家に帰った真緒は思い返していた。
いろいろなことを一人考え過ぎていて、病室で蘭の顔を見たら、つい泣いてしまったことは後悔している。
でも、自分を想ってくれる蘭の心からの言葉で目が覚めたようだった。
蘭も泉海とのことを知っていたこと。
今まで蘭は何も知らないと思っていたから、病院に向かう時に泉海のことで頭がいっぱいだった自分は、蘭に泉海のことを言われて動揺した。
存在の華やかな蘭とは違う、いつも物静かだった泉海。
地域柄、転校生も多くて見慣れたことだけれど、周りと打ち解けるのに誰よりも時間がかかっていた泉海。
父親の転勤で、すぐまた転校してしまう子達とは違うから、私達はずっと一緒にいられると思っていた。
あの日、自分との約束が無ければ泉海はどうしていただろう…
忘れようとしても、追いかけてくるやり場のない感情。
大人に近づくことを拒否してしまった自分の心の中を蘭はとうに気付いていた。
自分はというと、明るい性格でも本当は毎日が不安定で体調の優れない蘭に頼られること、いつも天然な蘭と笑い合えることで満たされてきた。
あの過去の後悔から自分の気持ちを抑え込むばかりなのを、蘭は否定した言動をしていたのと理解した。
泉海は、何処かで強く生きていると信じている。
泉海に逢えたことを良かったと思えるように、楽しかった思い出と泉海の笑顔を忘れないようにすると決めた。
中学に入って蘭と出会った頃は、自分の意見が幼くて本当につまらないことで喧嘩しては、すぐに仲直りする仲だった。
でも、今は自分のことを誰よりも信頼してくれているのが分かって、幸せな気持ちになった。
自分を責めることは一つも必要じゃなかった。
次の日、沢木君は真緒にこう言った。
「真緒は僕の事をよく見ているようで本当は見ていない。いつも不思議で、その理由を一番に聞きたかった」と。
沢木君と友達になりたかったのは本当で、恋心もきっと本当にあった。
誰が見ても魅力的な沢木君は、思っていた通りに真緒の気持ちをゆっくり聞いてくれた。
蘭の好きだった少し影のある中学生の頃の一摩君と、泉海の好きだった親切で優しい小学生の頃の一摩君にも似ているけど、彼は彼だった。
想いが曖昧で自分の初恋らしきものが友人と同じ人だったのかもわからない。
あの日を境に会話することもなくなっていた一摩君への感情も全て過去のことと思い切ってゆく。
真緒は沢木君に恋人にはなれないと言った。
沢木君はほとんど平然とした顔で、こうなることは分かっていたかのように頷いた。
結局、彼とは短い間の恋人未満の関係で、一度も好きという言葉を言うことも言われることも無く別れた。
蘭は退院して、登校してきた。
すぐに冬休みになってクリスマスが来て、真緒は部活の帰りにケーキを買って蘭の家に遊びに行った。
蘭も大人しく家にいて彼氏とは遊ばないようだった。
本当はクリスマスは沢木君と会うはずだったのに、あっけなく終わったことを蘭と話した。
それでも、彼とたくさんのことを話せたこと、良かったと本当に思っている。
ひとつの運命的な出逢いと別れ。
何故か彼への罪悪感はあまりなかった。
蘭はとりあえず、剣道部のマネージャーを休むことになった。
真緒はこれから一人で行くことになったけれど寂しくなかった。
この前のことで、心の中に空いていた穴が埋まった気がしたから。
蘭には自分を気にせず、身体を大事してもらいたいのが一番だと思った。
最後にと、道場に蘭が来て、みんなで爆笑話になったりして笑い合っていた。
真緒は剣道部でいる自分の存在がありのままの姿で心地良かった。
自己愛の強い主将は、蘭にもいつも通り辛辣な言葉を使って楽しそうだった。
それを見て葵先輩は、黙っていたらモテるのにと、いつもの指摘をしていた。
尊生とはお互い普通を装っていても、ずっと目が合ってその度、彼は微笑みをくれていた。