一見なにも壊れていない楽器ですが健康にするには修理が必要です。

こんにちはガリッポです。
弦楽器は基本的にヨーロッパのものです。
多くの場合優れた文化や文明は世界各地に伝わるものですが、その土地で独自に変化していくものです。ところがクラシック音楽の世界はそれとは異なります。
もちろん民族音楽のために変化していったものもあるでしょう。そうなると弦楽器に求められるものも全く変わってきます。
コントラバスはジャズやロックンロールでもベースとして使われます。このような使われ方だと我々が知っている弦楽器とは全く違うことになります。つや消しの黒で塗装され木目を隠してしまうこともありますし、無着色で白木の色のままのものもあります。その上にサッカー日本代表のユニフォームにもあったフレア模様というような炎が描かれているものもあります。
狭い世界でやっているのですね。
作業服を買ってみました。

これはアメリカのカーハートというメーカーのものです。生地が丈夫なものでできています。
面白いのは同じメーカーのものが日本ではアメカジファッション(アメリカンカジュアル)の専門店で売られているのに対してこちらではワークウェア専門店でのみ流通していることです。アメリカのファッション専門店というともうこっちではカウボーイみたいな格好になってしまいます。
欧米では作業服として売られているものが日本ではファッションアイテムとして売られているのです。
ヨーロッパの作業服は「業者感」が強すぎるので日本で着るなら珍しくて面白いかもしれませんがこっちでは工事や工場の人という感じになってしまいます。その点このカーハートというメーカーのものは業者感をあまり感じないデザインになっています。

それでも腰のところは釘や工具のためのポケットを付けたベルトを締められるように当て布になっています。
カーハートがユニークなのはただの作業服ではなくて昔のスタイルを大事にしている点です。1889年に創業したデトロイトのメーカーです。デトロイトと言えば自動車産業で有名なところです。古いものが好きな私としてはすぐに気に入りました。
さっそく着てみて、こんなゴワゴワした服ははじめてだと感じました。
折り紙のやっこさんのようです。
特に腕のところがヨーロッパの服と感じが違います。
ヨーロッパの服は体のラインにピッタリに加工したいようです。ヨーロッパの人から見てもアメリカの服は大きくてダボダボしているという印象を受けるようです。
同じカーハートでもヨーロッパでは作業用ではなくカーハートWIPというブランドでヨーロッパ人好みの服を作っています。
昔の人はこんなに硬い服を着ていたのかと思うと面白いですね。
それでもストーンウォッシュで柔らかくなるように加工済みなのです。
普通はどんどん着心地が良いように柔らかい生地を改良していったのでしょう。
気が付いたら柔らかいのが普通になっていて、昔ながらの作業服を着ると硬くてびっくりしたのでしょう。
ヨーロッパにはこういう歴史を感じる作業服はないですね。
前回紹介したドイツの大工さんの衣装はさすがに作業現場で着るものではなく、正装として業界のイベントの様なときに着るものだと思います。
今は仕事着は仕事着として実用本位が主体で、でも色遣いなどはいかにもヨーロッパという感じがします。「ダサい方のヨーロッパ」です。私はこれも面白くて好きです。
日本なら作務衣とか甚平とかありますね。
アメリカの作業服は汚れて洗濯を繰り返していくうちに柔らかくなって価値を増していくというのが面白いですね。ビンテージと言って取引されているくらいですから。普通の商品は買ったときが価値が最高で使うごとに劣化していくものです。
今のファッションの常識とは全く逆なのかもしれません。
最新の流行のヨーロッパのファッションは素敵に見えます。
私は服装には無頓着なほうですが、ヨーロッパのものはシンプルなものでも微妙なフォルムに気を使っているのが分かります。これは古代ギリシア以来の伝統かもしれません。帰国の時空港で日本人の団体を見ると同じような流行のものでもゴチャゴチャ余計なものがついている感じがします。芸術の世界では否定されている古典的な美意識もしっかり根付いていると思うのです。特にユーロに通貨統合されてからは急速に田舎臭さが無くなってデザインの分野も人々の意識も洗練されるようになってきました。10年前のヨーロッパと今のヨーロッパは別物です。
それに対してアメリカの作業服は無骨です。でも5年10年経ったときに逆転してくるんじゃないかと思います。古くなってもビンテージものみたいになるだけですから。
でも世界的に流行があって、昔のテレビや映画の映像を見れば時代の違いのほうが地域の違いより大きいと感じるでしょう。作業服はそんな中でも別格で面白いですね。
買ってすぐ着たときに、「優しさが無いなあ」と思いますね。着る人のことなんて考えていなくてある種の気持ちよさを感じます。「これでも着ておけ」という甘やかさない感じが良いですね。
まあ考えて柔らかく加工してあるのにまだまだ硬いんですけど。買った後に自分の服にして行くという過程が楽しみを産んでいくのでしょう。
それでも作業現場の主流ということはなくて、こういう昔風のものを作ってやっていけるのはわずかな会社だけなのでしょう。
弦楽器はこれとよく似ています。
買ったときはまだまだ硬くて使う人次第によってはずいぶんと柔軟になってきます。それに対して音は必ずしも柔らかくなりません。むしろ刺激的な音が強くなってきます。100年くらいを頂点に強くなっていくように思います。それが落ち着いて味が出て来るのは150年くらいからの印象があります。最初から落ち着いた音ならもっと早くに落ち着いてきますし、初めから落ち着いたものも作れます。
明るくてキンキンして「いかにも新しい」という音の楽器が日本でもてはやされているのは楽しみ方を知らないのかなと思います。
アメリカという国はおもしろいもので、歴史が浅いからこそその短い歴史に誇りを持っていると言えるでしょう。こういう古いものがダサいものとしてではなく残っていくというのが独特ですね。
私は全くの素人ですがギターの世界では楽しみ方というのができているようです。ヴァイオリン族の弦楽器はそれに比べると「高い=良い」というくらいしか語られないのは「浅いな」と思います。私が語っている弦楽器の世界はとてもディープなもので一般の人にはついてこれないかもしれませんがもっと楽しむ方法を研究していきます。
この作業服ですが、驚いたのはファスナーが左右逆になっていて通常の感じでやろうとすると動かないので、逆だったと気付きます。ヨーロッパのものに飽きてくると異国のものは面白いものです。
製造はメキシコ製で、アメリカだろうがメキシコだろうが私にとってはあまり変わらないと思います。日本製と中国製だと意味合いは違ってくるでしょうけども。
トランプはプンプンなんじゃないでしょうか?
政治のことを考えるよりも楽器のほうが面白いので考えるだけ時間の無駄です。
ヨルト家のヴァイオリン
今回も100年前くらいにデンマークで作られたフランス風の楽器です。
いかにもヨーロッパという洗練されたものです。
フランスの楽器製作が現代の楽器製作の基礎であり、19世紀の初めには非常に高度なものに改良され洗練されました。現代でもこれらが何世代も重ねて何となく伝わっています。
全く詳しくない人でもストラディバリウスの名前は聞いたことがあります。ストラディバリを理想のヴァイオリンと考えたのはフランス人です。それ以前のイタリアではストラディバリが神聖視されておらずストラディバリをお手本にするのではなく各自がみんな好きなように作っていました。ストラディバリに似せて楽器を作っていれば今頃もっと値段は高くなっていたでしょう。
近代以降の楽器でストラディバリに似ていればフランスの楽器の影響を受けたものです。
古い時代はフランスやオランダでは割とアマティをお手本にしていました。
ドイツ、オーストリア、チェコ、イギリスや北欧などもどっちかというとシュタイナーをもとにしていました。それでもシュタイナーにできるだけ似せることを目指したというよりは、イタリアの職人と同様に好きなように作っていました。
オールド楽器がとても面白いのはこういう風に作るべきというのが決まっていなかったことです。
私は個人的にこのようなオールド楽器は大好きで音色にも味わいがあって趣味として楽しむのには良いと思います。
前回は楽器の品質について基本的なことを語りましたが、矛盾するようなことを私は言います。私は一つの物差しだけを盲信しているわけではないからです。それが創造性というものです。
近代以降の楽器は教科書通りちゃんと作ってあれば構造について音響面に問題がありません。あまりに手抜きをしていると構造に問題がありますが、質がある程度あれば音響上は問題ないはずです。それでも音は皆違うのでいろいろなもの試して聞き分けなくてはいけません。
それに対してオールド楽器は違う種目の競技のようなものです。
オールド楽器には音響上の構造に問題があるものが多くあります。
ヴァイオリン作りの教科書がなかったからです
近代の楽器というのは同じものを丁寧に作ったか雑に作ったかだけなのに対して、オールド楽器は構造に問題が無いかが重要になります。
オールドの時代にも安い値段の楽器の需要はあり、安い楽器も作られました。現在のように機械もなければ近代ほど大規模な分業も確立していなかったでしょう。手作りでただ雑に作ったのがオールドの当時安かった楽器です。
グァルネリ・デル・ジェズもそれに近いです。
イタリアの楽器であればそのようなものも1000万円を超えてきます。昔のスチューデントヴァイオリンです。
ドイツの楽器なら20万円くらいからでしょう。20万円のオールドヴァイオリンではまともな修理を施されておらず構造にも問題があってどうしようもないです。50万円くらいから仕事は雑でも構造に問題のないものがあります。買おうと思って買えるかどうかは知りませんが、ヨーロッパでは親戚等から譲り受けて使っている場合があります。
50万円のオールドヴァイオリンですが、修理をきちっとすれば構造に問題が無いのなら音は1000万円のイタリアのヴァイオリンに近いものもあります。そういう楽器を初心者が使っているのがヨーロッパです。
今週だけでも2名もそういう楽器を使っているお客さんがちょっとした用できていました。
いままで一度も弦を変えたことが無いような初心者の人が高いアーチのオールドヴァイオリンを使っているのだからおもしろいです。
オールド楽器の場合、質が悪いものでも奇跡的に音響上問題が無いものがあります。イタリアの楽器なら名器として珍重されています。ドイツの楽器も潜在的な能力を持っていると思いますが、高額な修理代を払う人がいないのが残念です。
近代の楽器は一定以上のクオリティがあれば教科書通りに作ってあるので十分よく鳴る可能性があります。
そのうち有名の作者のものはごく一部でしかありません。無名な作者でも一定以上のクオリティがあればそれらと変わらないかそれ以上のものはいくらでもあると思います。
有名な作者にこだわるのが馬鹿げているというのはそのためです。
この前から紹介しているデンマークのヴァイオリンですが、クオリティは十分過ぎるものがあります。名前はそれほど有名ではありませんが音量があってよく鳴ります。そのため優れた近代の楽器として紹介しているのです。
個人的にはオールド楽器が趣味性が高いと思いますが、一般的には近代の楽器も大いに優れたものだと思います。
フランスの楽器作りは高度に洗練され、多くの場合現代の作者ではそれより甘くなっています。
それが量産品や安価な楽器、腕の悪い作者の楽器になればずっと甘くなるわけです。
それは単に見た目だけでなく音や音響的な意味での構造もそうです。フランスのヴァイオリンはソリストや教授でも使っている人がいるくらいで彼らの演奏を聞けばオールドヴァイオリンファンの私でも認めないわけにはいかないです。オーケストラ奏者やチェロ奏者にとってはとても優れたものです。
上級者でも同じ値段で一流のモダンヴァイオリンか、2流3流のオールドヴァイオリンのどちらが良いかは意見が分かれるでしょう。
私個人としては新作の楽器でもオールド楽器のようなものを目指して作っています。
打倒モダン楽器としてがんばっています。
力で打ち負かすのは無理そうなので、味わいで魅了するようなそんなものができてきています。
フランスの楽器を研究しても一般的な新作の楽器に対してなら優れたものとなるでしょう。今回紹介しているようにフランスの楽器に近いものでも比較的安く買えるものがあるので100年近く経っている分音の強さではかなわないでしょう。
モダン楽器を認めるからこそ、目標ができるんだと思うのです。
本当のオールド楽器では多少不利な条件があっても古さによってカバーされる部分がかなりあると思います。新作でオールド風にする場合はピンポイントで様々な要素の奇跡的な組み合わせが必要でしょう。言い換えるとうまく作ればかなりいい線まで行くというのがこれまでの研究の成果です。
昔の作者はルーズに作っていても今になればうまく鳴っているのに対し、私の場合には奇跡の組み合わせを見つけなくてはいけないのです。それはとても面白いし、研究していくことによっていろいろなことが分かってきたのでブログで知識をおすそ分けしています。
オールド楽器ではとんでもなく適当に作られた楽器が本当に素晴らしい音を奏でていることがあります。
こういうメチャクチャなところが弦楽器の面白さです。
それに比べると現代の楽器は粒ぞろいで普通以上の出来ならどれでも可能性があります。名前が有名になって高い値段がついているのは氷山の一角なのです。
楽器購入のヒントを探している人には「便利な尺度」を提供できなくてもうしわけないです。
ちなみにビオラやチェロでオールドはとても数が少なく貴重なものです。
特に傷みやすいチェロでは「表板を開けたら最後」みたいなオールドチェロがあります。
スペインのサグラダ・ファミリアみたいに作業がいつになったら終わるのか見当もつきません。
修理のポイント
この楽器は作られて90年ほど経ちますが一度も表板を開けられたことありません。割れもヒビも全くなくとても状態のいいものです。同じころに作られた量産品ではもっとひどいことになっているケースが多くあります。接着面があっていないのに無理やり接着してあるので剥がれてくるのです。弦の力も均等に分散しないため弱いところが割れてしまったりします。なにも壊れていない楽器ですが、これを売りに出すなら、万全な状態にしたいです。分かっているお客さんなら当然万全な状態の楽器を買いたいと思うでしょう。
駒や魂柱のようなものは交換されていますし、指板も交換されているでしょう。ペグやテールピースなどもすでに交換されオリジナルのものではありません。それは普通のことです。
それだけではなくて、楽器の本来の力を発揮するには重要なポイントがあります。
①ネック
②バスバー
①ネック
ネックは特に重要なポイントで100年も経っているのなら修理の必要性が出てきます。見た目には壊れていないように見えてもこの角度が狂っていると表板にかかる弦の力が適切にならなくなるからです。中古の楽器の場合ほとんどの場合この修理が必要で、ヴァイオリン職人にとっては通常の仕事です。大きな都市のヴァイオリン職人の知人はこの仕事ばかりをしていると言っています。オーケストラや音大がいくつもあるようなところでもネックに問題を抱えた演奏者がたくさんいるのです。理想的な状態になっている人のほうが少ないくらいです。
弦に引っ張られて角度が寝てきます。そうなると駒の高さが低くなり音には元気が無くなってきます。それだけでなく駒があまりにも低いと弓が表板のエッジやコーナーにぶつかりやすくなります。
19世紀のフランスのモダン仕様では現在よりも急な角度で取り付けられていました。急な角度なら弦の張力に対抗する力が強いので長持ちはしますが音響的には表板に強い力がかかりすぎます。そのため多くのフランスの楽器でも同様の修理が必要です。当時は裸のガット弦でした。
②バスバー
これも消耗部品で木がカスカスになってきて粘りと強度が無くなってきます。一般的には位置がおかしかったり過去に取り付けられたものがおかしかったりしますので、新しくするメリットが大きくあります。この楽器に関しては作られたときに正しい位置にきちんと加工して取り付けてありました。問題があるわけではありませんが、木が古くなっているので交換します。
今回目標として耳障りな高音を抑える方向を目指しているので、何も変えなければ音も変わらないですから、バスバーを変えることでよりきめ細やかな音になると良いです。
経験的にそちらの方向に持っていくことができるとわかっていますので、オリジナルのバスバーであっても交換します。
この二つの修理を通して、鋭い音を和らげつつも全体としては、スムーズでスケールの大きな鳴り方になったら良いなと思います。ギャーと押しつぶすような音の出方ではなく軽々と音が出るようになるはずです。
そのためネックを取り外します。
表板を開けて古いバスバーを削り取り新しいものを取り付けます。
表板を閉めたのちにネックを入れ直します。
指板を削り直し魂柱と駒を新しくします。
ニスを補修してピカピカにします。
演奏できるように弦を張って組み立てます。
状態が良い楽器なのでこれだけで済みます。100年近く経っている楽器なら通常営業です。
きれいでどこも壊れていない状態の楽器なので、手を入れるのは抵抗感があるのですが、そんなことを言っていたらヴァイオリン職人の仕事ができないです。仕事ができない職人なんてダメですから。容赦してはいけません。ただ働くだけです。
作業です
ネックを取り外します。注意深くかつ大胆にするしかないです。しっかりついていないネックなら簡単に取れますが、それでは良い楽器とは言えません。チェロの場合にはまず取れません。気を付けるべきなのは裏板のボタンという突起している部分です。これを壊すと大変です。

角度を正しくするためにネックの根元に木を付け足します。それでもネックの98%くらいは残りますからオリジナルの状態をできるだけ残す修理となります。
指板の下に板を入れて高さを調整することもできますが、これくらい綺麗な楽器なら入れ直したほうがきれいに仕上がります。作られてから90年ぶりの修理ですからできるだけきれいにしたいです。
ケチって小手先の修理をするというほど作業は簡略化されないのに理想通りにいかなくてごまかすことが多くなります。こういう時はスパッとやってしまったほうが良いです。
こういうこともあるのでチェロの時もそういう話でしたが、工房の維持費を安く抑えられると良いですね。理想的な仕事をするとどうしても手間がかかります。都会の一等地に店を構えると利益を高めるために時間当たりの単価を高くせざるを得ず急いで仕事をすることになるのです。
大事な楽器だからじっくり作業できる環境を作るのが大事ですね。
さらに表板も開けます。量産楽器のように隅に削り残しが無く表板もきれいに作られています。バスバーの位置も正しいものです。表板は真ん中で2枚の板を貼り合わせてありますが、安価な楽器では合わせ目が楽器の中心にありません。この楽器では合わせ目が楽器の中心を表しているので駒やバスバーの位置が分かりやすいのです。

横板の手が触れる部分はニスがこすれて剥げ落ちたうえに、長年放置されたため汚れが木の中まで浸透しています。

体から生じる水分なども横板を貫通し内側にまで達していました。そこにはびっしりとカビが生えていてフサフサになっていました。
そこについているライニング(横板と裏板や表板の接するところに貼られた帯状の部材)も剥がれていました。今回の修理では故障個所はほとんどありませんでしたが唯一問題が見つかったのはここです。これはビリつくリスクになります。

ネックが入っていた部分は埋めなおす必要があります。ブロック交換まですると作業も多くなるのと同時に狂いも出てきますので今回は最小限に留めます。きっちり加工すれば問題はありません。ブロックやライニングなど内部の部材には柳が使われていました。一般には表板と同じドイツトウヒ(スプルース)を使うことが多いです。柳を使ったからなんだということはありませんが凝っている感じはします。

新しい材料は隙間なくぴったり合うようにすることが大切です。木の繊維の向きを間違えるとその後の加工が大変になります。注意深さが必要です。

横板も継ぎ足す必要があります。ネックを入れるときにまた切り抜くので残るのは1mm以下です。木目の雰囲気まで合わせる必要はないです。

確実に加工しうまく接着すれば一つの木と変わりません。これが不完全ならネックが外れるリスクがあり、グラグラすれば調弦が不安定になります。修理で必要なのは確実な加工です。新作なら「これが俺の作風だ」と言い張ればいいのですが、修理ではそうはいきません。
上部ブロックの形にも特徴があります。角が丸くなっているものです。
いろいろなテクニックがありますが、新品の時と同じ状態でネックを入れることができます。

古いバスバーを削り取った後は色が明るくなっています。新しいバスバーを取り付けます。材質はきめ細かいものを使うと今回の目的に合っているでしょう。

バスバーの取り付けは職人を目指す者にとってとても難しい作業の一つです。しかし完璧を目指して数をとにかくこなして行くしかありません。今年に入って3本取り付けをやりました。ルーティーンワークです。表板はまだしっかりしていて、内側の面もきれいに加工されているので難易度は高い方ではありません。加工が荒くデコボコになっていると取り付けるのは難しいです。
きれいに作られた楽器ほど修理は楽です。理論上は安い楽器ほど修理代を高くしなくてはいけないです。
工場製の楽器でバスバーを交換する実験した結果、きちっとつけてあげるときめの細かい音になりやかましさが柔らぐことを何度も経験しています。大人しい楽器を元気よくするのは難しいかもしれませんがやかましい楽器を落ち着かせるのは可能です。接着面が表板にあっていないバスバーを強引に取りつけるのではなく完璧に合わせることによって力がうまく分散するのでしょう。その結果特定の音だけが強く出て耳障りになることを防げるのではないかと考えています。

バスバーの形状を仕上げます。音響的なことも考えて強度を決めますが、今回は特別なことは必要が無いと思います。ごく普通にすれば良い音が出るのが良い楽器です。

表板のネックの根元も埋めます。せっかく取り付けたこの部材も残るのはわずかです。しかし隙間が空いているようでは見苦しいものです。

表板を接着すれば胴体が完了です。
修理自体は変わったものは何もなくただ高いクオリティで行えばいいだけです。これを修理代をケチって強引な方法で行うと悲惨なことになるのです。品質が悪い楽器なら問題だらけでどれだけ手を付けるべきか悩みます。外れているところがあればくっつけますが、削り残しや加工のまずさを直すべきか、直すならお金がかかります。100年も前の楽器だと、粗悪な楽器は過去に故障していてそれを直すときにも簡易的な方法が用いられていることが多いです。全部やり直す必要があるのです。

ネックを取り付けます。ネックのほうは根元に木材を貼りつけて足してあります。オリジナルの状態よりもわずかに高くします。駒を高くするときに角度だけ急にすれば音は鋭いものになります。
ただしあまり高くすると裏板のボタンの幅と合わなくなります。テーパーがあるので先に行くほど細くなるからです。また角度を急にするとネックのほうがボタンよりも奥に入ってしまいます。
したがって非常に正確さが必要な修理です。新作なら多少のごまかしが効きますが、このケースではピンポイントでネックを入れる必要があります。その意味ではネックをヘッドの根元から新しくするほうが理想的な修理と言えます。

ネックを取り付けた後ネックを加工しなおしました。これは最小限で済む場合もありますが、今回は演奏しやすいように万全にするため削りなおしました。それでもほんのわずかです。根元の塗装は削り去る必要がありました。オリジナルのボタンにはダメージを与えないようにすることが重要です。
このようなネックは消耗品と考えてください。オリジナリティを残すことはそれほど重要ではありません。コレクションとして演奏に使わないなら別ですが。
指板は過去に交換されたものがまだ使えるので交換しません。多くの修理では交換する必要があるのですが、メンテナンスをされている楽器であれば比較的楽になります。削りなおすことで十分演奏に使えます。やや薄くなりますが、量産品で工場から出荷されたものはこれくらい薄くなっているのはよくあります。なぜか工場製の楽器のほとんどは指板が初めから薄くなりすぎているのですが、そのままでは演奏に使えないので削りなおす必要がありさらに薄くなってしまいます。なんなんでしょうか?黒檀は加工が難しい材質なので失敗しているということでしょう。

駒と魂柱を新しくします。
これもきっちり仕事をすれば、ピーキーな音が抑えられて耳障りな音が和らぐでしょう。魂柱がしっかりあっていれば弦の力が楽器にまともにかかるからです。もともと良く作られてある楽器なら魂柱をきっちり入れることによってその楽器本来の音になります。
多くの楽器の場合本来の音が出てしまうと嫌な音になってしまうのでグラグラの魂柱のほうがよいケースのほうが多いと思います。しかし良い楽器の場合、私はグラグラの魂柱のほうが音が良いとは思いません。魂柱が短いと表板がつぶれて下がってしまいます。
駒はごく普通の市販されている上等の材質のものを使います。
古い駒と比べると高さが変わっています。手前が古い駒です。

特にG線側が高くなって、E線はあまり高くなっていません。
もともとついていたネックは指板のG線側が低くなるように斜めに取り付けてありました。駒の高さが左右対称になるようにという配慮でこのようにするやり方があります。
私はネックはまっすぐに入れます。
駒の低音側が高くなることは理にかなっているからです。人間の耳は高音のほうが感度が高く刺激を感じやすです。さらに、現在では高音にスチール弦を使うことがほとんどなので駒のE線を高くすると強い力が表板にかかることになります。
演奏上も指板のG線のところが低ければ手をねじらなければいけなくなります。
仕上がりは次回
この修理によって駒の高さが高くなってもネックの角度は急にはなっていません。バスバーは交換したことで表板に力がうまく分散しスケールが大きくきめ細やかな音になるでしょう。魂柱もきちんと入れました。駒はG線の側が高くなりE線のほうはさほど高くなっていません。これも高音の耳障りさを改善することに役立つでしょうか?
100年近く経っている楽器なら全く壊れていない楽器でもこれくらいの修理はして当然です。
日頃から全く修理されていないなら指板の交換やペグの交換も必要になります。ペグが太くなりすぎている場合には穴を埋めなおす必要もあります。
今回は思ったより作業ははかどりました。珍しいケースです。
長年ほったらかしなっていたり品質が悪い楽器なら開けてみて、問題がたくさん見つかるもので、事前に見積もりを出すのは難しいものです。予想よりはるかに多くの仕事が必要になることがほとんどです。
修理では正確性というのが問われます。
ヴァイオリン製作を目指したところ腕が十分ではないということで修理に転向する人もいますが、修理なら下手でも良いということはありません。
このような楽器ならやるべき仕事は分かり切っていますからそれを正確にこなすことです。
修理代に10万円とか20万円とかかかると聞いたときに、普通の生活の中では高額な出費になって驚いてしまうのです。それを3万円くらいで何とかするとなると難しいです。3万円でバスバーを交換してネックを理想的な角度にするのは難しいです。
西ヨーロッパなら東ヨーロッパの職人に頼んで修理してもらえばできるかもしれません。
東ヨーロッパの場合には道具にお金をかけるという発想が無いので荒い修理が行われるでしょう。
次回は音がどうなったか、楽器の構造についても研究していきましょう。