【書籍情報】
今だから知りたいワクチンの科学
中西貴之 著,宮坂 昌之 監修
出版社: 技術評論社 (2021/3/8)
ISBN-13: 978-4297120016

【概要・コメント】
新型コロナウィルス感染症のパンデミックの中で,出版されたワクチン本の1冊である。
このコロナ禍にテレビなどで,ワクチンの情報はたくさん流れたが,自分の中にしっかりと知識として定着した感じがしなかったため,本屋でジャケット買いした。

結論から言うと,ワクチンに関して総合的な知識が増えたので,読んでよかった。
ただ,他のワクチン本を読んでいないので,この本がベスト,ベターなのかは判断がつかない。

本書のスタンスとして,難しいことは一切抜きにして,ワクチンを接種すべき理由を述べている。

著者の表現には,ワクチン接種を推奨するあまり,やや偏ったものがあり,一般の出版社の本にしては珍しい論調である。
それくらいワクチンを推奨していると捉えることもできるかもしれない。

本書を要約すると,適切な治験を経て市場に出回っているワクチンは,個別の副反応などのリスクは否定できないが,確率論的には有効なものである,ということになるだろう。

人間は個別の利害(ワクチンの場合は副反応)に目をやらず,世の中の動きを俯瞰的かつ確率論的に(主に期待値で)考えることができないのは,行動経済学が示している。
そうでなければ,あれほど宝くじが売れ続けるわけがない・・・。

ということで,確率論で行動できない人間 vs. 確率論で進化するウィルスという対立構造は永遠に続くということになるのであろう。

一般に科学論文や工学の教科書の場合は,難解な本文を補助すべく図表が用いられるが,本書は逆である。
本書における本文において,ワクチンの仕組みなどの科学的・技術的な説明は非常に軽く・薄い,本文では細かなところは一切説明せずに,やや詳細な図表を用いて技術的な説明を補足している。
※個人的には,このような表現方法にはあまり馴染めなかった。好みが分かれるところであろう。

以下,本書の中で興味深いと感じた記述or内容である。

  • P.12 ワクチン接種は,病原体に侵入されっる前の健康な段階で,<中略>あたかも病原体に侵入されたかのような環境を体内に作り出し,実際の感染経験なく,獲得免疫を構築することが目的です。
  • P.42 アジュバント<添加物のこと>が自然免疫を刺激し,獲得免疫が動きやすい状況を作る
  • P.52の解釈 ワクチンの有効率とは,ワクチンを接種することで発症する確率を減らせる割合のこと。→有効率30%ならば,接種しない場合よりも30%は発症を減らせるということ。
  • P.55 ワクチンの効果持続期間は永久ではない。おたふく風邪~20年,インフルエンザ~4か月 ※インフルエンザの株は変異しやすい
  • P.60 体重1kgあたりわずか3グラムの食塩を食べさせただけで50%の確率でネズミは死亡する。
  • P.104 混合ワクチンと多価ワクチン 免疫系は数十万~数百万の抗原に対して常に稼働,あるいは待機状態にあり,そこにわずか数種類の抗原(ワクチン)が接種されてても混乱など起こすはずがありません。
  • P.108 この(ウィルス組み換え)ワクチンは体内で,<中略>持続的に液性免疫と細胞性免疫の柳雄法の免疫刺激を引き起こすことが可能です。したがって,従来のワクチンよりも高い免疫反応が期待できます。 ※P.113の図がとても分かりやすい
  • P.112 「ウィルス様粒子ワクチン」は,ウィルスの遺伝子を含まず,無害な外殻タンパク質だけをワクチンとして接種するものです。
  • P.117 毎年,膨大な人数が(インフルエンザの)予防接種を繰り返しても根絶できないのは,動物にも感染するため<中略>ウィルスが常にどこかの動物に潜んでいてヒトに感染するからです。
  • P.118 複数種類のウィルスが同時感染していると,感染された細胞の中で雑種のウィルスができあがってしまい<ます>。<中略>このような現象のことを「抗原シフト」と呼びます。
  • P.120 日本の人口を1億人とすれば,<インフルエンザ>ワクチンの効きが<有効率30%と>悪くても,<発症者を>300万人も減らすことができる
  • P.133 生ワクチン由来ポリオウィルスの糞口感染がアフリカ,東南アジアで頻発する事態となっています。
  • P.146 デング熱ワクチン 初回感染時には症状が出ない人がほとんどです。ところが,再感染した場合には命を落とすことがあり,これは「抗体依存性感染増強」と呼ばれている現象です。
  • P.162 根絶可能な感染症の特徴 ①有効なワクチンがある,②ワクチンの接種率が世界全体で高い,③有効な治療薬がある,④有効な検査方法がある(感染者を特定できる),⑤ヒトにしか感染しない,⑥発症していない段階では,感染源にならない,⑦感染しても症状がでない,不顕性感染がない
  • P.196 エイズワクチン HIVは一年間で1%もの高い割合で変異を起こしている<中略>ため,弱毒生ワクチンが使え<ません。>理由は,<中略>強毒型に先祖返りするリスクが高いからです