ニュージャージーの秋の午後。北東部の透きとおる空気の中に
マックスグリルがあった。ジョン・ベイダーの、あのスーパー
リアリズムの絵と同じ色彩、同じ空気感だった。彼はマックス
グリルを秋の午後、ちょうど今日のような日に描いたに違いな
い、と僕はきめた。窓からカウンターまで斜めの陽が差し込ん
でおり、車の音が途絶えると、1920年代がそこにあった。マ
ックスさんがこの店を開いた頃だ。フィッシュチップ・ウイズ
・マヨ。TOMがトマトであることも、MAYOがマヨネーズであ
ることも、僕はもう知っていた。いっしょに旅をしているジョ
ージという青年が不意に言った。アメリカン・ジゴロの俳優、
知ってるでしょう。彼のお父さんは、ずっと北の方のヤンクス
という町でダイナーをやっていたんだ。俳優の顏を思い浮かべ
た。彼は父のダイナーを手伝っていたのだろうか。少年の頃か
ら、ずっと、あの悲しそうな目をしていたのだろうか。
マヨネーズの明るい秋。そんな小説に出会えそうな気がした。