小説の続き書きました。新版・遠いデザイン5-3 | 産廃診断書専門の中小企業診断士

産廃診断書専門の中小企業診断士

ふじのくにコンサルティング® 杉本剛敏 中小企業診断士事務所の杉本です。私はコピーライターとしてネーミングやコピーを作る一方で、中小企業診断士として企業のマーケティングを支援。2021年、2016年に静岡新聞広告賞受賞。これまでに提案した企画書は500を超えます。

2001年 冬

 

「まだ更地とはいっても、やっぱし、現場、見ておかないとね。街の雰囲気っていうか…だいたい、こんな計画書の数字ばかり眺めてたって、ピンとくるもの何もないし」

 地域内の世帯調査、家計消費動向、昼夜の人口動態比較……いろいろな統計データで体裁が整えられた事業計画書を後部座席の七瀬に渡しながら、美紀が口を開く。そのまま隣の運転席にも目をやるが、コピーライターを七瀬にすることを美紀に押し切られた不満がまだくすぶっているのか、三谷はブレーキペダルを踏んだまま口を開こうとしない。

 駅前から名店街を下って五分も走らない距離にマンションの建設現場はあったが、毎年恒例の予算消化の工事渋滞にぶつかってしまい、フロントガラスの先に立つ交通整理員の警棒は振られないままだ。

 路肩には、年輩の交通整理員が乗り付けてきた錆び付いた原付バイクが停まっていて、ハンドルには薄汚れた布バックがぶらさがっている。七瀬は、弁当の形をしたその布地の膨らみに、何か生活の祈りのようなもの感じてしまい思わず目を背ける。対向車線を走ってくる幼稚園の送迎バスが目に入り、今降ろされたばかりの園児と迎えにきた母親たちの姿が走る車の切れ間に見え隠れした。

 停止中の七瀬たちの車の後方からクラクションの連鎖がはじまる。それに脅かされたわけではないが、ようやく交通整理員の警防が振られて、加速した車の中で美紀は大きく伸びをする。正面に回った西日がビルの谷間から強い光を浴びせかける。三谷が舌打ちしながらサンバイザーを下ろした。

 専門店が多かった名店街も、下るに従って、鮮魚店、八百屋、酒屋、総菜屋といった最寄り品店が目につくようになり、店先に普段着姿の主婦たちを集めて、日常生活の放埒さをまといはじめる。「あれが現場だよ」と三谷が指さす先から、鈍く光る灰色のスチール壁が存在感を増して迫ってきた。

マンションの建設予定地は名店街通りの終点に位置していた。それはその通りと、その先で交差する国道とに挟まれた角地だった。高いスチール壁に遮られて通りから敷地内を窺うことはできないが、国道側の壁だけは工事車両の出入り用のために中央部は大きく開かれていた。

「この無愛想な壁にでっかいパネルでも架けて、なんか絵でも描かせりゃよかったんだよ。ほら、駅南にあるだろう、デザイン学校が。うちにも毎年、インターンシップにくるようなぁ。あいつらだったら、タダでも喜んで描くよ」

「課長、それも提案してみましょうよ。メルヘンタッチで描いたマンションの完成図なんていいじゃない? 工事、一年近くかかるわけだし、この現場だって立派な広告媒体よ」

 

 

遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。

15年前の2001年が舞台の古いお話です。