新版・遠いデザイン1-2
2001年 冬
同じモデルが競合先の企業の広告に登場して、クレームの種となっている地方のモデルクラブとしては、少ない応募者を待つだけでなく、街中にもスカウトの目を走らせて手持ちのコマを増やしておきたいところだろう。婚礼情報誌の方もどこかのホテルや式場が一度使ったモデルはNGだ。経験不足を承知の上で、手垢のついていない顔を、という条件を付けてくる。
「笑えない、きまらない、ハジけない。ヘレンケラーちゃんじゃあ、お困りだっていうの。カット数だって、半端じゃないし」
いつものおまじないが始まったと七瀬は思った。茶化しながら不安を遠のけるおまじない、他人の言葉をもらって責任を分かち合うおまじない。五十を過ぎても、小心という神はまだ彼に宿り続けている。
「笑わせ方の問題だよ、シマさん。そう、きっかけさ、それだけ。だって、女ってやつは、誰でも、笑うことに貪欲じゃないか」
車で一時間足らずの温泉ホテルに、自前で前泊をきめこんでいるのは七瀬と小田嶋だけだった。結婚情報誌の営業担当、モデルとそのマネージャー、スタイリストといった他のスタッフたちは当日着となっていた。
中年同士のささやかな息抜きのつもりだったが、久しぶりに交わす会話がどこかぎこちなくて七瀬はとまどう。それでも、地階の温泉場から立ち昇ってくる硫黄の臭い、年代物のゲーム機の雑多な色彩と調子はずれな電子音、そんな場末にも似た館内の雰囲気が、七瀬の気持ちに微量ながらも怠惰の粉を振りまいた。
ホテルと名が付いていても、しょせんは、地方の温泉旅館。庭にチャペルを新設し、バンケットルームをリニューアルしたからといって、大手ホテルチェーン進出以降、隣市に流れてしまっている婚礼客をどれほど取り戻せるものなのか。
途中、コンビニで調達してきた缶ビールを作動音が鳴り止まない冷蔵庫にしまいながら、七瀬は急に弱気になる。
「いやァ、自前の追跡調査とはいえ、データがものをいいましたよ。じつに七割以上ですからね。ウチの情報誌を見てから、式場を決めてるカップルの数」
笑みが止まらない様子で結婚情報誌の営業担当の林田が七瀬に話しかけてきた。それは二ヶ月前、新施設のオープンに合わせ、四月号の特集枠出稿を決めたこのホテルとの打ち合わせの日だった。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
14年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。