夜、布団の中の真緒は眠るまでの時間、自分の気持ちをたどっていた。
別れてからひと月近くになる元彼の尊生のことはずっと気になっている。
部活では顔を合わすものの話すことはほとんどない。
そしてこれまでの事に対して後悔が押し寄せる。
尊生のどこが好きと思っていたのか。
真っ直ぐな目ととても綺麗な毛穴一つ見つけられない様な素肌…それから優しさと包容力と。
そして、男らしさも…
長年、剣道をしてる彼の引き締まった腕や姿勢の良さとか低い声。
自分のことを好きになってくれて、いつも守ってくれていた信頼できる存在。
自分の顔の傷のことを全然気にならないと心からの言葉で言ってくれた時のことは忘れられない。
それなのに何も見てなかったように思う。
自分のことを無条件に必要としてくれる人がいることだけに喜びを感じていた気がする。
そして存在価値がある自分でいたかったのと思っている。
その結果、尊生の心を無視していた最悪な自分に苦しむ羽目になった。
バスケ部の沢木君のことを気になっていたのに…今はそうでもないと思うのはよく分からない。
蘭に沢木君の事を告白してからは特に気持ちが変わっていった。
初めて意識した時は彼の端正な表情に懐かしい雰囲気がして、見過ごせない稀有な存在に思えた。
この頃は特に、何処となく彼は寂しそうにみえる。
他校にいた彼女と別れたって噂で聞いたからと思っていたけど…
いつも沢木君は目が合うと自分のことを長いめに見返してくる。
自分には彼氏がいたから罪悪感に思ったか自意識過剰かわからなくてドキドキしていたのかもしれない…はっきりしない。
ただ、これ以上深く考えようとすると触れたくない感情から逃れようとしてしまう。
いつもスイッチが入れ替わってしまう様だった。
もう必然的に眠気が来て真緒は目を閉じた。
蘭には新しい彼氏がいる。
その彼氏は友達の紹介で知り合った人で、実家の居酒屋で働いている二十歳の人。
真緒は携帯に入っている写真を見せてきた蘭に、彼氏に一回会ってみたいとは言わなかった。
見た目は意外と普通に思う。
とても話が楽しい人らしい。
そこそこの相槌を打って合わせてたけど、絶対に会うこともない。
真緒は、このところの蘭が言う彼氏についての全ての内容を聞く気が失せてきた。
嬉しそうな表情をしながらも前の時とは違った感じで、振り回されているみたいな話が始まる。
思い当たるあのイライラがやってくる気がして、なんとか自分の気持ちを制御する。
わざと不幸になりたいような蘭の話は聞いていると悲しい。
自分が相手だったらもっと大事にするのにと思う。
だって蘭はどうしても可愛い。
いつも真剣な眼差しで人の話を聞いてて、真面目な性格が出ている。
そのまま可愛い表情でさらりと人の長所を褒める。
蘭に心からそんなことを言われて照れない人はいないはずたっだ。
健康的な小麦色に近い肌に女子にしたら高めの身長で、笑顔は白い整った歯並びを見せつけている。
身体が弱いなんて表向き全く感じさせない凄い美人の蘭はどこへ行っても目を引いた。
その上、皆を虜にする天然な性格で、時々見せる幼な子みたいに怖がりなところは、真緒の母性本能をくすぐる。
蘭を守ってあげたいと、彼女のまわりの誰でもがそんな気持ちになっているはずと思っていた。
真緒は自分のいかにもな女子っぽい見た目ではなくて蘭みたいなのが憧れる。
もしかして、それが蘭を好きな一番の理由なのかも知れない。
蘭にも時々そう言っている。
蘭は真緒みたいなのが絶対いいよと言っていたけど。
真緒は幼い頃から女子に生まれてきたことが自分にとっての一番の違和感だと思っていた。
それを考えないようにして紛らわせようとしても無駄なことと分かっている。
2つ年上の目立ち過ぎる優等生の姉と比較されて、嫌になっているだけと思うようにしても違う。
男同士だったとしても兄は円満な性格にして、法学部に進んだ秀才だし、ある意味もっと才能の比較がきついのも想像に容易い事。
心の中に、もう一人の自分を抱えながらもこの自分を生きるしかないと言い聞かせてきた。
それでも、自分は男子として生まれて来たかったという切実な願いは年々大きくなって、誰にも言えないまま真緒の心を支配していた。