先日、映画バクマン。の試写会に行ってきました。
珍しく全巻そろえたくらい好きな原作を、モテキの大根監督で、佐藤健、神木隆之介、染谷将太、山田孝之、新井浩文、リリー・フランキーという豪華かつ演技派で原作キャラクターにもぴったりなキャスティングで実写化されると知ってからめちゃくちゃ楽しみにしていました。
なのに・・・どうにもまったく楽しめなかった!!
別に実写化には全然反対じゃないんですよ。
むしろ大賛成というか、好きな原作が実写化されたら喜ぶくらいですし、なるべく肯定的に観るようにしています。
先日放送された実写版あの花もよくできていたと感動しました。
それでも、譲れるものと譲れないものがあります。
「原作に忠実にではなく誠実に」
るろうに剣心の大友監督のこの言葉通り、人気漫画実写化の成功のカギを握るのはこの「誠実さ」だと思います。
バクマン。と同じ原作者のデスノートの実写映画は、原作と異なるオリジナル要素が多いながらも間違いなく「原作に誠実な作品」だったし、だからこそ原作ファンからも絶賛の声が送られたと思っています。
もちろんあれでも駄目だという人はいるでしょうが、むしろ原作よりも良いラストだったという人すらいるのが事実です。
あ、この前のドラマはなかった方向でお願いします。(見てないので否定も肯定もしませんが)
しかしながら、この映画には原作に対する誠実さの欠片も感じられませんでした。
そもそもこの原作の面白さは、
・アンケート順位というシビアなものにこだわり「どんな漫画がジャンプ読者にウケるか」をひたすら頭で考えながら上位を目指す、ジャンプらしからぬ現実主義的頭脳バトル
・圧倒的才能を持つ最強のライバルに努力で対抗し、漫画家仲間たちと切磋琢磨していく、ジャンプらしい熱い王道展開
・初恋の女の子と将来の夢を誓い、「夢が叶ったら結婚、それまでは一切会わない」と約束する、いまどき少女漫画でもありえないような古臭い恋愛要素
・ジャンプ編集部のリアルすぎる裏事情と、ワンピースやNARUTOといったジャンプ漫画に対する分析
に集約されると勝手ながら思っているのですが、この映画ではほぼすべて無視されていました。
ここから映画の内容に沿っていろいろ書いていきますので、ネタバレダメ絶対という人はご注意ください。
まず原作と同じくシュージン(神木隆之介)がサイコー(佐藤健)を漫画家になろうと誘うところから物語は始まります。
しかし原作担当のシュージンが東大を目指すほどの秀才という設定ではなくなっているらしく、どうにも勢いだけのアホっぽさが出ています。(神木くんに罪はない)
サイコーに持ちかける話もジャンプ漫画への分析なんかがカットされていますし、バクマンの「バク」の一つの意味である「博打」というワードもさらっと流されます。
また、ヒロインの亜豆(小松菜々)と結婚の約束はするものの、彼女がどれだけサイコーのことを好きかというのは描かれないし、何より「夢が叶うまで会わない」というもっとも大事な台詞がカットされます。
確かにこの台詞は非現実すぎるし、原作でも結婚までに何度か会うことになるから仕方ないかと思いましたが、「18才までにアニメ化」という目標まで無視されているのが痛い。
この約束の目標があるからこそ、サイコーたちは高校生ながら(原作では中学生から)「漫画家になりたい」「ジャンプで連載して人気を獲りたい」と、めちゃくちゃ必死に頑張るんじゃないですか。
このせいで後半からずっと「お前ら高校卒業してから頑張ればええやんけ」という思いになります。
その後、結婚の約束によって漫画家になる決意をした彼ら。
夏休みを利用してジャンプへ持ち込む漫画を描くわけですが、なんせシュージンが秀才でもなんでもないので、原作で彼らの漫画の肝となるストーリー作りがものすごく適当になっています。
なんとなくこんなお話考えたよー程度で、実際どんなストーリーの漫画を作ったのか説明されません。
そりゃ普通の漫画家主人公の作品ならそれでも全然良いんですけど、これはバクマン。じゃないですか。
バクマン。ってその作中に出てくる漫画がとにかくどれも面白そうで読んでみたいと思わせられる所に魅力があると思うんですよ。
そういうバクマン。らしい良さを無しにするのはどうなんだろうか・・・と思ってしまうわけです。
まぁそれでもここらへんはまだ肯定的に観ていました。
原作より少し絵が下手になっているサイコーがめきめき上達していくところが原作よりわかりやすく描かれているように感じたり。
ジャンプ編集部を完全再現したということで、壁のポスターやらから小ネタを探せて楽しかったり。
(すでに連載の終わった黒子のバスケや絶賛休載中のH×Hのポスターがべたべた貼られているのには笑いましたが撮影時期をお察しということで。あと、ドラえもんは小学館だけどいいのか集英社)
そして手塚賞準入選。
『Wアース』であっさり獲っちゃうので少々拍子抜けしつつ、授賞式で福田さん(桐谷健太)、平丸さん(新井浩文)、中井さん(皆川猿時)が登場。
みんな原作再現度が高くてワクワクしてきます。
しかしここでサイコーたちと初顔合わせとなったエイジ(染谷将太)。
いきなりサイコーたちに「ストーリーはすごいけど絵は僕の方が上ですねぇ」とか言い出します。
確かにシュージンのアホ化により彼らの漫画のストーリーの凄さがカットされているから仕方ないかもだけど、にしてもこんな感じ悪い奴じゃないでしょエイジ!
原作だと圧倒的天才にもかかわらず「こんなのは僕には描けないので尊敬します。亜城木先生のファンです」とまで言っちゃうのがエイジのかっこよさじゃないですか。
だからこそサイコーたちは認めてくれるエイジに絶対負けたくないと頑張るのになぁとちょっと気落ち。
無邪気なエイジの染谷将太が見たかった・・・
でもエイジの『CROW』のカラー原稿が超かっこよくて原作ファンとしては嬉しい演出!
小畑先生の本気絵やばすぎですよ!!
授賞式のあと、サイコーたちの仕事場で福田さんたちと意気投合。
そこに服部さんもいてこいつ暇人かとツッコみたくなったものの、語り合っているところは胸が熱くなります。
ただ、スラムダンクの台詞で会話しているのは内輪で盛り上がるだけの痛いオタクっぽくてげんなり。
「諦めたらそこで試合終了ですよ」みたいな誰でも知ってる名言ならともかく、メガネくんとかゴリとかスラダン読んでる人しかわからないだろうなと。
漫画を読まない平丸さんがぽかーんでかわいそうだった。
バクマンに出てくるジャンプ漫画ネタって、1話のデスノートについて言っていた以外はあくまで研究や分析のために出されることがほとんどだったはず。
ただのオタクじゃなくてジャンプの漫画家としての見方をしていたのが面白かったんじゃないですかね・・・
その後、いつの間にか王道バトルものになってた『Wアース』が会議で落とされます。
いやいや、服部さん無能か。ていうかWアースそんな引っ張るんか。
ライバルたちの漫画は無事に連載決定。
けど中井さんの漫画、料理ものでちょいエロってそれ、現在ジャンプで人気連載中の『食戟のソーマ』ですやん。
ここはソーマのない世界線なのか!と思いきや会議中の台詞にソーマの名前が出てくる。なんでこの漫画通ったんや。
連載が叶わなかった2人は王道を描く天才のエイジには勝てないからと邪道漫画を目指します。
ここで邪道を思いつくシュージンの演出は音楽もあわさってかっこいい。
しかし、シュージンが1週間考えてネームを作った『この世は金と智恵』がどう邪道で面白いのかタイトル以外説明されないのでわからない。
しかも金知恵は原作ではデスノート寄りのリアルなキャラクター描写だったのに、映画では王道漫画のようなキャラデザ。
なのに今度はあっさり連載会議に通っちゃう。ええんか編集長。
とりあえず2人の連載が始まるわけですが、高校生バトルという編集部の煽り文句につられて、エイジが「どちらが先にアンケート1位とるか勝負しましょう」と言い出します。
そんなことでライバル宣言するとかどんだけエイジを小物にしてしまうんや・・・
というか、CROWはまだ1位とってないってこと?
原作読んだ人にとっては連載初回の1位は当たり前ってことになってるけどいいの?
そんな疑問が頭の中でちらつくため、サイコーたちの金知恵とエイジのCROWがCMでも流されているような斬新な映像でバトルしていても、漫画の面白さを競ってるのになんでこんな抽象映像なの?と心が沸き立ちません。
エイジのポーズってたぶんラッキーマンのオマージュだと思うけど、アオイホノオOPでもうやっちゃってるしなぁ・・・
また恐ろしいことに、みんな連載しているのに福田さん以外アシスタントが存在しない。週間連載なめてんのかこいつら。
しかも福田さんには原作と違ってアシスタントが2人いるという。
いや確かに喧嘩しているところをiPadで撮っているところはアシ2人いないとできないけど、そんな演出の都合が見え隠れするのはがっかり。
あと映画オリジナルで亜豆は副業ダメ的に退学させられたのに、何故か主人公2人は許されてるし。
(三吉の存在がカットされているため亜城木夢叶というペンネームがなく本名でやっている)
いやもう高校やめちまえよ。無理だよ。てかシュージンもはやただのトーン貼る人になってるよ。
高校行きながらアシスタント無しで連載という無理がたたってサイコー倒れる。そりゃそうだ。
編集長から休載を告げられエイジに巻頭カラーを奪われるというWパンチの中、亜豆にはスキャンダルの恐れが出てきたからと別れを告げられる。
本名で連載して亜豆そっくりのキャラ出せばそうなるわな。
ボロボロのまま何とか休載を回避しようと描き始めるサイコー。そんな巻頭カラーって大事か…?
そんなサイコーを見て、福田さんたちはまさかの原稿を手伝い始める。あんたら自分の連載どうした。
「友情・努力・勝利だ」と拳をつきだす桐谷健太の福田さんもかっこいいけどさー、原作の「友と書いてライバルと読む」とドヤ顔してた福田さんの方がかっこいいし、よっぽどジャンプ精神にあふれてたやんけ。
連載漫画手伝い合うとか何それ、ジャンプの漫画舐めすぎじゃね。
しかもサイコーの状態を聞いて仕事場に来たエイジ。
なんかかっこいいこと言ってくれるかと思いきや、サイコーのガタガタになっている絵を見て「駄目ですよこんなんじゃあ」と取り上げて絵を描き足していく。
いやほんと漫画家として一番やっちゃいけないでしょそれ。
どこまでこの映画はエイジを悪者にするのかと泣きたくなってくる。
自己管理ができなくてマイナス状態になってから頑張るのは「努力」ではないし、
原稿を手伝うのは慣れ合いであって「友情」じゃない。
しかもジャンプ読者がそんな裏事情を知るはずもないのに、頑張って巻頭カラー仕上げたからとあっさりエイジを抜いて1位をとるとか「勝利」でもなんでもない。
こんな薄っぺらいものがジャンプの「友情」「努力」「勝利」だなんて・・・
アンケート制度を乗り越えながら連載を続けているジャンプの漫画たちに謝れよ。
ていうかエイジのCROWがずっと2位ってことになってたけど1位の漫画はなんなんや。
エイジはサイコーたちよりそっちを意識せぇよ。
そしてサイコーたちが1位になったときその漫画はいったいどこいった。
ここまでかなり酷評しちゃいましたが、そもそもこのバクマン。という漫画はデスノートより絶賛されているわけでもなく批判も多いですよね。
だからこの原作が嫌いだった人はむしろこの映画を楽しめるのかもしれません。
脚本を担当した大根監督もきっとバクマン。がそんな好きではないんだと思います。
原作に出てくる作中漫画も、ジャンプのアンケート制度も、全く面白いと思えなかったんでしょう。
企画として持って来られたとインタビューで明かしているし。
だから原作に対して誠実でもなんでもなく、自分の思う楽しい漫画家物語に改変してしまったわけです。
じゃあバクマン。の名前使うなよ、ジャンプの名前借りるなよ、小畑健に協力してもらうなよと言いたくて仕方ない。
もちろんどれだけストーリーを変えたって、それが面白いなら別にいいんですよ。
でも原作を全く知らない友人は、先の展開が予想しやすいし結末が尻つぼみになっていたといまいちな反応だったし、ツッコミどころも指摘していました。
正直な話、これならアオイホノオの劇場版を作ってもらった方がよっぽど楽しめたと思います。
あれは原作愛にあふれていたし。
それでもキャストは本当に良かったです。
制作発表当初配役が逆じゃないかと騒がれていましたが、佐藤健は間違いなくサイコーでした。
剣心のときもそうなんですが、彼は確かに漫画の主人公の目を持っているんですよね。
というかシュージンの影が薄いんで残念ながら神木くんの光るところが少なかったっていう。
あと脚本の都合で服部さんが無能になっていたり平丸さんが金の亡者になっていたりするけど、演じてくれた俳優はほんとぴったりでした。
サカナクションの音楽も、最先端技術の映像をより魅せてくれるようなダンスミュージックですごく楽しかったです。
映像も、小畑先生の絵をそのままに、あそこまでかっこよく見せてくれたのはありがたかった。
エンドロールは特にジャンプが好きな人は必見です! あそこだけもう一度見たい。
映像と音楽の融合はほんと監督うまいんですよね。
ただ、亜豆が初めて出演した深夜アニメの映像はいくらなんでも酷過ぎ。アニメ作ってる人たちに失礼でしょ・・・
電車男を始め告白、悪人、モテキとヒットを飛ばしてきた川村元気Pは、キャスティングは上手いのに、ここ最近脚本で駄目にしていると思います。
寄生獣もバケモノの子も微妙だったし。
下手な小説なんて書いてないで上手い脚本家を見つけてきてほしい。
どんなに実写化に肯定的でも、ここまで原作のキャラをないがしろにされて楽しめるわけないじゃないですか。
小畑健の絵以外のバクマンらしい要素ほぼほぼないんですよ。
試写会に当たったことが嬉しくてついつい原作を読み返してしまったことを本当に後悔しています・・・
連載決定くらいで映画は終わるかなと思いつつ、読み始めたら止まらなくて20巻まで一気に読んじゃったし。
とりあえずこの映画は、キャストが好きな人、小畑健の絵が好きな人、斬新な映像と音楽を楽しみたい人、そしてバクマン。という漫画が嫌いな人にはオススメです。