前回(1-2)の続き
車で一時間足らずの県東部の温泉ホテルに、自前で前泊をきめこんでいるのは七瀬と小田嶋だけだった。結婚情報誌の営業担当、モデルとそのマネージャー、スタイリストといった他のスタッフたちは当日の朝着となっている。
中年同士のささやかな息抜きのつもりだったが、久しぶりに交わす会話にどこかぎこちなさを感じて七瀬はとまどう。それでも、地階の温泉場から立ち昇ってくる硫黄の臭い、時間が凍ったようにラウンジの籐椅子から離れない初老の団体客、年代物のゲーム機の雑多な色彩と調子はずれな電子音、そんな場末にも似た館内の雰囲気が、七瀬の気持ちに微量ながらも怠惰の粉を振りまきもした。
ホテルと名が付いていても、しょせんは、地方の温泉旅館。庭にチャペルを新設し、バンケットルームをリニューアルしたからといって、大手ホテルチェーン進出以降、隣市に流れてしまっている婚礼客をどれほど取り戻せるものなのか。
途中、コンビニで調達してきた缶ビールを作動音が鳴り止まない冷蔵庫にしまいながら、七瀬は急に弱気になる。
「いやァ、自前の追跡調査とはいえ、集計結果がものをいいましたよ、七瀬さん。じつに七割以上ですからね。ウチの情報誌を見てから、式場を決めてるカップルの数」
笑みが止まらない様子で結婚情報誌の営業担当の林田が七瀬に話しかけてきた。それは二ヶ月前、新施設のオープンに合わせ、四月号の特集枠出稿を決めたこのホテルとの最初の打ち合わせの日だった。
巻頭十ページで展開されるペイドパブリシティ。純広告にもかかわらず、読者に取材記事と見紛わせることで広告以上の効果を狙う、そんな裏技企画のために、七瀬はこの二ヵ月間、取材やロケハン、数案に渡るラフカンプの提出と、ホテル側の投資に見合う分は振り回されてきたのだ。
続く
遠いデザインとは……中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを以前みたいに書かねくなったので、その手慰みのために。