真緒と蘭が部室に入って掃除をしていると二年の先輩と一年女子も来た。
もう四人だけの女子部員は何でも話し合える雰囲気で、悩みとか自分の好きな人とかも言っている。
世話好きでお金持ちの子で小学生の頃から剣道を習っていた一年女子は、真緒の別れたばかりの彼氏と同じクラスで
彼のことを観察していると今までと別人みたいに落ち込んだ様子は見ていられない と、真緒の目をじっと見て言う。
いつも明るく気さくな先輩は、真緒が別れを選んだことに否定的な意見を柔かく言うばかりだった。
蘭は、黙って聞いている。
真緒はやっと蘭にだけ、あのバスケ部の男子が気になっていたことを告白していた。
道着に着替えて真緒らは道場に行く。
裸足で、かわいいめの下駄をはいてカラカラ音を立てながら歩いて行く。
雑巾掛けの掃除から始まる道場に入る時、真緒は正面の壁の日の丸に一礼して、そして、すぐに目で彼を探した。
少しやつれた感が隠せない彼は寂しそうな表情で真緒を見てきた。
もう、胸が苦しくなっている。
自分は何をしているのか分からなくなった。
真緒が退学したいと思っていたのは、何のせいだったのか、ここにいるとわからなくなる。
秋の県大会に向けて集中する時なのに、みんなに気を使わせて申し訳ない気持ちになる。
二人が別れた後はちょっと場の空気が変わっている。
男子の先輩三人と一年男子たちは、もう何も真緒に言って来ない。
でも、冷たい様子でもない。
自他供に認めるナルシストの主将は、いつもの様にちょっとSっ気を出して、彼をからかったりしている。
ただ真緒はどうにか平静を装い練習している。
彼と軽い気持ちで付き合い出したのは間違っていたと後悔している。
いつも優しくて、一緒にいるのが楽しくて、支えてくれた彼を傷つけて、なんて謝れば許されるのか分からない。
もう、彼の目を見てはいられなかった。
そして、真緒は自分の心の裏切りを自分で罰したいだけな気がしてきた。
真緒と蘭は二人で自転車で帰る。
帰り道の途中で中学の時、蘭を好きだった他校に行った男子が後ろから追い越して来ていっしょに帰ろうと話しかけてくる。
蘭は彼の気持ちを知っているけど、何のためらいもない様子で話して笑っている。
真緒は頭の中を空にして後ろに付いて自転車を走らせる。
その男子の真緒のことなど目に入ってない様な感じはまだ、蘭が好きなのが分かる。
時々、蘭は誰よりも罪な子だと思う。
でも、 蘭は蘭で、自分は自分だし、もう両親を安心させるために心配かけた分を取り戻すため、これから全部頑張る気持ちだった。
蘭にどこかで頼っている自分と別れを告げるためにも。
蘭からの無意識に近い裏切りは真緒の考え方を大きく変えた。
もし、自分がちょっとでも注目されている存在なら、誤解を与える様な言動は気を付けるべきと思うようになった。
クラスにいる一番かわいい子とは、たまに話をするようになっている。
入学して同じクラスに真緒がいるのを見て 気取ってて嫌いと思った
と、はっきり言う。
心情の穏やかでない真緒は苦笑いして、でも素直に彼女に
すごいかわいい子がいると最初に思った と、言った。
ある意味、自分以上に自らの気持ちに正直な彼女を見ていると何かが変わる予感がする。
真緒が彼氏と別れてからはクラスの中の真緒をほぼ無視していた女子らは他に興味があることに目を向けていた。
真緒は自分が、偉そうとか気取っているように思われていることを知ってから、そんな風に見えない様に、むず痒い気持ちを抑えながら出来るだけ自然に自分を出すようにした。