今はまだ まだ あの日々

近くて 想い出にできない


a tomorrowsong /Skoop On Somebody




え~?


初めて喋ったのが21の時だから

もう15年も経っちゃったってこと?


まじかよ~。



隣で頭を抱えてみせる友人のグラスには

可愛らしいピンクの液体、スプモーニ。


ウィスキー一辺倒の彼には珍しいチョイスだ。


からかったら、肩をぱしんと叩かれた。




閉店間際、1本の電話で奇襲された。

主は東京の千葉より在住、大学からの友人。



『横浜まで来たから寄るよ。1杯飲んで帰るけど。』



うん、大丈夫だよ、待ってるね。



そのやり取りから、すでに2時間以上経過。

カウンターには、ウィスキーのボトルが数種類。


『1杯』が『もう1杯』になり『次がラスト』と言いつつ

『ついでに、ごはん食べちゃう?』なんて展開は


もうお約束と言っていい、暗黙の了解だ。



そんな訳で


カレーをシェアしつつ

グラスを傾け


美味しいね、の後に小さな沈黙が下りたカウンター。



友人がぽつりと後を紡いだ。


『あと何年さ、こうして集まれると思う?』



卒業したての頃は何かにつけて集まって

10人超えた飲み会なんて当たり前だったのに。


気がつけばひとり減り、またひとり減り。


仕事や子育てに忙しい年代。

それも仕方ないけれど。


それって、寂しいよね、そう友人が視線を落とす。


確かに、最近は自分たちを含めて

4人がお決まりのメンバーになっている。



確かに、寂しいね。


でも、その分密度が濃いから

これはこれで、楽しいよ。


また、そのうち、みんなで集まれるよ。

まだ、想い出話にしちゃうには、早いよ。



言ったら薄っぺらくなる気がして

それには答えず、ひとつ朗報を放り込む。


『〇〇くん、次回から呼んでってさ。』


なんだよいまさら~!!

眉間に皺を寄せて見せるけれど

目はうれしそうに笑っている。



次は千葉寄りの東京にしようね。



そう言うと


『杖をつくようになっても、一緒に飲もうな。』


思わず、泣き笑いになるような返事が来た。




15年。


振り返ってみると長く感じるけれど

自分たちの間に流れる空気は相変わらず。


むしろ、積み重ねた分、濃く丸くなる雰囲気。


杖をついて飲みに行く頃には

いい具合に醸されているだろうな。






遠回りしたけど 友達になれたのかな


友達の唄 /BUNP OF CHICKEN




まっすぐにこっちを見つめる瞳。

嘘がないことだけは分かったよ。




中学生

思春期

お年頃


気づくか気づかないかは本人次第だけれど

誰だって、葛藤とか存在意義とか抱えている頃。


なんとなく、自分と近い波長を持っている子と群れたくなる。

それでもって、自分たちと違うものを攻撃したくなるらしい。


それが、年相応の女の子なんだと思う。



そういう集団に、うっかりいじめられた小学校時代を思えば

それに馴染めない自分が社会不適合だとも思えない。


ほどほどに上手くつき合って

適度な距離を置くのがいちばんだ。



でも、それを快く思わない集団というのもいるもので。



ある日、『いじめのお誘い』らしきものを受けた。

ターゲットは、私のクラスメイト、割と仲良しの子。


ぐるりと私を取り囲んだ連中が

ニヤニヤしているところ見ると


むしろ私への嫌がらせだということは一目瞭然だった。



即座にNOと答える。


『集団でないとできないの?カッコ悪いね。』


ついイラッと頭に血が上って

いらないおまけまでつけてしまった。



平和に暮らしていた中学校生活も

ここまででおしまいだな。


『明日から覚えてろよ。』


そんな時代錯誤な捨て台詞を聞きながら

明日からって言ったから、明日心配しよう

そんなことをぼんやり思っていた。



案の定。


登校したら、上履きがない。

昇降口には、例のニヤニヤ集団。


やれやれ。


口には出さずに、カバンから予備の上履きを出す。

彼女たちが面白くなさそうに教室へと移動を始める。


多分、次は1限の教科書だな。


残念ながらその対策のために

教科書はきっちりカバンに収まっている。



一応、敵の目もなくなったことだし

上履きでも探そうかと思った瞬間


さっきまで集団の中にいたひとりと目が合った。


黙って壁際のごみ箱を指さすと

すたすたと教室へ戻って行く。



半信半疑で覗いてみると

ごみ箱の、ごみの上に


きれいにそろえられた自分の上履きが入っていた。



大体、過剰に騒がなければ

いじめの賞味期限なんて1週間。


適当にやり過ごしているうちに終わる。

ご多分に漏れず、さっと彼女らの熱は冷めた。


ただ、不思議で仕方なかったのは、何かされる度

探し物は必ず、上履きの彼女の視線の先にあったこと。




それから数年。


犬の散歩の途中で、彼女とばったり会った。

あちらの手にも、大型犬のリードが握られている。


すれ違いざまに、呼び止められた。



『あの時は、本当に、ごめん。』



たった、それだけ。

弁解も何もない。


ずっと謝りたかった、そう言って

じっとこちらを見つめる瞳に

嘘がないのだけはすぐに分かった。



『私も大人気なかったよ。』



そう返すと、思いがけず笑顔が覗いた。

ああ、そう言えば、笑った顔、初めて見た。


同じクラスにいながら

あまり気にしたこともなかったけれど


いつもつまらなそうな顔をしているのだけは、印象的だった。


全然、イメージが一致しないまま

近況報告とか、犬の話とか、他愛もない話をして

『じゃあ、またね!』って別れたけれど。


多分、『また』の機会を積極的に作る気は、お互いにない。

ただ、やっと、普通のクラスメイトになれた気がした。



どこまでも澄んだ空の青。

鈍い色に光る凪の海。


見る度に思い出す。


そんな秋の日の出来事。






”さよなら 明日また”そして少し微笑んで 君は


約束の季節 /The Gospellers




『受け売りだけどさ』って、照れ笑いした。




社会人1年生の春。


忙しい。

充実している。


でも、ちょっと鳩尾の辺りがすーすーする。



毎日合わせていた顔が見られないって、落ち着かない。



多分、考えていることはみんな一緒。

だから、頻繁にメールや電話が来る。


先輩にいい店教えてもらったよ、とか

今日ちょっと失敗しちゃって、とか

次の飲み会の日程決めよう、とか


本当に他愛もないことばかりだけれど。



ライナスの毛布みたいなもので

いつもの声や文章に触れただけで


緊張が解けて、ゆるゆると日常に戻れる気がした。



そんな中。


電話もメールも必ず『また明日ね!』

そう結んで終える友人がひとりいた。


明日会う約束をしたわけでもないし

明日また電話する約束をしたわけでも

明日確実にメールするとも限らないのに。



不思議、不思議だけれど、嫌じゃない。



半年ほど続いたある日。


たまたま本人に聞く機会ができたから

『どうして?』と疑問をぶつけてみた。



一瞬、斜め上を仰いだ友人は

『笑わないでね?』って前置きで


ひとつのセンテンスを

息継ぎもしないでこちらに放った。



『また明日』って、毎日続けると『永遠』になるんだって。



ぽかーん。

一瞬の間。



『受け売りだけどさ』って照れ笑いした肩口を


我に返って、べしべし叩いて、

約束破って、きゃたきゃた笑った。


そもそも、笑わないって約束してないから、いっか。



ひどいなぁ、友人も笑ったけれど


肩に回された私の腕を振り払うわけでもなく

その後、解説らしき言葉を足すわけでもなく


ひとしきり、二人で笑いあった。



その帰り道、ホームのあっちとこっちで

同時に着いた電車に乗り込みながら


『また明日ね!!』


初めてこっちからそう言って

ぶんぶんと手を振ってみた。


顔から火が出そうなほど、恥ずかしかった。


手元のケータイが、すぐにメールの着信を知らせる。



『また明日ね!(笑)』



・・・(笑)ってなんだ?




さすがに、いまだに恥ずかしい。

むしろ、歳を重ねた今の方が恥ずかしい。


だから、大事な友人との別れ際は

『じゃあ、またね。』で締めることにしている。


『また』と『ね』の間には、『明日』が挟まっている。


物理的に離れていても

気持ちは明日も繋がっていますように。



ちいさなちいさな、永遠を願う魔法の言葉。






ポケットには 甘いCANDY

大好きな あの唄を くちずさもう


Hello! Orange Sunshine /JUDY AND MARY





左のポケットには、スティック状のパッケージ。




毎朝、駅の手前のコンビニに寄って

買ってから学校へ行くのがお決まり。



メントスのグリーンアップル。



すっかり顔なじみになった店員さんは

シールだけ貼って品物を手渡ししてくれる。



安心をくれる小さな日常。



ひとつ、口に放り込んで

お決まりの車両に乗る。


ほどなくして滑り込んでくるのは

1本後のバスで来た、幼なじみ嬢の姿だ。



その彼女のポケットの中にも

同じものが入っているはず。



なぜなら、彼女に分けてもらって以来、常備するようになったから。



女子の群れが大の苦手な私にとって

割合的に女子が多い教室は苦痛の種だった。



それを知ってか知らずか


各自の教室に向かう別れ際に

必ず彼女のがてのひらに載せてくれる

アップルグリーンの一粒。


ぽいっと口に放り込めば

ほどよい甘さに口角が上がる。


あんなに勇気を振り絞っていた『おはよう』。

そのひとことが歌うように自然と口をつく。


いつの間にか、友達も増えた。



授業中にこっそり

友達のてのひらにおすそ分けしながら

幼なじみ嬢のHRが終わるのを待ちながら

部活の日誌を書きながら


ぽいぽいと口に放り込んで

1日終わるころには1本終了。


また明日、コンビニで。




さすがに大人にもなると味覚も変わって

ポケットに入っているのはミントタブレット。


かしゃかしゃと音を立てるそれを口に放り込む。

しゃきっと背筋を伸ばしてフロアに出る。


今の私には、多分ちょうどいい甘さ。



それでもコンビニで見かける度に

手にしたい衝動に駆られちゃうんだ。






短い髪 シャンとした後ろ姿 思い出す度

あなたのようになれたらと 憧れる


眼鏡越しの空 /Dreams Cone True




ピアノの音が聴こえる。



部室として許可されて使っている訳だし

別にこそこそする必要ないんだけれど。


足音を立てないように

4階への階段を上って

そろりとドアを開けた。


途端に、隙間から洪水のように溢れる音。



指ならしのハノンを上り下り。

それと、何かのメロディをいくつか。


ああ、これは知ってる。


合唱コンクールで

先輩たちのクラスが歌う曲。



やっと、コンクールの朝練場所として

部室が指定されていたことを思い出す。


今日は、始業前の集まりはないな。

そう思いながらも、立ち去ることができない。


視線は、メロディを紡ぎだす主に釘付けだ。



こちらと反対側の壁に置かれたアップライト。

揺れる背中と、自由自在に動く腕、鍵盤を滑る指。


開け放たれた窓から入る風に

短い漆黒の髪がさらりとなびく。


楽譜を追った瞬間に表情が見えた。

なんて楽しそうに弾くんだろう。


おまけにダイナミックだ。



ああ、そうだよ、先輩のクラス、伴奏が男子って・・・。



『おす』


背中から急に声をかけられて

文字通り飛び上がった。


『どうした、ぼんやりして?』


脳内に思い浮かべていた人物は

私の思惑なんか知る由もなく


豪快にドアを開けると、私の背中をとんっと押した。


つんのめるように室内に足を踏み入れたものの

覗きの現行犯としては顔を上げることもできず。


先輩の視線が頭の上を通り過ぎる気配を感じた。

多分、ピアノの辺りで、ぴたりと止まったはず。



『あれ、今日、朝練だっけ?』



応対する低い柔らかい声。



『だから来たんじゃなくて?』



すっかり忘れてた、そう応える声が聞こえる。



普段から、始業前に集まる習慣なんだよ、ウチ。

へぇ、じゃあ、後輩ちゃん?

そう、ちっちゃいだろう?



ちっちゃいは余計です!!



反射的に、がばりと顔を上げた。


それでも視界に入ったのは

脇に抱えられた楽譜がせいぜいで。


さらに、視線を上げたところで

やっと、こちを覗き込む目と目が合った。


まっすぐな視線に思わず俯く、再び。



おっ、おはようございます。



ついでに、覗き見しててスミマセン。


心の中でつけ加えたところで

ふっと、ちいさく笑い声がした。



『ねぇ、なんの曲が好き?』



視界の端で、上履きが踵を返したのが見えた。

かたん、ピアノの蓋を開ける音。


ぴんと伸びた背筋をこちらに向けて座る姿。


振り向いた、人懐こそうな笑顔に

躊躇いもなく、曲名が口をついた。



ゴリウォークのケークウォーク!!



『ドビュッシーか、いいね。』



聴きなれたメロディが指先から流れ出す。

音が飛ぶ、跳ねる、きらきら奏でられる。


その後ろ姿が、すごくカッコよく見えた。




嫌でも目立つ長身。

ピンと伸びた背筋。


今まで、目に留まらなかったのが、不思議なくらい。


馴染みの先輩たちとじゃれる姿。

こちらを見つけて振ってくれる大きな手。


あれ以来、ちょくちょく部室に寄ってくれるようになった。



必ず、リクエスト曲を訊いてくれる。


面白く、きれいに、楽しく

いろんなアレンジもしてくれる。



彼がピアノに向かう姿を

後ろから眺めるのが好きになった。


こんな風に、後ろ姿でも人を惹きつけられる人間になりたい。


恋と呼ぶにはちょっと温度が足りなくて

憧れと呼ぶのにちょうどいいくらい。



初夏の風に揺れる漆黒の髪。

鍵盤を追って揺れる広いシャツの背中。



なつかしいな。