帰国のお知らせ | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

こんにちはガリッポです。


私もヴァイオリン職人として何ができるか日々考えているわけですが、今年もヴァイオリンを作ってきました。10年ほど前に私が作ってドイツグラモフォンからもCDが出て世界に知られているオーケストラのヴァイオリン奏者に使っていただいているヴァイオリンがあります。

それはベネチアのピエトロ・グァルネリのコピーで裏板に板目板を使ったものでした。今考えるとコピーの完成度は決して高いとは言えませんが音が独特で他の団員の方にも気に入っていただきました。ひさびさにそのようなものを作りたいということで今回製作しました。

それに近い楽器ということで今回はマントヴァのピエトロ・グァルネリのコピーを作ることにしました。マントヴァのピエトロは叔父にあたり、楽器の基本を確立した人で仕上がりもずっと美しいものです。音だけでなく見た目の美しさも楽しめるものになればと思いマントヴァのピエトロのコピーを作ることにしました。



現代のヴァイオリン製作はグァルネリ家の活躍した時代とは全く違うものになっています。良し悪しを評価する基準が、昔とは全く違うのです。したがって現代の楽器にはない構造を持っていてそういうものを作ることによって現代の楽器とは音が違う独特の魅力のあるものを作りたいのです。


日本の弦楽器店で数の上で多く売られているイタリアの新作楽器も現代の作風のものです。現代ではどこの国の弦楽器製作でも同じようなもので当然日本人にも同等のものを作れる人は多くいます。本人から買えば値段はずっと安いのです。

そのようなイタリアの新作楽器は私のいるヨーロッパの国では全く売れていません。なぜかと言うとこちらの人は作者の名前や製造国などは気にせず、とにかく自分で弾いて音量があるものを選ぶのです。イタリアの新作楽器も戦前のドイツやハンガリーなどの楽器に「鳴り」ではまったくかなわないです。


日本に話を戻すとイタリアの新作楽器を買ったのに音に満足できないという声をいただくことがあります。鋭いキンキンとした音が気に入らないというのです。それに対して私の楽器がお役に立てるかもしれません。鋭い耳障りな音はせず上質な音になっています。

また古い楽器を試したことがあるなら、新作楽器の明るい音とは全く違う暗い音になっていることを知っているでしょう。
日本での売れ筋は明るくて鋭い音が一般的だったそうです。もちろんこのような音が好みの人はそれを使えば良いでしょう。しかしながらオールド楽器のような暗い音の楽器が好みという人には選択肢が限られるでしょう。名前が有名だからと自分の好みを考慮せずに楽器を買ってしまうと失敗が起きるのです。


私は古い楽器の構造を研究しているのでオールド楽器のような雰囲気の音の楽器を作ることができます。もちろん全く同じ音のものはできません、同じものを作れても300年という月日が経っているからです。しかしながら数千万円~数億円というお金を払えない人にとっては十分魅力的な楽器と考えても良いと思います。そのお金を稼ぐために努力してかなうかどうかはわかりませんが、楽器をうまく弾きこなすほうで努力すればかなり良い音は出せると思います。


もし鳴る、鳴らないで楽器を選ぶなら生産地や名前を無視してとにかくたくさん弾いて「偶然鳴る」楽器を探すしかないです。それはヨーロッパでも日本でも同じでしょう。

ヴァイオリンの製作というのは初めてヴァイオリンを作ってから段々と音が良くなっていくものではなく初めて作ったヴァイオリンの音を一生超えられずに生涯を終える人も少なくないのです。私も10年前に作ったそのヴァイオリンと同じようなものをそれ以来一度も作れていません。加工や塗装技術は上達しますが、初めに「正解」を教わってしまう現代の楽器製作というのは奥が浅いもので初めて作った時点でもう終わりなのです。なぜかわからないけども音は一本一本のヴァイオリンで微妙に違います。必ずしも有名な職人、腕の良い職人の楽器の音が良いというのではなくどこに音が良い楽器があるか分からないのです。ヴァイオリン製作がそういう世界だと知って幻想を捨ててほしいです。

そのためとにかく名前や産地は無視して弾いてみるしかないのです。


それに対して私は今回はっきりと音に特徴のあるものを作る技術を確立しようと試みています。
コンスタントに一定のものが作れればそのような音を好む人は偶然に頼らなくても私に頼んでいただければ入手が可能になるからです。

他を圧倒するような奇跡的なものはそうそうできないと思います。ただ味わい深い音のものでも平均以上の性能にはなると思います。値段を考えれば決して高すぎるということはないでしょう。


売れ筋とは違うものですから「分かる人だけに分かる」という味わいの世界になるでしょう。そのため私もたくさん作るのではなく、凝りに凝ったものをごく少数作ることにしています。弦楽器をより味わって楽しむ方法を研究しています。



これまで紹介してきたピエトロⅠ・グァルネリのコピーですがニスもほとんど出来上がりました。あとは乾かして表面を仕上げるだけです。そのあと演奏に必要な部品取り付ければ完成です。どんな音になるかは私もわくわくしています。

見た目の感じは会心の出来と言っていいでしょう。私は気に入っています。ピエトロⅠは初めてだったので加減がよくわからないところもありましたが出来上がってみると市場に出回っている現代の楽器とは全く違うものでありながら、技術的には10年前とは違いすっかりこなれて「わざとらしさ」を感じない落ち着いた風情のあるものになっています。今時こんな楽器を作る人はめったにいません、数百年前ならいましたが・・・。それでもプロの職人が見ても全くヘンテコ感やゲテモノ感は感じないと思います。アンティーク塗装の力量が常識はずれの作風を力技でねじふせてしまうのです。自分のオリジナルだと言っても現代のセオリーで楽器を作っている人のものはどれも似たようなものです。


あとは使い続けていくほどにオールドの名器に近づいていくことでしょう。



11月に休暇をいただいて日本に帰りたいと考えています。
11月10日くらいから12月10日くらいまでを考えています。


私のヴァイオリンに興味がある、弾いてみたいという人は考えておいてください。
関東~東海~関西地方くらいなら出向きます。

そのほか要望があれば受け付けますのでそちらも考えておいてください。来週10月24日に詳細を発表します。

ピエトロⅠのコピーのほかにも何か用意します。それが何なのか未定です。皆さんがどのようなものに興味があるのかということで決めたいと思います。



よろしくお願いします。