オールド楽器の実際~ブッフシュテッターの修理~ その2 | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

どれくらいの値段の値段の楽器を使うべきかは難しい問題です。全財産を投げ打つ必要があるのでしょうか?
考えてみたいと思います。

こんにちはガリッポです。

初めにお知らせです。
3月下旬から4月下旬まで休暇を取ることにしました。
今回はチェロの修理を頼まれていてそれが間に合わないとまずいので試奏の募集は考えていません。
以前からお話をしている方、購入などを検討している人にはお会いします。個別に連絡を差し上げます。
そのほか用がある方は問い合わせの方からお願いします。
3月中には東京に滞在するつもりです。






先週は寒かったです。-14℃の中徒歩で通勤です。
しかし南極に行く人みたいに万全の対策していたので少し歩いていると暑いくらいでした。
対策には問題点もあって手袋や靴が十分ではありませんでした。普通の冬用のブーツですから極寒には適していません。指先というのは凍傷にもなりやすいところですから極寒の地では重要です。そこまでではないので冷たいなという程度でした。

街を見ていると以前の私のように何ら対策をしていない人が多いです。若者は穴の開いたスキニージーンズを履いています。始めてこっちに来たとき、その前は東京近辺に住んでいたので東京で買ったコートなんてのは何の役割も果たしませんでした。0℃でもマイナス10℃でも寒いことには変わりなく寒中水泳のように腹をくくって出かけるというやり方でした。

そこが業務用の作業服のすごいところで、冬でも外で仕事をするために作られていてファッション用として売られているものとは違います。
作業ズボンの下には裏地がフリースになっているスウェットを履きました。
これは優れものです。伸縮性があってピッタリしているのでゆったり目の作業ズボンの下なら履いているのが分からないくらいです。
特に寒い日はスリムなものよりも暖かそうな格好が羨まれると思います。


このように寒い日になると楽器にもトラブルが生じます。
暖房で空気を暖めるため乾燥します。
寒い日になってすぐにペグのトラブルでお客さんが殺到しました。
乾燥するとペグボックスの方もペグの方も縮むのです。そうすると緩くなるのです。

アジャスター付のテールピースを使っていてペグを使って調弦をしたことがない初心者はケースを開けて弦がダランと緩んでいてビックリです。
慌てて弦を巻くときつく張りすぎてしまって切れてしまうのです。

逆のパターンで夏に湿気が多いとペグがきつくなってびくともしなくなることもあります。日頃からペグで調弦をしていれば季節の変化に徐々に対応していくことになります。使えなくなって「不良品じゃないか?」と訴えてくるお客さんもいます。ガット弦の時代を知っている人からするととんでもないです。人間というのは技術が進んで楽になるとさらになまけるのです。

弦が切れるくらいならまだいいのですが、チェロの表板に割れが生じた人もいました。これは厄介ですが、不思議なのはチェロの所有者は気にも留めていないのです。
自分のチェロが非常に危険な状態にあるのに練習に使おうと考えているのです。

表板に割れがあったらただちに使用は止めて修理してください。
割れが進行したら真っ二つです。バスバーや魂柱の来るところでは修理はとても難しくなります。ヒビの段階で直しておかないと修理の値段は10万円単位です。
長く放置された割れは乾燥して隙間が空いてきてうまく接着できません。

ほかにも応急処置として修理していた表板の傷が開いてしまいいよいよもうダメだと表板を開けて本格的な修理が必要となったチェロもあります。
オーケストラの方で修理代は払ってくれるのですよ。オーケストラは保険を払ってくれているだけでしょうけども、さすが本場です。
書類上の事務仕事が必要です。

オールド楽器とモダン楽器

初めに「オールド」ということについておさらいしておきます。単に中古品という意味でオールドという言葉を使う業者があります。英語としては間違っていないかもしれませんが弦楽器業界の用語ではありません。ユーズドですね。

オールドというのは大体1800年より前のものです。
オールドの時代は作風が様々で定まっていませんでした。その中から特定のものを選んでさらに洗練させたのがモダン楽器です。フラットなアーチのストラディバリです。1800年頃にフランスでモダン楽器が完成の域に達しました。

今紹介しているブッフシュテッターはその先駆けとなるものです。
それまでドイツではシュタイナーを目指して楽器が作られていたので画期的な出来事です。

そのためストラディバリモデルといっても珍しいものではなく現代ではよく見る普通のものがストラディバリの形をしたものです。
フランスのモダン楽器はとても優れたもので、ヨーロッパ中でそれまで地域ごとに伝わっていたヴァイオリン製作の方法を一新し、フランス風の楽器を目指してガラッと作風が変わりました。日本に弦楽器製作が伝わった時にはすでにそのあとです。

地域によって時間差があります。
フランスでも教育制度が確立して1850年くらいには大量に作られるようになります。他の国では都市部で先にフランス風の楽器が作られ、ドイツでも1880年くらいから大きな産地でも大量生産されるようになります。

そのため1800年代に入ってもまだモダンになりきっていない楽器があります。
そうなると1800年を過ぎていてもオールド楽器のようなものも作られていたということです。


間違ったイメージ

間違いやすいイメージとして「オールドの時代には天才的な「巨匠」が存在し、そのあとの時代の人たちは到底彼らには及ばない」というものです。

フランスの一流のモダン楽器を優れた演奏者が弾いているのを聞いていればそのような思い込みが馬鹿げていることが分かると思います。私は個人的にオールド楽器に興味が強いですが、それでもフランスのモダン楽器による見事な演奏を聞いたときに素晴らしさに魅了されます。特に音量にも優れていてコンサートでソリストが使用できる実用性を持っています。

楽器が違っても上手い人の演奏が下手に聞こえることはありません

モダン楽器にはとても優れたものがあり、実際に弾いたり音を聞いてみればそれをオールドと比べて劣ったものだと切り捨てるようなことはできません。


楽器商はオールド楽器を信仰のレベルまで高めてきましたが、一方でモダン楽器も売らなければいけません。特定のモダンの作者だけを「ストラディバリの再来」と称したりオールド楽器研究の第一人者などと言って他のモダン楽器とは違う例外的なものとして紹介してきました。私の考えはそうではありません。モダン楽器自体が優れたものだということです。

ひどくなければ何でも良い

この前、小型のオールドヴァイオリンを修理した話をしました。また調整のために来ていましたが、他にもいろいろな楽器を試していました。

フランスやドイツやイタリアなどいろいろな楽器を弾いていましたが、まずその人の腕前が変わって聞こえることはありません。演奏の素人の私でも上手い人はどの楽器を弾いても上手いのが分かります。お子さんに楽器を買わなくてはいけないというかたもいるでしょうが、楽器の良し悪しによって演奏の評価が変わるというようなものではないと考えてください。

教材のビジネスでは子供に不利な条件を与えたくないという心理に付け込んで高額な商材を売りつけるというのは一般的に行われていることです。

重要なのは粗悪品でない事健康状態が良い事です。

これさえクリアーしていれば力のある演奏者が弾けばどんな楽器でもほとんどの場合には問題なく音が出て見事な演奏をすることができます。
あるものは太い音を持っていて、別のものは引き締まった音を持っています。そうなると太い音のほうがボリューム感があるということになります。しかし締まった音でも音自体の強さは変わりません。逆に音色に深みがあり味わい深い音になることもあります。

聞いている感じでは音量自体は変わりません。音が太いか細いかくらいです。
上級者になるとまともな楽器なら何でも大きな音がします。

「音量」「音量」というのは学生や中級者までで鳴らせられないのです。
未熟な人が弾くと確かに楽器によって音量に差を感じます。
特に鋭い音の楽器は耳元で強く感じますのでそれを音量があると考えるのです。
そのような楽器を上級者が弾くと音が細く鋭く感じます。豊かなボリューム感にならないのです。

音量にとって一番重要なのは弓の使い方です。


弦楽器の音は演奏者による部分が90%以上、私の経験では99%じゃないかというくらいで楽器による部分はたかが知れています。粗悪品や壊れていなければ「その人の音」になります。
これが東ヨーロッパや旧ソ連の学生さんなんかは、ひどく粗末な楽器のひどく傷んだものを使っています。これはダメです。かわいそうです。


イタリア以外のヴァイオリンで100万円とか200万円とかそれ以上する楽器でニセモノでなければほとんどは十分なレベルにあります。あとは音のキャラクターが好きか嫌いかです。上級者が弾けば素晴らしい音がします。

ところがイタリアの楽器の場合には500万円出しても700万円出しても怪しいものがかなりあります。粗悪品が含まれているのです。

イタリア以外で100万円以下の楽器も含めて粗悪品は避けるべきなのです。それを見分ける方法を一生懸命説明してきましたがやはり難しいなと思います。先日も楽器商の人が「これはフランスの楽器に近い作風のドイツのモダン楽器だと思う」とヴァイオリンを持ってきましたが、ドイツの一流のモダン楽器にははるかに及ばない出来栄えのものでした。もしこれをドイツの一流のモダン楽器として150万円以上の値段で買うとしたら高すぎます。

おそらくハンガリーのアンティーク塗装で作られたものでそこまで古くありません。
ハンガリーはフランス風の楽器製作をしていましたからフランスの楽器の雰囲気があってもおかしくありません。しかし一流のフランスのものともドイツのものとも全く違います。

ちょうど修理していたザクセンのどうしようもない安価な楽器を「これは美しい」と言っていました。
ダメだこりゃです。
オーナーもそれを本物のテストーレだと信じているようですが、心臓に悪いので本当のことは言わないようにしておきましょう。


このような違いを見分けることはとても重要なのです。
しかしながら楽器の売買を生業にしている人でさえ見ても分からないのですから一般の人にはかなり難しいですね。
その楽器は音響的には問題はありませんので音はかなり良いかもしません。ただし100万円以下で買うべきです。300万円以上するイタリアのものよりも音が良い可能性は十分にあります。ドイツの上等なものよりも私は音響的な意味での作りは良いと思います。

クオリティが高いほど音が良いというわけではありませんが、とんでもなく粗悪なものを買ってしまう人がいるのでどういうところをわれわれが見ているかということを紹介しているのです。間違っても作者が天才だとかそんな次元のことではありません



私がこのブログでずっと言って来ていることは粗悪品でなければ何でも良いのです。オールド楽器やモダン楽器でも楽器の見た感じや作りには大きな違いがありますが音になると優劣を決めることはできないです。


高いアーチとフラットなアーチ

小型の高いアーチのオールド楽器を使っているプロの方ですが、フランスのモダン楽器や私の作ったフラットなアーチの楽器でも見事な音を聞かせてくれました。本人も良い楽器だと言っていました。うちの会社の創業者が60年代に作ったものはかなり鋭い音でした。音量はもちろんあります。音が鋭いのです。これが普通アマチュアだと60年代のものが特に音量があるように感じます。プロの人が弾くと耳障りな音のする楽器というだけです。
イタリアのモダン楽器も同じような感じでもう少し窮屈な感じでした。

それでも個人的に気に入ってらっしゃったのはドイツのオールド楽器でした。
ドイツのオールドは三つありました
①クロッツ
②ブッフシュテッターA
③ブッフシュテッターB

クロッツは高いアーチでいわゆるシュタイナー型に近いものです。ブッフシュテッターはストラディバリを模したものでアーチは現代の標準的な高さです。
このうち二つのものの音が似ていました。

どれとどれかというとクロッツとブッフシュテッターAです。Bはだいぶ違いました。

二つのブッフシュテッターの見た目はそっくりですしアーチの高さも同じようなものです。全く違うアーチの高さを持った別の作者のものが似ていて、同じ作者のものでも全然音が違うのです。

このような一件からも作者の名前で楽器を判断することがバカているとともに、アーチの高さや作風のようなものも結果として出て来る音にはよくわからないのです。シュタイナー型とストラディバリ型の楽器でも音の違いはよくわからないのです。

楽器とはその程度のものです。
クロッツとブッフシュテッターAは音色が20世紀の楽器とは全く違う深く渋い音でした。音量自体は太い音ではないものの小さいということもありません。ブッフシュテッターBはフランスのモダン楽器のように太い豊かな開放的な音でした。しかし音色はやはり現代の楽器とは違って渋いものです。

オールド楽器とモダン楽器の作風の違いも実際に弾いて音にはっきりした違いになって現れるかはわかりません。

その人の好みではクロッツやブッフシュテッターAのほうが好きなのです。

オールドの名器

一通り弾き終えると自分の楽器を弾いていました。小型でアーチがとても高いのですが音色は圧倒的に渋いです。モダン楽器でも不満はありませんでしたが、音色の深みが全く違います。音量は特に優れているわけでもありません。

自分自身の楽器ということも一味違いました。

これから言うのは私個人の意見ですよ。
オールドの本当に良い楽器を優れた演奏者が弾いているのを聞くと幽体離脱のように楽器という殻から解き放たれて空間に浮かび上がってくるような鳴り方をするのです。楽器のところから音が出ている感じじゃないのです。深い音色もあり高音にはシルクのようなしなやかさがあるのです。

その小型の楽器にもその片鱗が感じられます。音色に関してはそれ以上かもしれません。スケールはやはり限界があって天使のような楽器です。
これに比べるとモダン楽器は優等生なのですが味気ない、現実的なのです。楽器がそこにあってそこから豊かな音が出ているのです。


私はこのようなイメージを持っていてモダン楽器はむしろエリートのように優秀で優れたもので、オールドの方はいたずら好きの天使のように癖が強くてうまく鳴らない楽器も割合としては多いはずです。

オールド楽器にもモダン楽器みたいな音のものもあるし、モダン楽器にもオールド楽器みたいな渋い音のものもあるのです。実際に弾いてみるしかありません。

オールド楽器はモダンより100年以上古いということと、優れた演奏者によって弾きこまれているという点でずるいほど有利になっています。それで優れたモダン楽器と互角になっているのです。上級者の間でも2流以下のイタリアのオールド楽器と1流のフランスのモダン楽器のどちらが優れているかは意見が分かれます。私も上手い人の演奏を聴いていると聞いているうちに魅了されていって聞いているときはどっちも脱帽です。

間違ったイメージの別の例

それに対してこれも以前話しましたがアマチュアの人でフランスのモダン楽器を持ってます。それとは別の方向性ということでイタリアのオールド楽器が欲しいのですが、さすがに高すぎるので私の作るオールド楽器の複製に興味を持って来客されたのです。

彼はマニアのように知識を集めているのでしょう。オールド楽器のというのは天才が作っているので凡人が作ったようなモダン楽器よりはるかに優れていると信じているのかもしれません。彼の話を聞いているととにかく強い音がするものをその人は良い楽器だと考えているようです。この場合だとさっきの話では1960年代のものが一番優れています。

彼のイメージではオールド楽器はモダン楽器より圧倒的にすぐれているのだからモダン楽器より音が強いに違いないと思い込んでいるようです。この人のイメージには私の作るオールド楽器の複製の音はあっていないので製作の依頼を受けてしまうと悲惨な結果が待っていることになると考えていました。

後日私が作ったストラディバリの複製とフランスのモダン楽器ニコラ・リュポーの複製を試してもらったところリュポーのコピーの方を気に入りました。つまり彼のこのみの音はフランスのモダン楽器の構造によって得られるのです。本当のフランスのモダン楽器を持っている人に認めてもらえたわけですからとても光栄です。

製作の依頼を受けるとしたらフランスの楽器のコピーという事になります。
リュポーでもヴィヨームでもガンでも何でも同じです。アーチがフラットで板が薄ければいいんです。
もっと言うとストラディバリ、デルジェズ、グァダニーニのフラットなものでも板を薄くすれば良いのです。
何のコピーにしたのか名前が変わるだけです。商業的な意味で印象はかなり変わります。
さらに、ロッカでもサッコーニでもゲルトナーの形でもいいのです。ただしゲルトナーだと値段が本物と変わらないという事もありますが、ほとんどの人は名前を聞いてもピンときません。

もっと言うとザクセンの戦前の量産品を改造すればおそらくもっとこの人の好みの音ができるんじゃないかと思います。バカにしているわけではなくて技術的に考えているだけです。

オールド楽器でも音は様々で強い鋭い音のものがあります。
ただオールドでなければその音がは無いというものでもありません。


このように音の好みは人によって全然違うので、必ずしもオールド楽器の音が自分にとって理想とは限りません。モダン楽器の音のほうが自分の理想に近いという人もいるのです。ザクセンの量産品や中国の楽器のほうが自分の理想に近いという人もいるのです。そういう人はラッキーです。実際に買えますから。

イタリアのオールド楽器の音が自分の理想の音だった人は買うことができません。


人間の聴覚というのはとても個人差があります。音は脳の中で感じられるものだからです。たくさんの人の楽器の調整をしていれば全然違う音で満足してもらってます。

だから私は「画期的に音を良くする方法を見つけた」みたいな宣伝文句があっても信じないです。人によって「良い音」というのが全く違うのに「音が良い」の一点張りでどんな音になるのかの説明が無いのです。この業界にも思い込みの激しい人が多いものです。新しい発明品やグッズがあると必ず買う人もいます。そいう人をターゲットにした商売としてやってください。



私は「何でも良い派」ですが、現代の楽器製作はすべてフランスの楽器製作が元になっています。フランスのモダン楽器はとても優れていますし、複製を作ればそれが単に古さだけのためでないことも分かります。

現代では「画期的に音を良くする方法」とやらのせいでフランスの楽器製作からもかけ離れてきてしまっています。それを再現することも価値のあることですね。一方で全く現代では作られることがないのがある種のオールド楽器のようなものです。優秀ではなくても味のある楽器も作りたいと思っています。

ブッフシュテッターの修理

ようやく本題です。
表板は修理したのでネックです。
ペグの穴を埋めます。ネックは切り落としてしまいます。ポイントは画像のように木を足しています。指板を交換するときにペグボックスの一部を削ってしまうからです。多くのオールド楽器ではここが削り落とされているので印象が大きく変わってしまいます。今回は切り落としたネックから木片を切り出して貼りつけているので全く同じ木です。
鉛筆の線のように復元します。

こんな感じです。

細かい所なのですが私が見ているのはこういうところです。

青いものは歯科医用のシリコンです、これで型を取ると固定するときに無理な力がかかりません。
この楽器にとって初めての継ぎネックなので浅めにしておきます。深く入れすぎると次にやる人がやりにくくなります。
深すぎて底に穴が開いているものもあります。

浅いと接着面は少なくなりますからいっそう完璧に接着されている必要性があります。正確に加工することです。あっていないものを無理に接着すれば割れたり変形したりします。しばらくすると隙間が空いて外れてきます。
修理では100%にできるだけ近い加工が求められるのです。

完全に接着されていれば一つの木材であることと変わりがありませんから強度は十分になるはずです。

難しいのは過去に付けられていた指板の幅とても狭くて現代のものより2mm以上狭いものでした。そこのつじつまを合わせるのが何より苦労した点です。さっき足した部分はわずかにしか残っていませんが、この差が大きいのです。

このように継ぎ足されます。接着面を正確に加工するのはとても難しい作業ですが継ぎ足したネックを加工するのも作業の量としては多いものです。

ペグボックスの中も加工しなくてはいけません。

これもなかなか神経を使いますよ。

これで新しい指板を用意してネックの長さを決めていけばネックの下準備は完了です。

最終的にはこうなります。



裏板の合わせ目は黒くラインになっていました。内側には羊皮紙のようなものが貼ってあり合わせ目が開かないようにしてありました。これを剥がすとパカッと開いてしまいました。羊皮紙だけで持っていたのです。このようなものは一方向からは強いのですが魂柱が裏板を推すような内側からの力には弱いです。空いてきてしまうのです。

ガッチリつけ直します。

内側からの力にも耐えるように木片にします。上のブロックは交換されていますが下のブロックは作者独特の形のものです。

中の作りを見ても古い感じがします。機械で作られ木工用ボンドで接着された現代の量産品とはだいぶ違います。

表板を閉めてネックを取り付ければヴァイオリンらしくなります。



サドルは過去に深すぎるものが付いていたので表板を埋めます。左のパフリングとエッジは新しくしたものです。


あとは魂柱と駒を新しくし、ペグを入れてニスを補修すれば完了です。

健康な状態になりました

音については先に言ってしまいました。これがブッフシュテッターBの方です。ドイツのオールド楽器として渋い音だけでなく豊かで強い音を持っています。音量にも優れていると思われます。
私が修理した結果違う音になりました。

今回の修理で目指したのもまさにこれで「オールドだから」という逃げは無く一線で仕事ができる楽器になったと思います。他にも仕上がりを待っている上級者の人もいます。板の厚みや完成した姿、その時の様子もお伝えします。