあります。外国のもののほうが荒いです。このニスはラッカーのようなものだと思います。硬くて丈夫なものでクレンザーのようなものでガシガシ擦っても大丈夫です。ものによって違うので楽器ごとに対応は変えなくてはいけません。日本のクレンザーは弱すぎるくらいです。整髪料でも日本のものはスーパーハードなどと言っても弱すぎます。外国のものはカチカチになります。そういうところは日本らしいなと思います。楽器の音についてもやはり日本人のほうがデリケートでこっちの人の方は耳を突き破りそうなひどい音でも平気で弾いています。私の作る楽器も日本人向きだと思います。
皆さんも量産品ならジフでごしごしやってポリッシュ液で磨けば大丈夫です。
ラッカーだろうということでラッカー薄め液をホームセンターで買ってきました。エタノールにこれを加えて布を湿らせて磨くと光沢が出ます。これは訓練が必要で一般の人がやるべきものではありません。天然樹脂でアルコールに溶けるものならアルコールだけで十分ですが、ダメだったのでホームセンターに急ぎました。
フランスの楽器でラッカーが使われているということは量産品であるということの証であるとともに時代もそんなに古いものではないということになります。いつからラッカーになったかははっきりわかりません。
我々やストラディバリの時のように自分でニスを作っていた時代は天然の樹脂と乾性油を使って鍋を加熱して作っていました。19世紀にはコパールなどの天然樹脂のニスを工業的に大量生産していたようです。フランスの楽器のニスが酷似しているのもニス製造業者があったのだろうと推測しています。
それに代わるラッカーはセルロイドに近いもので初期のプラスチックです。天然樹脂よりも強度が高くコストも安いので広く使われるようになりました。戦後は石油から作った合成ゴムのような樹脂が使われるようになってきます。
今でもラッカーは日本ではよく使われるようですね、溶剤はシンナーというものです。日本の改装中のビルを訪れたときにすごい臭いがしていました。
プラモデルにも使いますが、ヨーロッパでは子供に有毒なものを使わせないためか売らていません。ホームセンターでもありません。
このチェロは一目でわかりますが、ラッカーが使われていることもあって量産品であることは間違いないでしょう。
この楽器を売った業者はオリジナルに手を加えるべきではないという謎の主張からニスの汚れを取ることもしない方が良いと言っていたそうです。単に手持ちの楽器にコストをかけたくないだけでしょう。楽器商なら職人に頼んでクリーニングや補修をやってもらわなくてはいけないからです。
100年くらい経っているチェロなので私が初めて手を入れるわけではありません。過去に何度も手が加わっています。何かが塗ってあるように思います。
魂柱ももちろん新しくして駒も新しくします。ネックの角度が変わっているからです。
弦を張ればひとまず完成です。
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これくらい綺麗にしてから売るべきだと思いますが。
弦は以前張ってあったものをそのまま張りました。それまでのチェロでお気に入りの弦だったわけですが、修理後も最善とは限りません。ひとまず同じ弦で試してみてそれから考えれば良いでしょう。
ちなみにCとGがピラストロのパーマネント・ソロイスト、DとAがピラストロのエヴァ・ピラッツィ・ゴールドです。
テールピースはプラスチックのもので、木製のものはとても高価で高級感がありますが、アジャスターの機能や耐久性に不安があります、とりあえずこれで大丈夫です。チェロの場合にはスチール弦を使うのですべての弦にアジャスターが必要なのです。
改めて完成した姿
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こうやって見ると中のブロックが荒く加工されていたのが嘘のように立派なチェロに見えます。このようにフランスの楽器製作は全体的にレベルが高いために量産品でもこれだけのクオリティがあるのです。
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f字孔も現在の量産品はやたらに大きいものが多いと思います。そういう意味では品が良いと思います。左のコーナーは修理したところですがニスの補修も間に合ってやれやれです。
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裏板は木目も良いものですが輪郭の形がきれいです。おそらく外枠を使っているので輪郭がきれいにできるのがフランスの楽器の特徴です。一流の楽器でもそうです。
外枠は同じ形のものを完璧に作るのに適したものです。
このチェロもストラド型で、フランスのモダンチェロは皆ストラド型です。その中でも丸みがきれいなカーブになっています。フランスの楽器でも後の時代のものです。これは平面の写真だけならハンドメイドの楽器と見分けがつかないレベルです。ネットとかで買うと騙されるやつです。古く見えるように多少塗り分けているように見えます。
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コーナーやパフリングの雰囲気が完全にフランス風です。
続けてどうぞ
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今の職人ではこの感じはほとんどの人は出せません。ドイツの量産品でもそうです。なぜかと言うと意識しておらず理解していないからです。
フランスの楽器のニセモノも結構あります。楽器商が見ても分からないくらいなので皆さんには難しいかもしれません。
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スクロールは一発で量産品だとわかります。フランスの楽器にしては完成度が高くありません。「手作り感のある」イタリアのものと比べたらそんなに落ちるようにも思いませんし、現代の職人でもそうです。
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一番下の部分はドイツやチェコのものと違います。いずれ紹介しましょう。
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きれいなものではないですが、ドイツやチェコの渦巻きだけを専門に作っていた人のものとは違う感じがします。
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ボタンは損傷は受けていますが補強してあるので強度は大丈夫です。
裏板の合わせ目もずっと良くなっています。
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明らかな隙間は無くなっています。裏板の上の部分はニスの表面に細かな穴があってブツブツになっています。何か高温にさらされて溶剤が蒸発して気泡ができたためだと思います。楽器全体に生じておらずそこだけなので誰かが熱くしたのでしょう。修理などで暖めてうっかりやってしまったのかもしれません。それも下手な修理です。
時間の関係もあって完全には直せませんでしたが特定の角度で見ない限りわかりませんから元よりはよくなっていると思います。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20180513/18/idealtone/f4/79/j/o0640048014190190094.jpg?caw=800)
以前はこうでしたから、ひどかったものです。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20180520/23/idealtone/b8/1d/j/o0640048014194977915.jpg?caw=800)
さっきのこの部分も
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20180521/00/idealtone/92/92/j/o0640048014195038931.jpg?caw=800)
このようになりました。これは私ならではの修理です。短時間に簡単にやってもこの通りです。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20180521/00/idealtone/c3/38/j/o0640048014195039697.jpg?caw=800)
アーチはペタッとしたもので一流のフランスの楽器のような造形センスにあふれるエレガントなものではありません。しかし最近のプログラムに通りに機械で作ったものは視覚を無視して作られているのでそれに比べると面自体はきれいです。カンナのような道具はデコボコをならす機能がありますが、回転式の工作機械にはそれがありません。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20180521/00/idealtone/9c/da/j/o0640048014195039781.jpg?caw=800)
ペタッとしているのであれだけ苦労して内側を削っていたのにプレスに見えます。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20180521/00/idealtone/b0/3a/j/o0640048014195041077.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20180521/00/idealtone/cf/4e/j/o0640048014195041402.jpg?caw=800)
品質管理の点では表面がデコボコなく仕上がっているのは高品質ということになります。現代の量産品ではこうはいきません。しかししなだらかすぎてプレスのように見えます。フランスの楽器でも一流の作者のものはもっと造形センスがありますし、オールドのイタリアの楽器であればもっと人が作った感じがします。ストラディバリなんて本当にきれいなカーブをしています。
皆さんが気になるのは音は次回
この修理には120時間かかりました。帰国前に用意していった分、作業場の構築も入れればもっと時間がかかっています。期限が限られていたので気が気ではありませんでした。自動車などの修理なら一時間の工賃が1万円くらいするものです。そう考えると100万円超えます。ただ整備工場を維持する費用が含まれていますからそこまでは頂いていませんが、いかに工房の維持費を抑えることが重要かということが分かると思います。自動車のディーラーが多くの営業や事務員を抱えるように都心の弦楽器店なら維持費も相当になるでしょう。修理代金は会社の売り上げであって雇われ職人に支払われるのはそのうちの僅かということになります。
一方で楽器の売買ではやりようによっては桁違いに儲けることができるので職人に払う給料なんてのは問題にならないという会社もあるでしょう。「サービス」と考えているところもあります。営業上がりの経営者がサービスと考えるのも事の重大さを理解していないように思います。この楽器を売った人と同じです。
記事のボリュームが多くなってしまったので音について持ち主から報告を次回掲載したいと思います。お楽しみに。