【書籍情報】
心理的安全性のつくりかた
石井遼介
出版社: 日本能率協会マネジメントセンター (2020/9/1)
ISBN-13: 978-4820728245

【概要・コメント】
"心理的安全性"という言葉が,職場の若手の中で流行しているようなので,本書を読んでみた。

心理的安全性とは,簡単に言うと,組織の中の風通しを良くして,上司や部下の垣根なく,お互いに意見を言い合ったり,助け合ったりして,新しいことをどんどんやっていくチームの状態のことを指す。

そして,この心理的安全性という言葉はGoogleでの研究成果を取り上げて,近年大切なチームが持つべき属性であるとされている。

まず,心理的安全性に関して,一切否定するところはない。
近年,例えばGoogleのような新しいビジネスに取り組んでいるところは,チーム内での協力が不可欠だし,必要であれば役職の垣根を取り去ることも大切だと思う。

一方で,ではこの心理的安全性という考え方がすごく新しいかと言えば,そうは思えない。

昔から日本では,年長者がえらく発言力が強いという階層はあるものの,「同じ釜の飯を食う」という密な意思疎通や,「社員旅行」「無礼講」という懇親の場が設けられていた。
これらは,同じチームであるという感覚には極めて重要な役割を果たしていたはずだ。

別の言い方をすると,欧米流の個人主義を日本語導入したときに,これらの優れたチーム統括の仕組みを捨て去り,
結果として上手く行かなくなった部分があるから,改めて慌てて欧米流の心理的安全性を輸入しようとしているに過ぎないのではないか。

また,本書の中に書いてあることのほとんど大部分は別の書籍にも,多少の表現は異なるかもしれないが書いてある。
例えば,ビジネス書の鉄板である「7つの習慣」に書かれていることから,心理的安全性の大切さを導出するのは,それほど難しくない。

結局,欧米流の働き方,評価制度を無理やることなる文化の中に取り入れたツケを払わされているというのが,正直な感想ではある。

もし,他のビジネス書をあまり読んだことがないという人は,本書に目を通してみてもよい。
ただし,ビジネス(自己啓発)本に大切なことが包括的に書かれているかといわれると,もっとよい書籍は他にもあると思われる。

個人的には,しばらく自己啓発本は読まなくてもよいかも,,,と思わされる一冊であった。


以上のように辛口批評をしたものの,
本書の中には興味深いセンテンスが多数含まれていたので,備忘録として以下に列挙する。

  • P.33 リモートワークは,すでにあった「チームになれていない」という問題を明示化しただけ
  • P.41 常に監督できなくなるため,リモートワークの状況で特にマネジメントが機能しにくいのが,この種の「キツい職場」なのです。
  • P.62 「経験レベル」とは,<中略>上司や先輩があまりに経験豊富で,自分はあまりに経験が足りず,自分自身のアイデアや意見など意味がないように感じ,「①話しやすさ」「④新奇歓迎」しにくいというパターンです。
  • →★これは,うちの職場に非常によくあてはまる。
  • P.68 自分を問題の外に置いて相手の悪さを指摘し,避難することが,相手の行動に影響を与えることはほとんどありません。
  • P.86 ラベルを貼ると,予測には役立つことも多いのです。<中略>しかし,影響を与えるためには,あまり役に立ちません。
  • P.91 つまり良い姿勢や大きな声のような「行動」に集中する,役に立つ「行動」が取れるかどうかを論点にする,というのが「心理的柔軟性」のなあkで,最も重要なコンセプトです。
  • P.93 報告という行動自体(内容とは切り分けて)ほめる,などの行動が①話しやすさ因子(を満たす)
  • P.94 違いを良い悪いではなく ただ違いとして認める
  • P.97 前向きな検討や工夫を阻害してしまうのが,困難な思考や感情との「戦い」なのです。
  • P.108-109 私たちは正しいか間違っているかの二択で判断するような問の立て方をしてしまいます。<中略> (そんなとき,)「あるかもしれない,他の可能性」について,問いを立てて考えてみる
  • P.111 正解が時々刻々と変わりうる時代には,「考えていることが正しいかどうか」よりも「考えていることの正しさへの執着」の方が,チームの心理的安全性の構築において問題(となる)
  • P.117 前を向くために諦めること,そして「受け入れ」をはじめることを「創造的絶望」と言います。
  • P.168 「受け身」「否定」「結果」の3種は行動ではない
  • P.178 上司の「怒鳴り行動」は,部下との「共犯関係によって維持・強化されている」と言える
  • P.180 嫌子を与える直前の行動は,減らしたい行動かどうかを検討することが重要です。
  • P.208 私たちの社会は成功には理由を問わず,失敗に理由を問うという文脈があり,<中略>「なぜ? どうして?」と聞かれると,萎縮してしま(う)<中略> そこで,「なぜ」の代わりに,「なに」「どこ」を使うとうまくいくことが多いです。
  • P.211 特に,管理部門の場合は,社内の他部署を「顧客」と捉え直すことが重要
  • P.216 ありのままの自分を認め,受け入れてくれる他者と関係を築くことで,情報共有と協力しあう傾向が高まり,結果として生産性が上がる
  • P.217 新奇歓迎を阻害する「きっかけ」:上位役職者の頭の中にある「正解を当てるクイズ」になっている質問
  • P.219 価値づけされた行動は,やるべき行動ではなく「打ち込む」「その領域では,困難や逆境があっても,行動をとり続けられる」
  • P.223 「相手以上に,相手の才能と未来を考えている」という確信があるまでは,「厳しくすることで相手の行動を増やす」という名人芸はまねをしないほうが良いでしょう。
  • P.259 仕事における,ごく個人として大切にしたいことを見つけることが,行動量を増やし,行動レパートリーを増やし「③挑戦」を促進するのです。
  • P.260 ソニー株式会社の「開発18か条」その1 「客の欲しがっているものではなく,客のためになるものをつくれ」
  • P.276 週次の1時間の会議は,(毎日)5分の会話の代わりにはならない
 

【書籍情報】
帰去来
大沢在昌
出版社: 朝日新聞出版 (2022/2/7)
ISBN-13: 978-4022650054

【概要・コメント】
久しぶりに小説を読んだ。
しかも,ほぼ一日で一冊を読み終えた。

本書はいわゆるパラレルワールドモノである。
パラレルワールドものは,1つの世界ともう1つの世界の同一性と異質性を,上手く使い分けることが大切だが,本書は非常によく使い分けていると思う。

また,パラレルワールドモノで,物語のコアになるのが,ある世界における親族関係や知人・友人関係であるが,これも恋人や"父"を中心として,よく描かれていると思う。

ただし,ハードボイルド小説が得意な大沢先生の作品ということで,やや主人公の精神的な強さが,他のパラレルワールドモノと比べると抜きんでている印象である。

ゆえに,一般的な作品と比較すると,「なぜ,そんな気持ちになれるのか?」や「そんなにうまくいくかねぇ」と言った,疑念は多少起きるような気がする。

特に,パラレルワールドに送り込まれた直後の,主人公の頭の切れの良さや周辺の人物への説明力の高さは,抜群であり,この辺りは好き嫌いが分かれるところであろう。

新宿鮫など,主人公のキレを好む読者には,とてもヒットする作品だと思った。

なにより文庫で600ページを超える長編であるものの,一日で読み切れる,文体の簡潔さが大沢先生の魅力だと,改めて感じさせられた一冊であった。

 

 

 

【書籍情報】
科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第2版
児島 将康
出版社: 羊土社; 第2版 (2019/7/28)
ISBN-13: 978-4758120975

【概要・コメント】
ここ数年連続で科研費の申請がRejectされているので,心機一転ということで,参考書に目を通してみることにした。

結論から言うと,以前から自分で配慮していたことが多くて,「新しいことを知れた!」との印象は無かった。
しかし,初めて学振や科研に申請をする若手研究者にとってはよい教科書であると思った。

また,申請書作成において,本書で書かれているようなことを科学者全体が配慮することで,審査員の負担が減り,(申請書の見た目ではなくて)研究内容に関して審査の議論が深まることはよいことだと思った。

どのような文書も作る側の都合ではなく,読む側の都合で書かなければならない
という基本を改めて実感した書籍であった。

以下,本書より注目すべきと思った記述をいくつか抜粋する。

  • P.063 【概要】には,研究の「背景(解決すべき課題)」「目的」「展開」の3つは抜かさず書くこと.<中略>方法論や見た目の工夫の優先度は低い.
  • P.147 『経済政策に寄与する』「政策の提言」などが登場したりすることがあるが,これらも審査委員からみると大げさでは?と疑問符がつく場合がある.
  • P.154 重要なことは審査委員の記憶を当てにしないことである.
  • P.179 研究計画が全くのゼロからスタートする研究は,審査委員の立場からすると評価に困る.
  • P.179 科研費が採択されたらすぐに研究計画を実行できることを示されると,審査員は実行可能性があると判断しやすい.
  • P.250 業績リストだけでなく,簡単な説明を付けて「実現可能性」を示そう