陸上部は僕のような、練習に来るのが試合前だけのメンバーは結構いる。
他の部活と兼任してやってる部員もいて彼らと一緒にコーチに指導してもらう。
一年の時、中距離走で試合に出るだけ出て、県大会での記録を持っている僕も、ここ最近はバイトにもほぼ入らない様にしていた。
今年入ってから椋井さんに会ったのは3回で、話もほとんど出来てない。
侑斗は、僕がすっかり彼女への気持ちを諦めたと思っている。
それと言うのも学校でも全く話に出さないし、春呼から聞いて、椋井さんが初詣で男性と一緒にいたから彼氏がいると思っているからだ。
あと、僕の気持ちは昨日、休憩時間で一緒になったゲームセンターのバイトの萌絵さんにも、はっきりバレている。
ここの忘年会に参加した時の僕の「抱きつき事件」をすぐ近くで目撃されて以来、隠すこともないので、たまにゲーセンのサービスコーナーに寄った時にあからさまに話していた。
まだ若いけれど、結婚して子供もいる彼女は僕のことをいつも前向きに励ましてくれている。
それで萌絵さんは昨日、春呼が、僕の陸上部でのタイムが伸びないのを気にして、お正月に目撃した椋井さんの事を報告しなければ良かったと、言ってたと小声で話してきた。
僕は、それとこれは別だからと強がってはみたものの、動揺してた気持ちはバレバレで辛い。
そして萌絵さんは、
「由夏さんは、彼氏と呼べる人はいないって言ってたよ」と、慰めてくれた。
本当のところは、いても彼氏はいないと嘘をつくものと、それくらいは学校でも皆してるから知っている。
年上の彼女を好きになったからって、自分の想いを伝えることすら無理な事だらけで、考えるのも疲れてきた。
この気持ちをどうしたいのか、自分でも全くわからないのに相談するのも虚しい。
とにかく走ることに集中して、日々練習したものの、試合の結果は決勝に出られただけで振るわなかった。
青春も終わった気分で、暗い顔をしていたら、蒼成が’花’に誘ってくれた。
そんな気分ではない。
だいたい、常連客のお好み焼き屋の’花’のおっちゃんの投球を見てたら横に春呼が来て、、心身共に寒くなった僕は、春呼の背中をがっつり借りてしまった。
それを偶然、椋井さんに見られてしまったことが、より僕を苦しめているのに。
蒼成が憎らしくなってきた。
でも、蒼成は何も悪くない。
一月末で、春呼は一年生から続けていたここでのバイトを終えた。
僕は試合も終わったし、代わりにというのでもないけれど、シフトを増やしている。
今日も入る前に、蒼成とゲーセンにちょっと寄ってみた。
サービスコーナーでいる萌絵さんに、僕は何の気はなしに
「僕もう告白しようかな…毎日モヤモヤするし、椋井さんに気持ちだけでも言いたいわ…」
と、ボソッと言った。
いつもと違って、中々何も返事してくれない萌絵さんの言葉を待つと、
「…まだ聞いてないのね。由夏さんは、3月の半ばに辞めるみたいだよ。ボウリング場は初めから性に合ってないからもあるみたい。だいたい前の受付の青木さんが急に辞めらされて、それで本屋から呼ばれたものね」
と、同情してるような顔で教えてくれた。
話の内容があまりに突然で僕は、なんだか急に指先が冷たくなった。
失恋した男の気持ちを完全理解になって、何も言えなくなって、萌絵さんには何かを返事してスタッフルームに行く。
蒼成も僕に、何も話しかけて来ないまま
淡々と着替えて、お互い持ち場に着く。
いつもの場内が、別物に見えてきて落ち着かない。
こんな気持ちになったのは、間違い無く人生で初めてだった。