恋人を待ち続けて15年。
娘は、いちばん輝いているはずの時間を楽しむことができなかった。
なんの前触れもなく、姿を消して、その一切の連絡を絶った。後に知ることになるけど、彼は、海外ボランティアをしている。
紛争地、貧困地域に出向き、支援活動をしている。
"俺は元気だから、心配しないで。"娘との最後の通信。
元気だから...心配するな...それより理由。
当初、娘は混乱状態で、彼の両親や友人
・知人に彼の消息を聞いて回っていた。
しかし、彼は、その誰にも、真意を話さずに娘と、同じメッセージだけを残した。
彼は帰ってくる、彼を信じている。
娘の心には、あらゆるマイナスな光景も浮かんでいたと思う。しかし、それを打ち消しながら、毎日を過ごしていたと思う。
正義感が強くて、思いやりがあって...彼のいいところだと思う。だからこその行動だとしても、思いやりがあるのだから、娘に理由を話してくれれば良かったのに。
それなら、娘は、あてもなく待つだけの時間を過ごさずにすんだ。彼は、たぶん、理解を得られない、止められたくない、そんなことを考えたのだろう。
取り組みは素晴らしい。ただ、私には、エゴにしか映らない。

残された人、置き去りにされた感覚でいる人、その人たちにも同じだけ時間が流れて、人生がある。

私と娘が、彼の真意を知ったのは、テレビで紹介された彼の姿。活動歴12年で、リーダーになっていた彼にインタビューした番組。
テレビ画面に触れながら、涙をポロポロ流しながら、再会したかのように嬉しそうな表情をしていた娘に私は声を掛けることができなかった。胸が詰まった。
"言ったとおりね。元気だった、心配することじゃなかったね。"そう画面に語り掛ける。
その真意を知ったのに、娘は、今も、彼を待ち続けている。
心境に変化はあったとしても...