支配者には協力者がいる
いじめっ子グループならボスのいいなりになり、ボスにおべっかを使い、ボスに代って対象を疎外していじめる「兵隊」のような者がいる。職場内のお局様にも取り巻きがいて、その地位や既得権を支えている。
家庭内における虐待やDVでも同様であり、しばしば支配者を支持して暴力の継続を容易にする者の存在があり、家族内力学構造の安定に寄与しているが、彼らも被害者とは別の意味で支配者に支配を受けているのである。
K君の家における母親の協力者は父親
K君が4歳の時、それまで親に口答えなどしなかったK君が反抗するようになった。といってもおとなしくて、親戚のおばさんにも「K君がいてもいるかいないかわからないね」と言われていたくらいのK君に自我が芽生え、自己主張をするようになったということだ。近所に数人いた少し年上のお姉ちゃんやお兄ちゃんも、母親がその「悪い影響」を受けないようにと一緒に遊ぶことを神経質に制限していたので、このくらいの男の子がよく友だちから覚えて来る「汚い言葉」もK君は知らなかった。カプセルに入ったように監視されて行動を制限され、いつも家で一人遊びをしているK君が反抗することは限られていたが、それでも母親の命令に時に「いやだ」といい始めたのは、母親からすれば絶対に看過できないことだった。
折檻の末に
感情を爆発させた母親にK君は紐で柱に縛り付けられ、物差しで叩かれ、さらにはマッチの火を手に押し付けられた。
「お前をそんな聞き分けのない子にした覚えはない」「そんな子はうちの子じゃないから〇〇さんちの子になっちゃえ」「〇〇さんは子どもがいないから、お前でも喜んでもらってくれるヮ」
もうここにいてはいけないと言われて木戸道の先までとぼとぼ歩いて行ったが、それ以上行く当てがあるはずもなく、垣根のそばに立って途方にくれた。どうしたらよいかわからず、しょんぼり立っていたら隣の家のおばあさんが気づいて家に連れ帰ってくれたが、母親は自分が追い出したとは言わず、「この子ったらへそまげて自分で飛び出して行っちゃったんですよ」と嘘をついて取り繕った。K君は母親が体面を気にしていることもまだ理解できず、とにかく自分が悪いんだと思った。
「捨てられる」と言われた時の恐怖
母親が怒鳴り散らし、「お前を捨ててくる」と言い始めると、K君は大変だ、どうしたらいいんだと頭がいっぱいになった。田んぼの水を飲んだり、誰か人の家に行って食べ物はもらえるだろうかと思った。
母親は「なんでお前は謝らないんだ!」という。あわてて「ごめんなさい」と謝るが母親は「言われてから謝ってもだめだ! もう遅いって言っただろ!」と言う。「なんで初めから言うこときかないんだ!」と責め立てる。
謝らないから駄目だと言っておきながら、相手が謝ると謝っても駄目だというのは支配者が相手を追い詰める常套手段-ダブルバインドの一種である。
父親が呼応する
母親は段ボールの箱を持ち出してきてこれに入れという。父親はオートバイのエンジンをかけて玄関前に止める。K君はワアワア泣いて「ごめんなさーい、ごめんなさーい」と嗚咽する。
「僕をどこに捨ててくるのですか?」とK君が母親に訊く。
「そんなこと教えるか! 帰ってこられない場所に決まってらあ。」と母親が答える。
親が二人がかりで子どもを追い込めば子供はどうしようもない。逃げる場所がない。救われる方法がない。K君の家は3人暮らしで、他にとりなしてくれる祖父母の世代もいなかった。
K君は何も悪いことをしたわけではなく、この年頃の子の精神発達上正常に現れる反抗をしたにすぎない。それも些細な拒否―おなかを冷やして下痢するからズボン下を穿くように母親に言われたが、それをK君が嫌がったなどということ―が母親の逆鱗に触れるのだ。
父親はこんな時には決まって母親側に立って協力者として立ち回り、この時もまたオートバイを準備してK君の恐怖を助長する。エンジンを響かせたオートバイから、「もう行くんだから早く箱に入れ!」と父親がせかしてくる時の絶望感、恐怖感はほかに例えようがない。
K君を箱に入れるために抱き上げようとする父親に対し、泣きじゃくりながら玄関先の地面に仰向けになり、箱に入れられないよう抵抗した時のことを、K君は何十年経とうとも忘れない。