2001年 冬
「驚かせてごめんなさい」
美紀は中身のカップ入りコップが透けて見えるビニール袋を提げて室内に入ってくる。脇に挟んでいた分厚い角封筒を抜き取れと、七瀬にあごで指図する。
「課長からの伝言だけど、午後のJA打ち合わせ、一人で行ってくれって。別のオリエンが入っていたこと、あの人、すっかり忘れてたのよ。これが今日、先方に提出する資料」
中身は何冊もコピーされた見積書だと知って七瀬は気が滅入る。思えばこのプロジェクトがスタートするときに、自分にメディア通信社用の名刺を用意した三谷の意図が今ではすっかり見えていたが。
「私のwebの分も入っているからよろしくね。大丈夫よ、ただ、先方に預けてくればいいって。おカネの交渉は後から自分がやるって、そういってたわよ」
ソファーに腰を沈めた美紀は、指で簡単にへこむ薄いプラスチック製のコーヒーカップを袋から取りだして、目の前のガラステーブルの上に並べ置いた。差し込んだストローの中を黒い液体がルージュを引いた口元へと昇っていく。
「あの子、名前なんていったかしら? ほら、あのJAの、あの担当者、課長がきれいだって言ってた子よ」
「ああ・・・・・・川奈さんだろ」
「そうそう、川奈亮子。あの子、まだ、担当なんでしょう?」
白いビニルクロス貼りだから、余計にタバコのヤニが目立つ仕事部屋に美紀のハスキーな声が振りまかれる。七瀬は小振りのガラステーブルを挟んで、美紀の前のソファーに腰を下ろす。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
15年前の2001年が舞台の古いお話です。