アマティ型のビオラを作る【第14回】ニスが塗り終わりました | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

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クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

こんにちは、ガリッポです。
私のところも白鳥がやってくる季節になりました。


製作中のヴァイオリンですが年内には完成する見通しになってきました。
ビオラは引き渡してしまうので試していただくのは無理ですが、ヴァイオリンについては興味のある方には試していただけるかと思います。クリスマス以降~1月中旬くらいを考えています。

前回の帰国が4月でしたが、いろいろな方にお会いして意見をうかがっていると特に日本だからこういう音でなくてはいけないということもないようです。業者が単に仕入れやすい現代の一般的なものを薦めているだけでユーザーの好みを反映しているわけでもなさそうです。したがって今回は日本向けに手加減することなく容赦なく作っているので多く出回っているものとは音色がだいぶ違うのではないかと思います。

今回も気に入っていただいた方には一台限定でお譲りします。
今回は無理でも次回以降優先するということもありますので興味のある人は考えておいてください。
ビオラに興味があるという方の希望も聞きたいと思っています。要望があれば次に作ることも考えます。

詳しくは近いうちに発表します。



作業が山場なので今は製作に集中させてください。


ビオラのニスが出来上がりましたので紹介していきます。





私でもニスを塗っている期間は目の感覚がどんどん研ぎ澄まされていって普段は見えないような細かな違いや違和感が見えるようになっています。その一方で感覚が鋭すぎてパッと見たときの感覚とは違うものになってしまっているということも言えます。

ビオラのほうはすでに塗り終わりましたが、今はヴァイオリンのニスを塗っているところです。

ビオラとヴァイオリンではニスの色や古くなる様子が違うものなので今ビオラを見ると「あれ?こんな風に塗ったっけ?」と思うこともあります。ついこの前なのにです。

普段なら途中ニスを塗っていない期間があるのですが今回は連続して休みもない状態ですから鋭い感覚のままニス塗りに突入しているので目が普通になった時にどう見えるのか恐ろしいところでもあります。

それというのも例えばニスの色はいろいろあるとは言っても青とかピンクとかシルバーとかがあるわけじゃないです。すべて茶色で、黄色みが強いか、赤みが強いか、黒っぽいか・・・その程度のことでしかないです。それらは相対的なもので、赤いニスと思ったものももっと赤いニスの楽器を目の前にすれば茶色に見えます。新しい楽器ばかりの中に置いた時とオールドの傍に置いた時では同じ色でも違う色として印象を持ちます。部屋の壁の色や照明だけでなく天気によっても光線が違うので全く違う色に見えます。

微妙すぎて難しいものです。

塗り重ねて十分な色になったと思ってもまだまだ足りなかったり、気が付いたら真っ黒になっていたこともあります。



また作業を続けていると段々鮮やかな黄色やオレンジ色が強く刺激的に見えてきます。アンティーク塗装で鮮やかな黄色やオレンジ色では新しく見えてしまうので抑える必要があります。敏感になりすぎていて十分落ち着いたトーンなのに鮮やかすぎるように見えることもあります。

私はそういうことをとても気にするのでオレンジになりすぎた過去の楽器や他者の作った楽器を見ると「ダメだこりゃ」となるわけです。それを同僚の職人が「ニスの色が良い」と絶賛していたりするわけです。

他の人の目にどう見えているのかわからないですね。
音のほうがもっと人によって感じる差が大きいように思います。人間の感覚器官としてはより視覚のほうが発達しているということですから。


日本では「つまらないものですが、お口に合いますかどうか・・」と言いながらお菓子などを贈ったりします。テレビなんかでも「激ウマ絶品グルメ!!」なんて言う時代になってしまったのです。「つまらないものをよこすなよ!!」なんて冗談で言っていましたが人によって感覚や好みは違っていて当然だと思います。相手の感じ方を尊重するそんな習慣も忘れられてしまっているのでしょうか?

弦楽器も同じです。


目止め

まずは目止めから。目止めは直接色のついたニスを塗ると木に染み込んでしまい染みになってしまうことを防ぐために染み込ませるものです。よくDIYなんかで棚などを作って汚い感じになってしまうのはこのためです。

木は繊維の向きや硬さによって吸い込む量が違います。場所によって色が違ってくるのです。それが汚らしく見える原因です。プレッセンダのように色が染み込んでいる楽器もありますが、普通色が強く染み込んでいる楽器を見たときにはアマチュアの製作者かちゃんと勉強していない職人の楽器と考えます。イタリアのモダン楽器にも見られます。イタリアには結構アマチュアのような職人が多くいたようです。貧しい時代仕事が無くて素人が作ってもイタリア製ということで売れたのです。もちろんイタリア以外も同様の楽器はありますが国名が違うということで金銭的な価値はなくただのガラクタという扱いになります。アマチュアの職人はどこの国にもいるのですが名前が残るのはイタリア人だけということです。オークションや高級店でひどい出来の楽器があるとそれらがみなイタリア製だというのはこのためです。別にイタリアのものだけが悪いわけではありません。同じレベルのものでも他の国のものは表に出てこないだけです。

イタリア人なら独学で作り上げた努力家の天才と言われ、同じような出来栄えでもそれ以外の国ならただの素人のガラクタというわけです。これが我々の業界の慣習です。



目止めですが、これも音の秘密として怪しげに語られるものなのですが、私もいろいろ試しましたが劇的に音が良いことも悪いこともなかったです。素材を変えても画期的に音が良いということはないと思います。いろいろなものを試してもいつもと同じで「普通」という感じになります。

今回も今までとは違うものを試してみましょう。結果が素晴らしく良いか極端に悪ければ考え直すかもしれません。今のところ目止めが音の秘密というのは無理があると思います。


今回はカラッとしたような材質を作ってみました。ゴムのようなねっとりとした材料ではないものです。弾力が無いと板が曲げられたときに細かく割れてしまうという問題がありますが古い楽器なんかではおそらく風化して砕けてぼろぼろになっているのではないかと思います。通常の使用でそんなに板を曲げることはないのですぐに割れていくということはないでしょうが何百年もすればボロボロになるのではないかと思います。


ちなみにニスの材料にする樹脂の英語名ではガムと呼ばれるものが多くあります。樹脂のことをガムというわけです。天然ゴムも木からとれるものです。
大量生産品には人工樹脂の堅固な物が使われているでしょう。勤め先の棚を塗ったのですが、塗料を作り付けの家具を作る業者に分けてもらったところ目止め材としてニスと接着剤の中間のようなものをもらいましたが棚の目止めにそれは使わずに亜麻仁油を使いました。

亜麻仁油を弦楽器の目止めに使うこともあります。それで作った同業者の人が言うには音が良かったそうです。私のところでも試しましたが普通でした。亜麻仁油は酸化が遅いので塗った時と何十年か後で酸化が進んで質が変わってくるのではないかと思います。それでも大した影響はないと思います。


今回新開発の目止め材によってカラッとした音になったとしたらと期待はするのですが、おそらくはっきりとした結果にはならないでしょう。

自分で作ります。材質によって光の屈折率が違うので杢が浮かび上がる効果に差が出ます。木の地肌を着色しますがその上に屈折率の高い素材を塗りこみ、ちょうどプールの底に色が塗ってあるような状態になります。水に色が溶けているのではなく、底面に色がついてて途中が無色透明という状態です。これによって杢が深く見えます。

左側が塗ってあるところです。塗っていないところと比べてみてください。
この後余分なところを溶かして取りますがそれでも塗る前に比べるといわゆる濡れ色になっていて杢が深くなります。
それでも板目板なのでそれほど強い杢にはなりません、ぼんやりとした出方です。

染み込んでいる量はたかが知れているので音に与える影響も限られているでしょう。新作の場合上に塗られる色のついたニスのほうがはるかに多いためこちらのほうが音への影響が強いと考えています。300年も経つような古い楽器では剥げ落ちてしまってほとんど残っていません。



全体に塗るとこんな感じです。

エッジを丸くする

古い楽器というのは摩耗して角になっているところは丸くなっているものです。それを再現していきます。

今回目指すのは奇跡的に良い状態のものを再現します。貴族のコレクションからミュージアムの展示物になったような現在では演奏に使われいないような感じです。コレクター向きのものでプロの演奏家が一線で使っている状態ではありません。

何が違うかというと、激しく演奏に使われてきた楽器では損傷や摩耗が大きいだけでなく日常的に手入れを繰り返しています。ニスは汚れを取るためにこすったり研磨され、上からコーティングのためにクリアーニスが塗られています。クリアーニスも研磨されています。オールドの名器であればほとんどオリジナルのニスは残っていないのが普通です。それに対して長年使用されていない楽器ではオリジナルのニスが豊富に残っていて表面も過度に研磨されていないのでニスの表面にも表情があります。

今回はミュージアムのコレクションのような状態のものです。
角を丸くする具合も目指すものによって異なってくるわけです。

手が当たるところの摩耗も控えめです。

コーナーです。これくらいの摩耗ならフルバーニッシュの新作でも初めからこのように作ることもあります。それと違うのはどこもかしこも均一に丸くなっているのではないところです。場所によって摩耗しやすいところとそうでないところがあるからです。

アマティの細長いコーナーも多くの場合摩耗して残っていません。

本来ならもっとも損傷を受ける表板の右上のコーナーですが、この程度にしておきます。
スクロールやf字孔も角になっているところは丸くします。

目止めの後にこれをやる理由は実際に古い楽器では摩耗した場所は木の地肌が削り取られてそこに皮脂などの汚れが刷り込まれています。したがって他の場所よりも黒ずんでいることがあります。チェロの裏板下のコーナーやエッジに至っては緑色になっていることがよくあります。これは演奏者がジーンズをはいているからです。インディゴの色が擦り込まれているのです。

新しく木が削れた部分は他のところよりも黒ずんだ色に着色します。ここを全く染めずに白木のままだと古い楽器の雰囲気が出ません。下地が黒ければ黄色いニスを塗れば黄金色になりますが白い下地ではレモンイエローになるからです。ここの部分はニスが剥げてしまっている状態を再現するのでニスを厚く塗ることができないのです。ニスを厚く塗れば色を作ることができますが、薄い層で古くなったエッジの色を作るのはとても難しいのです。さらに使用中に剥げてきたときに白い色が顔を出します。

色の調整

ニスは配合を変えることによっていろいろな色を作り出すことができます。複製を作るにはオリジナルのニスと古くなった木の地肌の色のニスと無色透明なニスの3種類が必要です。フルバーニッシュなら一色で良いわけですからずっと複雑になります。3回もニスを作らなければいけません。色調は本当に微妙です。フルバーニッシュならたまたま出来上がった色でオレンジだろうが赤だろうが茶色だろうが黄色だろうが何でも良いのですが複製になるとピンポイントで狙った色を出す必要があります。


ニスの配合を変えることで目指した色のニスを作るわけですが、完全に色が一致しなければ微調整が必要になります。いろいろな色のものを混ぜることもできます。今回は茜という染料から作られた顔料を使います。ベースにオレンジのニスを作っておいて茜の顔料を混ぜることで赤さを調節できます。

茜という染料は古くから衣類などの着色に使われてきた歴史のある染料で、アリザリンという成分を含んでいます。19世紀後半には人工的にアリザリンを合成する方法が開発され茜は使われなくなってしまったのです。油絵具でも天然の茜をラインナップしている絵具メーカーは相当マニアックなメーカーだけです。色は少し違っていて人口のもののほうが鮮やかな赤色で天然のものは不純物が多いせいか深みのある色になっています。こうなると天然の茜を使ったものでなくては出せない色調があるように宣伝すると希少性をアピールできますが今回のように色を調整する目的ではほとんど違いはありません。人工のものと両方作って試してみました。

「ストラディバリと同じ天然の茜で作ったニスだ」というような文句を聞いたことがあります。別の人はストラディバリは朱を使ったと言います。・・・・まあどうでもいいことです。


水溶性の染料で水酸化アルミニウムに色がつくことによって粉末になる顔料です。染料から顔料を作ってそれをニスに混ぜるのです。油や油性溶剤に溶かせる染料と水にしか溶かせないものがあります。水にしか溶かせないものは水に溶かしてから粉末に色を付けて顔料にするのです。油や油性溶剤に溶かせるものはニスにそのまま溶かし込みます。




これが茜の顔料です。このままでは粒子が荒いのですりつぶす必要があります。粒子が細かくてもオイルニスに混ぜるとダマになってしまうので油かニスとともにすりつぶす必要があります。

始めは紫がかって見えます。

鮮やかな赤い色になってきます。
これで真っ赤なフランスの楽器のような色になります。
大量生産では人工染料を使いますが、これで赤いニスを作ってもフランスの楽器のようにはなりません。フランスの作者のラベルがついたチェコ製の偽物は全然ニスの質感が違います。

写真でもわかるように赤といってもニス自体はペンキのような赤ではありません。あくまで赤みの強い茶色なのです。本当に赤だけを白木の楽器に塗れば理論上ピンクになるはずです。実際はピンクには見えなくて紫がかった色に見えたりします、いずれにしてもひどい色です。赤いニスの楽器のイメージとの比較になるからです。
アマチュアの作った楽器には赤いニスを作ろうとしてこのようになってしまったものがあります。



しかしながら、赤すぎるので今回はもう少し弱めて使います。オレンジ色くらいにします。

このような顔料をすりつぶす道具は日本の最も大きな画材店でも売っていることを見たことがありません。アマティやストラディバリの時代には画家は自分で絵具を作っていたので顔料をすりつぶす道具を使っていたに違いありません。現代の日本では油彩画家でもなじみのない道具ですね。いろいろな形のものがあったようです。

ニスを顕微鏡で調べると顔料は粉末なので見ることができます。古いクレモナの楽器を調べると粉末は少しだけ含まれているそうです。顔料だけで色を作っているのではなく補助的に入れられていたようです。もしかしたら乾燥材や体質顔料のように別の目的で粉末が入れられたのかもしれませんし単にゴミが混ざっているだけかもしれません。


材料に何を使っているかが重要なのではなくどう見えるかです。
色調を微妙に調整することが重要です。素材の名前は知識をひけらかして商売する人が飛びつきやすいものです。私は実際に色合いを見てから何をどれだけ入れるか判断します。

ニスの材料をアピールするような業者には気を付けてください。

表板のくぼみに汚れを入れる


表板はスクレーパーという道具で仕上げると凹凸ができます。針葉樹にははっきりした年輪が現れますが、冬のところは硬く密度が高くなり夏のところは柔らかくふわふわになります。スクレーパーで削ると柔らかいところは押しつぶされてしまって刃が食い込まずに削れないため硬い冬目のところだけが削れます。ティッシュペーパーをはさみで切るのが難しいのに似ています。
そのため、年輪のラインがくぼむのです。

このくぼみ方は木目の荒い木で大きくなり目の細かい木では小さくなります。見た目の印象にも違いが出ます。サンドペーパーで研磨すれば凹凸を無くすこともできます。


このように年輪ラインのくぼみに顔料を擦りこんでいきます。表板は着色できないのでこのように古さを表現します。問題は適切な色調や濃さにすることで大変に難しいものです。同様の手法は大量生産品にもよく見られます。問題は手法そのものではなく色調や色の濃さが適切であるかということにあります。同じ手法でも見苦しくなるということです。

これには二つの意味があります。
①古くなって年輪が濃くなるため
表板は古くなると年輪のラインが濃い色になります。これを表現するために年輪のラインの色を濃くするのです。
②くぼみに汚れがたまるため
くぼんだ所に汚れがたまることで他のところよりも濃い色に見えます。



本来なら汚れはニスの上から付くはずですがなぜはじめにつけるのでしょうか?
ニスを厚く塗った場合研磨をしていくとくぼみはニスで埋まります。それが時間が経過し溶剤が蒸発し痩せて来るとくぼみが深くなっていくのです。そこに汚れがたまるということです。
ニスの層が薄ければ初めからくぼみがあるかもしれません。古い楽器で演奏に使用されているものは修理や保護用のニスが塗られていてくぼみが埋まっていることが多いです。

ニスを薄く塗ればくぼみは残りますがそれだとちょっと擦れただけでニスがすぐに剥げてしまい品質に問題が出ます。ニスを厚く塗った場合くぼみが埋まってしまうので初めに付けるのです。

この時難しいのは最終的にニスが塗り終わった後で色がどれくらいの濃さになるのか予想がつきにくいことです。つまりコントラストがどれくらいになるかということです。もう一つは色調も予想がつきにくいです。真っ黒なのか、茶色なのか、灰色がかっているのか・・・です。上に塗るニスの色によって色が変わって見えてしまうのです。大量生産品では真っ黒~赤茶色みたいなものが見られます。これは人工の着色料に黒と茶色を使っているからです。実際の汚れであるほこりなどはもう少し灰色っぽい色をしています。真っ黒~赤茶色だと大量生産っぽく見えるのです。色の組み合わせによっていろいろな色に見えるので本当に難しいです。

「年輪のくぼみに汚れがたまる」という現象も同じ作者でも楽器によって起きたり起きなかったりします。汚れの濃さも楽器によって違い真っ黒になるものとうっすらとしたものがあります。
また同じ楽器でも場所によって汚れのたまり方に違いが出ます。表板であれば汚れが付着しやすい駒付近やf字孔付近にはくぼみが真っ黒になっているのに対しアッパーバウツのところにはほとんど汚れがついていないということもあります。すべてが均一に黒くなっていると不自然に感じます。量産品のオールドイミテーションに感じる違和感です。


今回のビオラでは弱めにします。デルジェズのヴァイオリンでは部分的にずっと濃くします。

色ニスを塗る

オリジナルのニスにあたるニスを塗っていきます。

オリジナルのニスが残っている部分だけ塗っていきます。この時代の楽器にしてはかなり状態が良いというとこれくらい残っているのです。

表板に至ってはあごの当たる位置を除いて全域に残っています。一部は補修されているかもしれませんが貴族のコレクションの楽器ではこのようなものが時々あります。これでどうやって古さを表現するかがポイントです。ふつうはニスが全体に残っていれば新品のように見えてしまうのです。わざとらしいイミテーションでは中央だけニスを残してあとは塗らないのですがそれだとリアリティがないのです。

スクロールもこのような感じですがこれでは全く古く見えませんね。このようなものでイミテーションとして売ってしまう人もいるのですが、私には信じられません。


先ほどの状態ではわざとらしいのでニスが剥げた境界を再現します。

ヴィヨーム以降フランスの楽器ではよくこのようなことは行われましたが、もっと荒く規則的になっています。実際の楽器に起きるのはとても不規則で左右も対称ではありません。

ニスの性質によってこのようにパリパリと剥げていくタイプのものもあれば消しゴムのように擦れて薄くなっていくタイプのものがあります。同じ作者の場合には比較的に似た様子になっていることがあるのはそのためです。
ただし、演奏に使用されている楽器なら上から研磨するため境界がぼやけたようになります。ストラディバリのあるビオラでは古い写真は上の画像のように境界がはっきりしているのに最近撮った写真では境界がぼんやりとしているのです。使用していくうちにニスが剥げた形跡が甘くなっていくのです。
別のパターンではニスが剥がれたところに汚れがたまり黒っぽくなっている楽器もあります。いろいろなパターンがあるのです。

作業をするうえで不可欠なのはニスを剥がしやすくすることです。二つの方法が考えられます。ニスが固まるスピードがゆっくりであることか固まった後に溶剤で濡らして柔らかくするかです。
今回はゆっくり固まるニスを開発しました。柔らかいニスでも剥がすことはできますが柔らかいままでは困ります。1週間くらいゼリー状でそのあと硬くなるニスを開発しました。

出来上がりです

途中の工程は省略しますが先ほどの全然古く見えないものがどうなったかご覧ください。



全体はこのような感じです。

細部はこのような感じ。全体にニスが残っているようでもよく見るとまばらになっています。ちゃんと古さを表現できるのです。この方がさりげないでしょう。年輪に色を付けた効果も分かるでしょうか?


裏板はこのような感じです。見違えるようになりました。


クローズアップです。


スクロールもこのようになりました。

後ろもはこのような感じです。

いろいろな角度で

ニスが出来たのでこの後は部品の取り付けになりますが、私としてはニスをしっかりと乾かしたいところです。どれくらいかかるかと言われれば返答に困るところです。触って指の跡がつくようでは乾いていませんが強い力のかかる駒の足のところがカチカチになるのはかなり難しいです。最低一か月は乾かしますが半年や1年、2年でも乾燥は進みます。50年100年の単位でも続いていきます。そうすると先ほどの話のようにニスが痩せていくのです。音もカラッとしてくるでしょうね。








ニスが全体に残っているようでもフルバーニッシュとはまるで違うことが分かるでしょうか?細かくいろいろな色のところがあります。




この画像で見ると色の濃いところと薄いところが分かりやすいと思います。全体にニスが残っていても均一ではないのです。


立体としてみるとより雰囲気があります。

ニスには厚みがあるので剥がれているところは低くなります。ニスが剥がれたところには修理のクリアーニスが塗られているという設定です。ニスの表面にも凹凸があり平坦ではありません。これを研磨すると凹凸がなくなりニスが剥がれている境界がぼやけるのです。


横板です。



表板のエッジも古さを醸し出しています。

ヘッド。

昔はペグボックスの中は何も塗っていなかったようです。極めて状態の良い楽器では古くなると汚れがたまって黒っぽくなっているようです。通常はペグの穴埋めや継ぎネックの修理の時に黒く塗られています。

ストラディバリでは面取りのふちが黒く塗られていましたが、アマティでそのようなものを見たことがありません。


以上です。


アンティーク塗装ではモデルになる楽器によって色合いやニスの様子は違ってきます。それでも全体として私の作るものには共通する雰囲気というものが現れます。古い楽器を模して作っても人によって仕上がりの雰囲気は大きく違ってきてその人の雰囲気というのはでてしまうものです。フルバーニッシュのほうが誰が作ったものでもみな同じに見えると言えるかもしれません。


さあ、この後は部品を取り付けて完成になります。
音についても楽しみですね。プロのビオラ奏者にも試してもらえるかもしれません。

ビオラではミュージアムのコレクションのような状態をイメージしましたがデルジェズのヴァイオリンのほうは使い込まれているような様子にしていきます。来週までにできるでしょうか…