2018年あけましておめでとうございます | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

新年おめでとうございますガリッポです。


昨年は贔屓にしていただいてありがとうございます。
ブログを始めて随分となりますが、去年は実際の仕事の場面で起きる出来事を中心に紹介し応用編に近かったと思いますので今年はもう一度基本的なことをおさらいするのはどうかと思います。

当初はとくに弦楽器に関心の強い人を対象にしてきたので初心者には難しい内容も多かったと思います。これまで業界で言われてきた知識がどうも怪しいということで真相を研究してきました。それらを知ってることが前提ともいえました。何から学んでいいかわからない人もいるかもしれません。閲覧者の数ははっきりとつかんでいません。気にしてません。安定しているようです。

弦楽器について学ぶことは現代という時代に当たり前になっていることに気付くことです。
今とは違う時代に作られたものというのが理解するコツです。

何に興味を持ったらいいのかということすらわからない人が多いと思います。




考えてみましょう。




バロックチェロはあとは弦を張るだけとなりました。
元旦は休みなので観念して2日に張ります。

9月から作業を始めて年の終わりに出来上がりました。
まだ夏の残暑が残っている頃に初めて完成は雪の日です。
ヨーロッパの労働時間ではありますが、勤務時間をほぼバロックチェロだけに充ててこれですから。今回のものは工場でほとんど作られたものを仕上げるというものでしたが、これでも夏に初めて真冬に出来上がるくらい時間がかかっています。チェロをすべて作ったら半年くらいかかると言っていますがそれすら怪しいですね。


バロックチェロの内容はまた紹介します。
チェロのニスが終わったので今度はビオラのニスを塗ります。
小型で音が良いビオラを作ろうというものです。

さらにドイツのオールドヴァイオリンの修理があります。
ドイツの1800年より前のオールドヴァイオリンでも500万円もしないものがほとんどでイタリアのものなら1900年以降のものでももはや500万円じゃ済みません。音は明らかに異なると思います。作り方と古さが現代のものとは違うからです。現代のように値段の差とは裏腹に世界中どれもそっくりなものと違い個性的で味もあります。価格の相場はイタリアのものが急速に上がっていてコストパフォーマンスでは最悪になっています。そのためプロの演奏家が必要とするフランスの楽器が重要になってきています。ドイツの楽器は分かっている人だけが価値を分かっているという感じです。うちにはそういうお客さんがよく来ます。近年では修理すればすぐに売れてしまいます。きっと必要な人が見つかることでしょう。



学校の宿題か何かで学生がうちの師匠兼社長にインタビューをしていましたが「弦楽器ビジネスの将来性はどうか?」と聞いていました。IT産業がどんどん発展していく中で伝統産業の個人商店は厳しくなっているはずです。

うちに関して言えば景気も回復し消費意欲が旺盛で去年は楽器を購入しようという人は多かったです。毎年才能のある子供が出て来るので常に良い楽器は必要とされています。日本では全く相手にされず売れないということで預かってきたデンマークのヴァイオリンもすぐに売れてしまいました。


インターネットで安価な楽器や付属品が売られるようになっています。
勤め先ではレンタルをやっているのでそれらを買うくらいならレンタルを推奨してます。あきれるほど安い値段でやってます。

調子が悪いと言ってそのような楽器を持ってくる人もいます。
当然中国製なのですが、弦を交換したらそれだけで楽器の値段を超えてしまうかもしれません。そのようなことを説明するのはショッキングです。

その一方でイタリアの楽器の値上がりは2000年代の前半よりはるかに加速しているようです。
やはり金融危機の影響で資産として注目されるようになったと思います。
音楽家にとっては手が届かない存在になってしまいました。


私は現実的に音楽を楽しむ人たちのことを考えていきたいと思います。
演奏する人がいる以上は職人の仕事が無くなることはありません。
腕を磨くことです。




ちょっと面白い記事を見つけました。
私はあまりビジネスのことなんて考えていませんがたまたまこんなのが見つかりました。中国でのビジネスについての記事です。

http://diamond.jp/articles/-/23492

特に前半、日本の弦楽器市場についても全く同じことが言えます。
日本人の職人が日本で楽器を売ろうとしたときにぶつかる課題と全く同じです。

日本人の職人はまじめな人が多く正確な技術を持った人がたくさんいます。しかし市場を支配しているのは営業上がりの商人です。彼らがイタリアのブランドを有名にし圧倒的な力を持っています。

「日本人は職人気質なのか商人気質なのか」という問いがあれば私は迷わず商人気質だと答えます。日本の弦楽器市場について同僚に話すことは日本人として大変な恥です。


今年もヨーロッパで職人として修業している成果を皆さんに伝えたいと思っています。
よろしくおねがいします。