バイトから家に帰った僕は、蒼成から連絡が入っているのに気が付いた。
「椋井さんがシフト夕方から入ってる。
蕾未が風邪で、代わりって。
“花”のおっちゃんの後ろにいた新汰と春呼のこと、来た時に見てたと思うけど」
目に入る蒼成の言葉に、なんとも言えない気分になった。
とにかく僕はベッドに身を投げる。
超常連客の「“花”のお好み焼き屋のおっちゃん」は、お正月も、いつも通り集中力のある投球をしていた。僕は結構見入ってしまう。
春呼は「おっちゃんの投球」に格段興味は無いようだけど、親とたまにはお好み焼きを食べに行くらしいし、おっちゃんとは普通に話したりしてる。
満席のお客で、まわりが騒しい分おっちゃんは僕達に気付いても無かったと思うけど。
あの後、春呼は何も無かったような顔というか、僕の行動も気にしてない顔で
「じゃあ、そろそろ帰ろ。忙しかったから疲れたー」
などと言って、いつものようにスタスタ歩き出した。
それで僕は、その後ろ姿を、ぼんやり見ながら僕もついて行った。
自転車置き場に来ると春呼は大きなため息をついて、
「新汰、元気出して?お正月って、まぁまぁ面倒臭いよね…」と、言うと大きなマフラーと手袋をして家に帰って行った。
僕は、どこかほっとしている。
春呼のさりげない優しさが好きだし、甘えたくなる自分がいるけど、少し期待していた。
あの時の気持ちを、忘年会の時に、うっかり椋井さんに寄りかかってしまった時に感じた気持ちを、もう一度体感したかったような…
ただ、そんなことは意味も無く、二人は何かもが違うことだけ分かった。
髪の匂いも、感触も。
何より一番違うのは、彼女達が後ろを向いた時の顔を見た僕の心で。
春呼には妹に対する気持ちに似たような想いが強い。
一緒に歩いていて見た目も自慢の女友達と思うけど、恋と呼べるものじゃないのは今まで彼女を作ったことのない僕にも分かる。
春呼が初詣の駐車場で見たという、椋井さんには、やはり彼氏がいるのかを確かめたいような、知りたくないような。
聞くのは簡単だけど、以前はいないと言ってたのに、また聞いてどうするのかと思うと、ためらう。
でも今は、それは後回しの問題で、今日の自分の行動を見られていたら、椋井さんが僕のことをどう思ったか気になって仕方ない。
結局はあの後も僕らは何も変わらないし、何も無かったし、何か言うこともないけれど。
僕は急に寒くなって来て、リビングのこたつに入るため部屋を出た。
こたつに入り込んで首まで布団をかぶる。
天井を見ながら、今、これからアミューズメントプラザに行けば会えると思うと、戻ろうかと思ってしまった。
でも、明日からは陸上部での試合の練習を一番に優先しなければ、と思う。
蒼成には短い返事をして、なんでもないふりをした。
早く椋井さんに会いたいような、会うのが怖いような気持ちのまま、僕は寝落ちしていた。