新版・遠いデザイン2-6
2001年 冬
小田嶋が追いかけるようにいって、引きつりぎみの笑顔を見せる。
モデルの声が気になるのか、背中合わせに座っている林田が、さっきから何度も後ろを振り返っている。
歳のわりには低くて抑揚のないモデルの声は、テープレコーダーから流れてくるよ
うで感情の起伏がわからない。室温が高いため、冷水入りのコップが汗をかいて厚紙のコースターが湿ってくる。脂で白く濁った冷水を飲みほしたマネージャー
が、またカチカチという耳障りな音をまき散らしながら肉料理を切り分けはじめる。
「そうね、七瀬さんがいうように、私、幼すぎたのね。悲しかった記憶が飛んでいるの。でも、私の半分がこの世からなくなってしまったことで、私はとても軽くなったのよ」
女の目は虚ろな、それでいて何かをはっきりと凝視しているような光を帯びている。
「でも、モデルの仕事をはじめるようになってから、ときどき私に近づいてくる、もう一人の存在をはっきりと感じるようになったの」
こいつは、白痴か?
そう思ったと瞬間、テーブルの下で動いた小田嶋のつま先が七瀬の踵を小突く。七瀬も軽く小突き返した。
林田たちのテーブルには、すでに食後のコーヒーが点々と染みが飛び散ったランチョンマットの上に運ばれていたが、七瀬たちの席ではまだモデルのおしゃべりが続いている。時折、思い出したように口元に運ばれる肉片が女の食道を通る時、小さな喉ぼとけがその在りかを示した。
「バーターよ、バーター。こんどは私が質問する番でしょう?」
モデルの女は、入ってまだ日が浅い広告業界のことを知りたがっていた。店内が混み始め、とっくに食事を終えていた林田たちが見かねたように椅子から立ち上がった。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
15年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。