除菌イオンのケースでは、ロゴデザインやパッケージへの展開などによる視覚化がうまくなされている点が注目される。このブドウ状のロゴマークは、店頭において強い差別化ポイントとなる。消費者はもちろん、除菌イオン技術のメカニズムを理解できないし、説明したところで理解しようともしないだろう。しかしこのマークの存在は、技術内容そのものが伝わらなくても、そこからもたらされるベネフィット、すなわち「安心感や清潔感のある生活」を想起させることができるのである。
そしてこのマークを、空気清浄機に限定することなく、商品カテゴリー横断的に使用していった点が特徴的だ。消費者は「空気清浄機」というモノを買っているわけではない。「カビやウイルスのない、清潔で安心な快適空間」というコトを買っているのである。そうしたコトを達成するためには、リビングルームだけでなく、水周り空間や移動空間においても除菌が不可欠だと気づくことになる。このように、モノの機能ではなく、コトのベネフィットという一段上の知覚品質を伝えるブランド戦略が、空気清浄機以外の白物家電にも付加価値を与え、成熟した商品分野を価格競争の脅威から救うことになった。さらにはそうした市場認識の高まりが、異業種提携によるカテゴリー横断型の商品開発の素地となっていった。
ただ、除菌イオンを語る上では、シャープの技術経営戦略の本質をさらに掘り下げねばならない。いくつかその特徴を見ていきたい。
例えばシャープは、既存商品の問題点を克服する修正・改良型の商品開発ではなく、技術者がモチベーションを上げることのできる商品開発を目指してきたという。しかしこれは「プロダクトアウト」ではなく、消費者にとって潜在的なニーズの顕在化につながるテーマでなくてはならない。そのためには、技術の夢と生活者の夢をシンクロする必要がある。シャープ電化システム事業本部が掲げたのは「空気のあるところすべて除菌イオン」という大いなるビジョンであった。
さらには、大学や研究期間との共同研究を行い、新技術の効能をデータで裏付けるアカデミックマーケティングを実践してきた点も注目される。同技術においても、石川県予防医学協会や北里環境科学センターなどの公的機関と共同研究を行い、成果を発表してきた。最近では、ロンドン大学との共同実験により、プラズマクラスターイオンがトリインフルエンザウイルスの働きを99%低減することを実証した、という発表も行っている。
こうした、技術とマーケティングを密接に結びつけようとする経営姿勢が、プラズマクラスターイオンの成功を背後で支えたといえるのかも知れない。