遠いデザイン16-7
2001年 初夏
電話を切った七瀬は、全身から一気に力が抜け落ちてしまって、しばらくその場から動けなかった。何も見えない闇の中に一人放り出されたみたいで、自分の帰る方角がつかめなかった。微かな震えが収まらないまま、いつしか足が屋上へアクセスする車道を歩いていた。途中、上階から車が下りてくるたびにバウンドするライトが彼の全身を洗っていった。
屋上パーキングに点在する車は、闇の中にボディの色を失いながらも艶やかな光沢を放っていた。かすかな熱気を孕んだ空気が辺りを流れている。
七瀬は新興住宅地の一帯だけに灯火が広がる屋上のフェンスを巡りながら、自宅のある方角を確かめた。近くを流れる川も、その川岸に立つ高圧電線の鉄塔も、闇の底に沈んで見えないが、ただ彼方にある海は、その存在がはっきりとわかった。思い出したくなかったが、亮子の顔が何度も頭の中を巡り回っていた。それは時に寂しげで、時に苦しげで、時に笑みさえ浮かべていた。
どれくらい時間がたったのだろう。車の出入りが途絶えていた屋上に突然、切り裂くような笑い声が走った。振り返ると、屋上の出入り口から数人の若い男女が躍り出てきた。暗闇に彼らの顔は沈んでいたが、一人の女のピアスだけが水銀灯の光を集めて遠い灯台の光のように瞬いている。
ドアが続けざまに開く音がして、転がり込むように車に乗り込む影がコンクリート上に踊った。数回の空吹かしの後、急発進した車高の低い車が七瀬の前を過ぎる時、サイドガラスに一瞬、彼の歪んだ顔が映り込んだ。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
14年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。