蘭は数日休むと登校して来た。
真緒が家にお見舞いに行った時とは違う顔色で、なんとか体調は良くなったらしい。
そんな間も連絡をしてくると、不安にさせる様な情緒不安定な長文を送ってきたと思えば、天然な発言で笑わせたりだった。
どちらも蘭で、蘭の気持ちを分かってあげられるのは自分だと、改めて感じた。
蘭は、何か発散している様で、不安に負けそうな気持ちを紛らわせていると思っていた。

 放課後、真緒と蘭が女子の部室に行くと葵先輩はもう着替えを済ませていた。
もう一人の一年女子の紫苑も来た。
白い道着と袴姿の葵先輩はいつもより真面目モードになっていて
「気合いを入れ直して、試合で自分の力をちゃんと出し切る様に」と、言いながら自らにも言い聞かせている様だった。
 練習中でも葵先輩の勇敢な試合運びは、ただひたむきという言葉がぴったりだ。
 総体での試合の時は身体の大きな相手にも気持ちでは競り勝っていたし、葵先輩の大きな声は誰よりも負けん気の強さが露わになっていた。
 真緒は休まずに来る事を大事にしていたものの本当の集中ができない事が多くてケガが多く反省する。
未だに防具の無いところを竹刀で打ってしまっては受け身の相手に痛い思いをさせて申し訳ない気持ちになっていた。

 蘭は、時折指導に来る剣道部顧問と話したり、道場横の男子の部室兼道具置き場の片付けをしてくれている。
道場の玄関も綺麗に磨いてくれた。
強豪の柔道部も兼用で使っている玄関は、柔道部監督と生徒指導とを担っている先生の使う部屋が隣接してある。

 蘭は、その柔道部監督とも話をよくしていた。
蘭は何の屈託もなく監督に話しかけて楽しそうにしている。
真緒も休憩時間には、時々一緒に話をするようになった。
いつもは生徒指導で強面の監督も、ここにいるとちょっと表情が違う。
男子ばかりの柔道部での指導より、蘭に話しかけられると悪い気はしないだろうと真緒は思っていた。

 真緒にとっての初公式戦出場になる県大会が明日という日が来た。
剣道部は程よい稽古の後、男女が共にミーティングをした。
新しいチームで戦うことに緊張しながらも和やかな雰囲気は変わらない。
顧問もいつもよりは長居して、皆を鼓舞する言葉を掛けた後、速やかに帰って行った。
その後、男女部員皆で少し話をしていた。

 真緒の心の中は一勝でも勝ちたい気持ちでいっぱいになっていたけど、まだ何の自信も持てないのが正直なところだった。
練習試合は技も決まらないばかりで後半の体力がすぐ奪われていく。
いつも応援してくれる蘭には、とにかくがっかりして欲しく無い。
尊生と目が合うと、このチームで初めて試合に出場するし緊張してるかと思って、尊生に
「明日、頑張ってね」と、言うと尊生は嬉しそうに微笑んで
「真緒も頑張れよ」と、言って真緒の目を見続けてきた。

 真緒は夜になっても眠れそうもなかった。
久しぶりに近くで話してドキドキした気持ちに戸惑いながらも、尊生は全てが綺麗だなと、また同じことを考えていた。
もう自分から言葉をかけるのは、ためらいながら尊生が何か言ってくれるのを待っていたりする。

 明日は本気を出せるように、自信を持って蘭と尊生に見てもらえる試合をしたいと強く思った。