蘭が体調不良で学校を休んだ日の夕方、真緒は部活後に一人で帰宅していた。
日は沈み辺りは暗い中も、長い幹線道路は街灯は明るく、車の流れの多い帰り道は別に怖いことはなかった。
蘭なら一人だと、怖がりそうと考えながら、この日曜日に少しお見舞いで蘭の家に行くことにしてるのを待ち遠しく思っていた。
真緒が黙々と自転車を進めている横にサッカー部帰りの大和君が後ろから追い付いて話しかけてきた。
隣のクラスで、真緒とは腐れ縁の大和君は、今まで蘭といる時も何度か一緒に帰ったことはあった。
蘭とは、とても仲良くて気安くいつも話をしている。
大和君は中学2年まで6年間同じクラスだったから性格はよくわかっている。
昔から基本優しい言葉など言わないけど、人を惹きつける愛嬌はあった。
自分の感情に正直で、言いたいことを躊躇なく放つ。
中学の時はライバル視している才能がちょっと上な男子を自分の持つ威力で、周りの男子達に無視させていたのが、ほとんどの女子達の反感を買っていた。
大和君の欠点のない見た目は余計に自分勝手さを際立たせていたと思う。
ちらっと見た横顔はどことなく沈んでいる様だった。
意外に思ったから、黙って彼が何か言ってくるのを待った。
大和君はサッカーをすることが一番の目的で、文武両道な子が多いこの高校に入ることにしたのは知っている。
部員数が多く、練習もきつくて大変だろうけど、ずっと彼特有の自信満々なままでいて欲しいとは思っていた。
沈黙を破って、真緒は
「練習きついの?」と、ありきたりな質問をした。
大和君は黙ったまま車道側を向いて、すぐこっちを見た。
そして思いもよらない事を言ってきた。
「お前って…あいつと別れたままだよな。俺が付き合ってやってもいいけど」と。
知ってる限り大和君は顔は真面目なまま、ふざけたことを言う男子だったけど、こんな事まで言うなんて、本当に驚いて大和君の目を見た。
そして、真緒は素直に疑問を聞いた。
「なんで?」
大和君は間髪入れずに
「お前って、俺のこと好きだろ?」と、言う。
自分は、彼と付き合いたいなんて思った事は全く無かった。
美形で細マッチョという女子の好みを全部集めた様な大和くんには一つ、デリカシーというものが大きく欠けている。
友人としても笑えない事を言ってると思いながら、
「…そんなことない」と、だけ言った。
それ以外に応える言葉はないから。
すると大和君はもっと真面目な顔で、
「俺はお前が…好きだけどな…」と呟くように言った。
こんな時にさり気なく言う事じゃないよと思ったけど、おそらく本気だと分かった。
真緒は聞かなかったことにしたかったけど、すぐダメだと思って、返事の言葉を振り絞る。
「…私には他に気になる子がいるから尊生と別れたから、大和君のことは…」
もうこれ以上は苦しくなって一言も言えなくなった。
大和君はいつも以上に端整な顔立ちで
「俺って告るのが遅かったってこと?」と、言って心を閉じたように黙った。
今の自分に何が起きているのかも理解出来ないまま、大和君も通り道だから真緒の家の近くまで一緒に帰った。
今まで見たことの無いような優しい表情で大和君は
「また、明日な、、」と、はっきり言って背を向けて行った。
家で自転車を置きながら、真緒はなんとなく気付いていたかもしれない彼の気持ちに泣きたい様な気分だった。
全てにおいて活発な大和君のことをずっと見てきて、自分が男子だったら、あんな風になれたらって、外面的なものには憧れていた自分がいたのは本当だった。
大和君をかっこいいと言う女子達とは、違う目線で彼を見ている自分は変だと分かっていたのに、その感情をずっと直視出来ないでいた。
ただ尊生から自分がどんどん遠くなっていく様で寂しかった。
自分が本当に欲しい物は何なのか、見えそうで見えない。
そして蘭の不安そうな顔が脳裏に浮かぶ。
蘭はいつもみんなの中心にいて、自分の親友なのに時に、手の届かない存在に思えた。
二人で早く会いたかった。
そわそわして、明日も学校を休む蘭に連絡してみた。
蘭の声は低く、あまり体調は良くないみたいだった。
無性に不安になった真緒は、三年前に蘭から聞いた話を思い出していた。