"わかっているので..."手の平、手の甲、2度、頬を打たれたあと、私は、うつむいたまま答えた。
ジンジンする表皮の痛みより、打った側の心の傷みの方がきつくて辛いはずだと耐えた。
目の前の女性は、私より3歳年上で、恋人の母親。
それほど年の離れた人を愛してしまった罪。
愛することに年齢の差なんて関係...ある。
わかりながら、私は彼と関係を持った。
互いがそれを求めて、その心に従った。
そのことに後悔はない。独身同士であり、合意の上でのことでも、納得しているのは当人同士だけで、母親からしたら年上の私に全責任がある。
可愛い我が子を、自分と年齢の違わない女に寝とられたのだから。
不潔で不道徳で汚ならしい生き物にみえるのだろう。
遊びではないと言ったところで、なにも変わらない。
私にも、ためらいはあった。しかし、彼と向き合ったとき、その迷いは消えた。そして、あらゆることを背負う覚悟をした。
その中には、いつか離れる覚悟も含まれていた。
彼は若い。これからを生きていく。
今の状態が未来永劫続くなんて思っていない。
そのためにも、やがて、私から離れることになると思う。それを選ばなければならない。
でも、それは、今ではない。今は、私も彼が必要だから。
"息子のいちばんいいときをあなたが奪った"
この言葉が、ズシリと心に届く。
いう通りだと、思った。
開き直ることもできない。
真摯に受け止めて、刻む。
これまで大切に育ててきて、理想も含めて我が子の成長を描いた中に、目の前にいる私の立場も姿もなかったはず。消せない現実を排除したい思い。殺したいほどの憎しみ。
わかっていますから...わかっているので...
私は、心の中で何度も繰り返した。