次の日の昼休みに真緒は校舎横の人通りの少ない場所に尊生を呼び出した。
ちゃんと伝えないといけない言葉をやっと言えた。
「私のことは待たないで。尊生は私じゃない子と…付き合って…」と。

 尊生は真緒にとって大事にしたい存在には違いなくて、本当は尊生が他の女子と話をしているのを見かけるだけで辛かった。
部活の時は平静を装っているけど、蘭と話しているのも複雑な思いで見ている。
 蘭は以前より尊生に優しくしている。
彼のバンドのライブも女友達の組んでいるバンドと一緒になったりで観に行ったらしい。
その時のことをいろいろ報告してくれるのは余計だった。
尊生はギターが本当に上手くて私服もかっこいいからそこでもモテているのも知っている。
自分もライブを観に行った時の尊生の優しさを思い出して余計にせつなくなった。
 尊生は寂しそうな表情を見せて
「 真緒のことを誰よりも好きなのは僕だから…」  
と、聞こえにくい小さな声で言った。
でも、その時の尊生の目は綺麗で澄んでいるあの大好きな目だった。
真緒はいつの間にか涙が伝う自分の頬を手で押さえた。
こんな時も尊生は優しくて、自分の制服のポケットから綺麗なハンカチを出して渡してくれた。
 蘭のようにわざと不幸になりたいみたいな子とは自分のことだった。

 また蘭が嬉しそうに報告してきた。
二十歳の彼氏と彼の家でキスしたと、聞かされると自分の蘭への気持ちの輪郭がはっきりしてきた。
自分の想像を超えて心が痛かった。
 蘭は基本考え方は大人で普通の女の子だからいずれそうなると思っていた。
彼とは早く別れて欲しかったし、自分達よりずっと大人の彼の話を聞かされると気が気でなかった。
それで、ずっと先を越された気がして焦るのかと思っていたけど違う。
自分ならどうかと思うと拒否反応しか出てこない。
自分は幼くて、そして本当に男子とは付き合えない様な異常な性癖なのかもと、悩ましくなった。
それに蘭をそんなに本気にさせている彼のことをまた、毛嫌いする自分は間違いなく普通の女友達の心情では無いことも明確になっていくようで怖かった。

 蘭にいいところを見せたくて部活の剣道を頑張っているのかと思う時がある。
蘭はよく褒めてくれた。
これまでも携帯で二人一緒に写真をたくさん撮ったものは自分にとって宝物だった。
蘭は写真を撮るのが上手くて、いつも丁寧に撮ってくれた。
剣道は体調のせいで途中で諦めたけど、蘭がちゃんと練習したらきっとすごく上達したに違いない。
でも、自分のためにマネージャーでい続けてくれている。
その事実だけは何より心の支えだった。

 次の大会で自分は試合に出るけど、8ヶ月しか経験が無いにしても初戦だけでも勝利してみたかった。
現実的に、こんな自分が勝てるとしたら相手の次の手をいち早く先読みするしかなくて…経験の長い相手や打突の強い相手には競り勝てない。
少しでも自分の気持ちが強ければ勝てると信じるように思った。
 道場にいる時、稽古中の防具をつけて竹刀を持った自分は雄々しくて自由な気持ちになれた。
男女の区別が一見わからないこの姿こそ安心していられる理由と知っている。
家に帰ると鏡に映る自分は、まわりの皆の言う女の子らしい姿でも、身の内から徐々に現れてくる気持ちには嘘をつけなかった。