前回(3-5の続き)
意識を正すように前を見ると、廊下の片側の壁にフレーム枠の写真が架かっているのに気づいた。それはこのホテルで挙式したカップルたちのウエディングフォトで、かなりの数が廊下の奥へと続いていた。新チャペルが完成する前はこの館内にある式場が使われていたこともあって、そこへのアプローチとなっていた廊下をホテル側がフォトギャラリーにでも仕立てていたのだろう。
人前結婚式での指輪の交換、青空に舞うフラワーシャワー、披露宴でのケーキカット・・・・・・。写真に映るカップルたちの顏は、きっと、これまでに起こった様々な出来事を封印して、どの笑顔も一点の曇りも見られない。
自分の時はどうだったんだろう・・・・・・。そう思ったとき、ふいに後ろから女の声がした。
振り返ると、デニムジーンズを穿いた足の長い女が立っていた。七瀬はそれがすぐにモデルの女だとわからなかった。化粧を落とし、長い髪を無造作におろしたその顔は、撮影の時とは別人のように幼かく見えた。
「七瀬さん、こんなところで何しているの?」
モデルの女は、そう言いながらフレームの架かった壁際をゆっくりと往復した。
「ふ~ん、結婚式の写真なんだ。そうか、これを見て、昔、思い出していたわけか。奥さんが若い頃のことなんか」
女は細長い腕を組んで七瀬の目を覗き込む。茶色がかった瞳に思わず吸い寄せられ、七瀬は慌てて目を逸らす。
「もしかしたら、撮影中も、ずっとそんなこと考えてたんじゃないの。真面目に立ち会っているようなふりしてさ」
嘘だろう。そうはねつけながらも七瀬は思わず身構える。
ウエディングドレスに載っていたこの女の顔、それを、何度、亮子の顔とすり替えていたことだろう……。
「私を見る目、おかしかったもの。そう、どこか虚ろだった。フフッ……いったい、誰を想像していたわけ?」
「それは、キミの自意識過剰というやつさ。確かに何か考えごとをしていたかもしれないけど、たとえば写真につけるキャプションとかをね」
七瀬は冷静さを装ってそういった。
「そうかなぁ、まあ、他の男たちほどは、いやらしい目つきじゃなかったけど」
薄く形のよい唇から流れるモデルの言葉は、どれも七瀬の想像のらち外にあった。
「七瀬さんて、いつも、こんな仕事しているの?」
「こんな仕事? ああ、こんなオヤジが、キミみたいな若い子が読むような結婚情報誌のコピーを書いてるのが、おかしいんだね」
「七瀬さんの自意識だって、なかなかのもんじゃない? 私は、そんな意味でいったんじゃないの。ただ、もっとカタいコピーを書くイメージがあったのよ」
「地方で広告の仕事をしていくつもりなら、仕事のえり好みなんかできないよ。キミだって同じことさ」
遠いデザインとは……
10年前の2002年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを以前みたいに書かなくなったので、その手慰みのために。