新版・遠いデザイン2-3
2001年 冬
数枚試し撮りされたポラに支配人からOKが出た。
「では、本番いきます!」
小田嶋の上擦った声が走った。ヘアを整えていたスタイリストがモデルから離れる。アシスタントがデフ板を構え直す。それぞれが申し合わせたようにその場に静止して、映るはずのない声までも消す。二度、三度、フラッシュの乾いた閃光を浴びるうちに、モデルの瞳が徐々に潤みを帯び、口元が陶酔の色に開かれていくことに小田嶋は気づいた。
彼はファインダーから目を離して正面からモデルを見据えた。女がつくる微笑、それは何かの花が開く様子を思わせたが、具体的な花の名前は
思い浮かばない。小田嶋は頭の芯がぶれる感覚に襲われつつ、再びファインダーに片目を押しつけた。
その時息を飲んだ。構図のうちに潜む得体の知れないものが彼に写せと迫ってきた。この三十年のあいだに撮影したモデルは三百人を超えているだろうが、こんな圧迫感を受けたのは初めてだった。指が小刻みに震えだし、制しきれずに何度もシャッターを切った。室内が乱れだし、色彩が朽ちていくような恐怖を覚えた。女がポーズを変えるたびにテーブルに落ちた淡い影が動き、卓上の花や果実や燭台をそよがせていた。マネージャーの誇らしげな咳払いが幾度か聞こえる。
「ハイ、OKです!」
小田嶋の声とともに、室内の緊張がざわめきとともに解かれた。
「あのモデルさんって、ほんとに、新人で、す、よ、ね?」
林田が七瀬に耳打ちした。
「それにしては撮影慣れてませんか? ポーズのとり方が自然だし、表情だってやわらかい。やっぱり、才能でしょうかね? そうだ、このホテルと専属契約、支配人に打診してみましょうかね」
モデルのマネージャーがおじぎを繰り返しながら支配人に名刺を差し出している。マネージャーはモデルにも挨拶しろと目配せしていたが、彼女はそちらを見ようともせずステージを下りていった。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
15年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。