笑顔がとても素敵な人。彼女のそばにいると心地がよく、穏やかで温かい空気に包まれる。
出会って、すぐに、好意を持った。
彼女の癖は、薬指の指輪を親指で触ること。
彼女の口癖は、"主人が""主人も""主人と"。
ご主人は幸せものだ...俺は、羨ましく思った。
仕事で2度、3度、一緒に行動することになり、小柄ながら、腕力の必要な業務でも甘えや頼りを見せず、率先してこなす姿は可愛らしくもあり、かっこよくも見えた。
強い人、柔らかい人、気遣いができる人...どんどん惹かれていく。
このご時世、プライベートなことを聞くのはタブー。
発信してくれるなら、反応もできる。
彼女は、口癖の通り、オープンな人。
ただ、質問はできない気がしていた。
ヘタすれば、キモチがバレてしまう。
嫌われるのもキツい。
結婚して6年、子供はいない。
俺は独身、彼女より3歳上。
老いた母親の介助をしていたけど、1年前に見送った。
会話の流れから、彼女は切り出した。
「お母様が去年、亡くなられたと聞きました。実は、私、お母様と同じ病でした。だから、少しはお母様の辛さがわかります。周りの人たちの大変さもわかります。」
母親は、先天性の骨の疾患で激痛に苦しんだ。
見ていられないほどかわいそうだった。
彼女も、あの苦みを...すぐに言葉がでなかった。
隙間を察したように、彼女は続けた。
「手術で私はよくなりましたが、それまでの痛みが消えなければ死のうと思っていました。
悲観したのではなく、楽しく過ごしたから。恵まれた人生だったから、もう十分って。しかめ面をして、痛みに耐えて生きる…何のため?そう思ったから。」
彼女は、優しく笑った。俺は、喉の奥が震えているのを必死に止めようとした。
「手術、大成功ですね。よく、頑張られましたね。」
「ありがとうございます。」彼女は、小さく頭を下げた。
もっと、気の利いた言葉があったはずだけど、それが精一杯だった。
この素敵な笑顔の奥にこんな傷みがあったこと、乗り越えたこと、苦悩...胸が詰まった。