前回(3-6)の続き
膳台を抱えた調理場の男の姿がモデルの女の肩越しに見えた。撮影用の料理ができ上がったと思い、会食個室に戻りかけた七瀬にまたモデルが声をかけた。
「じゃあ、これから七瀬さんに教えてもらおうかな。その地方の広告業界での生き残り方について……お昼の時には、じゅうぶんにお話し、できなかったし」
女は七瀬の胸元に手を差し出して「め・い・し」とつぶやいた
ジャケットの内ポケットを探ったが、入っているはずの名刺入れが見当たらない。
七瀬は一つ前のカットで、花屋のオーナーと名刺交換して、そのまま名刺入れをテーブルに置き忘れていることに気づいた。
七瀬はエレベーターに向かった。モデルはその後ろ姿を眺めつつ、微かに白い歯を見せた。それから会食個室に向かって歩きはじめた。
膳台を抱えた若い調理場の男たちが、廊下の奥から歩いてきたモデルに気づいて足を止める。剃り残しの髭が目立つ青白い両頬をすぼませて、その中の一人が野卑な口笛を投げつけるように吹いた。