小説の続き書きました。新版・遠いデザイン5-5 | 産廃診断書専門の中小企業診断士

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ふじのくにコンサルティング® 杉本剛敏 中小企業診断士事務所の杉本です。私はコピーライターとしてネーミングやコピーを作る一方で、中小企業診断士として企業のマーケティングを支援。2021年、2016年に静岡新聞広告賞受賞。これまでに提案した企画書は500を超えます。

2001年 冬

 

 七瀬は地面から顔を上げた。高いスチール壁が残照を遮り、辺りはすでに闇の色に沈んでいたが、出入り口には街の明かりが差していた。そこを横切る人たちは、薄暗い工事現場に一人ぽつんと立っている男に不審そうな眼差しを向けていく。大きなショベルカーが目に入ったのか、突然、幼い男の子が敷地内へ駆け込んできた。すぐに母親らしい若い女性が追ってきて、背後から男の子を抱き上げる。大小のギザギザした長い影が地面に踊って、やがて静まる。手をつなぎ遠ざかる親子の後ろ姿が七瀬の頭の中で、このマンションに入居する家族の背中と重なっていく。

それはこのマンション広告のターゲットと呼べるものだった。七瀬はそのぼんやりとした対象を見極めようとして、彼らの生活の細部を積み上げはじめる。

『三十台前半のダブルインカムの夫婦。妻はキャリア志向で、子供はいない。金銭的なゆとりがある。無添加にこだわっていて、食品も化粧品もその類だ。夫はITのプログラマーでタバコは吸わない。スーツは百貨店で買う。そう、日本のアパレルメーカーのブランド物なんかだ。共通の趣味はインテリアを二人のセンスで飾ること』

 しかし、言葉だけでシーンを築こうとすればするほど、そこから生活感というものが抜け落ちてしまって、今立っている足場のような不安さに思わずよろめきそうになった。

 七瀬は大きく息をついて出入り口の方を見やった。美紀と三谷の帰りがやけに遅かった。辺りはいっそう闇の色が濃くなって、名店街を走る車のライトが時折、出入り口の壁の内側を光の舌で舐めていく。

 しばらくして光に浮かんだ四つの人影の中に美紀と三谷の姿を認めて、七瀬は出入り口に向かって歩き出す。近くまで来ると、スーパーのビニール袋を提げた主婦らしき二人連れが、黒く波打っている地面に足を踏み入れるのをためらうかのように立ちどまっていた。

「七瀬さん、こちらのお二人、今、社宅に住んでおられてね。このマンションにとても興味があるとおっしゃっていて。そこで、とにかく、会員登録してもらおうと思ってね。ほら、不動産屋の方も顧客リスト欲しがって・・・・・・あ、いや、このマンションの物件情報もいち早く届くことだし」

「不動産会社の社員と勘違いされて、お二人から声かけられたの。でも、反対にこちらからいろいろ質問させていただいて、とても参考になったわ。なんといっても、ターゲットの生の声なんだから。ねえ、七瀬さんも、何か、お話聞かせていただいたら?」

 七瀬が顔を向けると二人の女はかすかに身構えた。でもすぐに、まるで値引き交渉の相手を紹介されたといわんばかりに媚びた笑顔を七瀬に返した。

 

 

遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。

17年前の2001年が舞台の古いお話です。