前回(4-2)の続き
いつもと同じ、9時半前後に、ワンルームマンションの一室に入った七瀬は、Macを立ち上げて、メールをチェックする。今日は午後から三谷課長に同行して、制作物の総見積もりをJAに提出する予定となっていた。
突然のチャイムの音に驚き、七瀬は玄関の方を振り返る。午前中は誰とのアポも入っていない。打ち損ねたキーボードがディスプレイにrpc、の文字を送っていて、それを打ち消して椅子から立ち上がると、玄関のドアノブが回り、含み笑いを浮かべた美紀の顔がのぞいた。
「驚かせてごめんなさい」
美紀はコーヒーコップが透けて見えるビニール袋を提げて室内に入ってくると、脇に挟んでいた分厚い角封筒を抜き取れと、あごで指図する。
「課長からの伝言。午後のJA打ち合わせ、一人で行ってくれって。別のオリエンが入っていたこと、あの人、すっかり忘れてたのよ。それで、これが今日、先方に提出する資料」
中身は数冊もコピーされた見積書の束だと知って七瀬は気が滅入る。思えばこのプロジェクトがスタートするときに「メディア通信社・契約社員」と刷られた七瀬用の名刺をわざわざ用意した三谷だったが、今ではその魂胆がすっかり見えていた。
「私のwebの分も入っているからよろしくね。大丈夫よ、ただ、先方に預けてきさえすればいいってさ。おカネの交渉は後から自分がやるって、そういってたわよ」
ソファーに腰を沈めた美紀は、指で簡単にへこむ薄いプラスチック製のコーヒーカップを袋から取りだして、目の前のガラステーブルの上に並べ置いた。差し込んだストローの中を黒い液体がルージュを引いた口元へと昇っていく。
「あの子、名前なんていったかしら? ほら、JAの、今度の担当者、課長がきれいだって言ってた子」
遠いデザインとは……
10年前の2002年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを以前みたいに書かなくなったので、
その手慰みのために書いています。