新版・遠いデザイン1-3
2001年 冬
「そのうち、シマさんにも、声がかかるんじゃないかな。三谷課長も言ってたけど、西南さんのあの勢いじゃあ、ネギやダイコンや白菜だけじゃなくて、その調理例も写真で紹介しようかって言いだしかねないってね」
調理という言葉がいけなかったのか、小田嶋の顔が一瞬強ばったように見えた。つなぐ言葉が見つからないのか、口元が歪んでそれが奇妙な笑いに変わっていく。
料理写真は小田嶋にとって最後の牙城といえた。名手という評判こそまだ失っていないが、今はデジカメで撮影した写真データをコンピュータで要領よく色調補正したり、画像修正してくれる人間が重宝がられているのだ。
小田嶋が写すポジの豊かな質感がこのカビ臭い客室の色合いと重なって、七瀬には急に鮮度のないもののように思えてきた。
シマさん、オレだって同類なんだよ、と口走りたくなる。今という時代についていくのにかつかつなんだから・・・・・・。
ホテルの年間広告予算の大半を使い切る情報誌への広告出稿。その紙面を飾るタイトルキャッチに何を付ければいいんだろう? そして月初めに書店の平台に山積みされる情報誌に手を伸ばす若い女の顔が無数に浮かんでくる。七瀬はそこに一人の女の顔を見つけそうになって、思わず頭を振る。
二月の早い日没は窓外の景色から色を奪い去って、窓ガラスを室内を映す鏡に変えていた。七瀬はその冷ややかなガラス面の中で小田嶋と目が合うのを恐れて腰を上げる。
「シマさん、先にひと風呂浴びにいこうよ。今なら、ほとんど貸切り状態だよ」
カビ臭い戸棚の奥から紺地に白く波模様を染め抜いた浴衣を引っぱり出す。肌に痛そうなほど糊がきいた布地が放り投げた畳みの上で乾いた音を続けざまに立てた。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
15年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。