遠いデザイン16-1
2001年 春
壁掛け型のCDチャージャーにセットされた盤が高速で回っている。広がらない音をわずかに反響させているスチール机の上には、Mac製のディスプレイが置かれていて、電源の入っていない画面が二人の顔を冷ややかに映す鏡となっている。
七瀬が木田萌子のマンションを訪れたのはこれが初めてだった。そこは2LDKの間取りで、玄関からキッチンを抜けた洋室を萌子は仕事部屋にしていた。
室長のカーディラーの仕事で知り合った萌子から、仕事を頼まれるとは思ってもみなかった。大手家電チェーンがT市に初出店する店舗のオープン広告。それはチラシやポスターといった紙媒体だけでなく、テレビやラジオといった電波媒体もからむ予算の張るものだった。元請けは地元の印刷会社だったが萌子はそことは古いつきあいらしく、これまでも地味な仕事を延々とやり続けてきたらしかった。
床の上にはイラストレーターというソフトで描かれた奇妙な動物の出力紙が散乱していて、萌子はさっきから一枚一枚、顔を撫でつけるように近づけて動物絵に微笑みかけている。
この部屋に通されてから、どこか居心地の悪さを感じていた七瀬は折り畳み椅子をフローリング張りの床へ広げながら、「キャラクターにからむキャッチだけでいいんだよね」と、昨日、電話口で告げられた要件を復唱した。
「電マル、っていうの、この子。電化都市に住む知的生命体」
パステルピンクのキャミソールを着た萌子が、薄笑いを浮かべつつ消え入りそうな声でしゃべり出す。
「頭から突き出ているこのプラグをバカでかいコンセントに差し込んで、ゴックン、ゴックンと、ジュースみたいに電気を飲むの。一人っ子だから、性格は内気でちょっとわがまま。胸に内蔵されているメール発信装置で、相手に自分の気持ちを伝えられるの」
自分が生んだキャラクターへの異常なまでの思い入れが伝わり、七瀬はこれからこの奇怪な動物に付けなければならないキャッチフレーズが震えてきそうだった。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
14年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。