高校剣道大会の試合の朝、真緒は蘭と待ち合わせて電車に乗って出掛けた。
防具入れは重くて大きい。
同じ荷物を持った他校の生徒を何となく気にしながら緊張して試合会場の高校に着いた。
 体育館の入り口近くで、葵先輩と紫苑は先に着いて待っていた。
蘭以外の三人で、一緒に更衣室に入って道着に着替える。
葵先輩と紫苑のは慣れたので気にならないけど、他校の女子の着替えは目にしない様に必要以上に下を向いて着替えた。
葵先輩は小柄な全身ボーイッシュだし、紫苑は普通の男子より体格がいい。
真緒の近くで着替えている他校の女子達は、可愛い子もいて何故か罪悪感さえ感じてしまう。
 今までも学校の女子更衣室では、無意識に必要以上に下を向いたまま着替える。
これは自分だけなのか、女友達に聞いたことはあるけど、皆ほとんどの答えは自分とは違っていた。
 
 胴着と袴姿に着替えて、更衣室を出て女子の試合対戦相手を確認していた。
紫苑はきっと個人戦で勝ち進めると思う。
剣道歴10年目の貫禄もある。
団体戦は、葵先輩は先鋒、紫苑は次鋒、真緒は中堅との対戦に決めた。
対戦相手は強豪校ではなかったし、真緒は勝利を信じていくことにした。
一戦でも負けると、もうその時点で一回戦敗退決定となる本来五人必要な団体戦を三人で戦う試合がもうすぐ始まる。
蘭は男子の先輩達と話しているのが見えた。

 開会式の後、蘭の横に尊生がいて主将の先輩と話している。
自分達の試合が終わったら団体男子の対戦を応援に行く。
緊張で心臓の鼓動が早くなる。
防具をつけて用意をしていると、蘭が戻ってきて、審判旗の勝敗の色分けの紅白たすきを胴紐の背中に結んでくれた。
その赤い襷の長さを整えて蘭は、
「頑張ってね」と言って、真緒の背を気持ち強めに叩いてくれた。
とても勇気が出てきて気持ちが落ち着いた。
蘭見ていてね…絶対勝つからと、思いながら先鋒の葵先輩の方を見た。
試合が始まる。
葵先輩は誰よりも勇猛な打突を繰り広げて、大きな声で向かっていった。

幸先よく葵先輩は、一本取って勝利して、もう次鋒の紫苑の番が来て、真緒は見ているのも苦しくなってきた。
周りの声とか、いつもと聞こえが違う。
技に余裕のある紫苑の勝利した旗色が上がり、真緒は立ち上がった。

相手のことは考えない。
自分との戦いは一瞬の隙もない心を持ち続けること。
剣先を見て、対戦相手の目を見た。
いつもの練習相手の葵先輩や紫苑とは違う、落ち着きのある表情だった…
でも、すぐに技を仕掛けてきた。
真緒は剣先の上ずった様子で見切って、次に相手の竹刀が動いた瞬間、迷わず思い切りのよい抜き胴を打った。
誰が見ても文句なしに技が決まった。

 早い幕引きになるはずだった。
でも、急に思いがけない思惑に襲われた。
色の白い線の細い顔立ちをした相手の目を見ていると、急に闘争心が途絶えた。
…泉海に似ているな…と思った時、相手の技が決まった白い旗が上がり結果、引き分けになった。
残り二試合は不戦敗。
二勝二敗一引き分けで紫苑が決戦の代表戦に出た。
相手の大将はやはり強く、紫苑は粘ったものの辛くも負けた。
紫苑の背中は、真緒が自分の勝てる試合を捨てたことを怒っているように見えた。
でも、そう思うのは自分の心が途中、まるでなってない状態だったから。
こんなにあっけなく終わってしまうなんて後悔しても遅かった。
でも、済んだことと、個人戦へ気持ちを向ける。

蘭は笑顔でいてくれた。
勝てなかったけど真緒にとって、それが一番大事に感じて気持を切り替えた。
自分は弱いところだらけで、すぐに折れるけど、これから強くなって気持ちも強く持って、蘭のことは自分が守るからと思うと勝てると思った。

 真緒は個人戦の一回戦は勝利出来た。
男子の試合を応援しに行くと、尊生の試合運びは落ち着きがいつも通りで、流石だなと思って、まばゆい気持ちで見ていた。
男子の団体戦は、主将の活躍でベスト8まで進めて健闘した方だった。

 蘭は終始ご機嫌な表情で、飲み物やタオルを渡してくれてマネージャーらしく、お世話をしてくれていた。
ただ、真緒はこんな風に蘭が元気でいてくれることをずっと願っていた。