予想もしなかったから 驚いているだけ
こんなに嬉しいこととは 知らなかったの
薬指の決心 /DREAMS COME TRUE
彼の手には、シルバーグレイの小さな箱。
27歳の誕生日を月末に控えた春。
ひとつの決意表明をした4月1日。
社会人5年生。
おつき合い8年目。
目標貯金額クリア。
動き出すなら今だ。
大事な話があると、パートナーに向き合う。
貯金額が目標を達成したこと。
それを結婚資金にするか、大学再入学資金にするか
今年の春のうちに、使い道を考えたいということ。
独断で決められることではないので
4月いっぱい考えて答えをほしいということ。
最初は、エイプリルフールの冗談だとでも思ったのか
茶化していた彼だけれど、最後には眉間にしわが寄っていた。
あちらもこちらも、かなりの自由人だけれど。
卒業してから学び直したいことが見つかって
大学に再入学したいのは本当だったし。
商売屋の跡取りとつき合っていながら
何年も結婚しないことに対するプレッシャー
そこから逃げ出したいのも本当だったし
こればかりは私ひとりでどうにもできないし。
『結婚の必要性が分からない、イメージできない。』と
いつだったかキッパリ言い切った彼のことだから
まぁ、どう転んでも復学だな。
そう思いつつの一か月。
母校の再入学の情報やら
専門学校の資料やら
密かに引き継ぎ書の製作やら
準備を進めていたものの。
そして、4月の末日、30日。
目の前に差し出されたのは
シルバーグレイの小さな箱。
いつもアクセサリーを買うショップのロゴに
中身はピアスか何かだろうと思っていた。
蓋を開けて中身を確認して
思わず閉めて突き返す。
きらりと光を反射した残像に
目の前がちかちかする。
えーとですね。
せっかくなので
こういうのは
中身を見せながら差し出して下さい。
『テレビの観過ぎだろう。』
そうは言ったものの
もう一度箱を手にして
ぱかっと蓋を開ける手。
その指がつまみ上げると小さく見える輪っかが
恭しくこちらに差し出されるのを、ぽかんと見ていた。
27歳の誕生日の夜。
きらり、と小さく光を反射するのは
あまり自己主張をしないサイズの誕生石。
結局、そのデザインが気に入って
結婚指輪は買わなかった。
指にはめられてついた傷を
きれいに研磨してもらったそれが
リングピローの上に載せられて
再び彼の手で薬指に納められるのは
その年の11月のこと。