回前7-2の続き
デジカメを手にした美紀と三谷がすぐに現場を離れ、周囲のロケーションを確認し始めた。賑やかな名店街通りからのアングル、緑の街路樹の根本から仰ぎ見るア ングル、近くのビルの屋上からの中空アングル・・・。しだいに熱気づく三谷の声に急かされて、美紀のデジカメのメモリーカードの空きはどんどん減ってい く。
プ レゼンには当然のようにデジタル加工された写真が使われる。周囲のロケーションを残して、この工事現場はそっくり消去される。替わりに地上二十階建てマン ションのCGイラストが組み込まれ、架空の街並みが出現する。建物パースを専門に描くイラストレーターもすでに三谷がおさえていた。七瀬は一人敷地内に留まっていた。いつもならアスファルトで塞がれている街の中心部がこれだけ夥しい土の匂いに満ちていることが新鮮だった。それはぶ厚い皮膚を剥ぎとられた都市の傷を思わせた。
七 瀬は悪い足場によろめきつつも、以前この場所に建っていた名画座という古い映画館の位置を確かめようとした。高校に入って間もない頃、洋画に熱を上げ、ク ラスの友人と名画座に通いつめたことがあった。正面の壁に大きなモザイク画を配した玄関ホールが頭の中によみがえってきた。そのうちにカビ臭い場内や、背 もたれが開閉式の椅子の湿り気のある座席の感触などが記憶の底から糸を引くように上がってきた。 当時の七瀬には、それぞれに違う人生を背負った映画の登場人物の心情を、彼らの表情や行動を通して読みとれるほどの知識も経験もなかったが、それでも若さというものが、また別の何かを感じとっていたはずだ。それが何であったのかもう想像もつかないが…。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
10年ほど前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。