私の名前は椋井 由夏。
今日から新しいバイト先に入ることになっていた。

 高校時代に土日にバイトしていた本屋に9年ぶりに不定期で入っていたのが、結構慣れたところで、隣接した建物にある同じ経営グループのボウリング場の受け付けへと配置換えされて来た。
何故か急に頼まれたので仕方なくだった。
 本屋の新しいオーナーはグループの社長の長女で、出社も気まぐれな上に自分の気にいるかどうかだけで、人を動かしたいところが露骨にある。
5歳年上の31歳の彼女に対して、私はあまりお世辞を言えなかったから気に入られてないのは分かっていた。
オーナーの婿入りの夫も同系列会社で働いていて、小学生の娘が1人いるのは本人から聞いていた。
職場の雰囲気に似合わないハイブランドの衣装をいつも身に付け、ネイルも常に完璧な見た目以外にも存在が少し浮いてる。
自分としては、仕事はちゃんと真面目にこなしていたので突然の異動は、ちょっとショックを隠せない。
 全国展開の大型書店と県下の大手遊技場を経営している親族を持つお嬢様が、この店舗に来た時、正直いい気はしなかった。
そんなところは私の心の狭さと理解している。

 私の本職は個人経営の産婦人科医院の食事を作る調理師をしている。
朝も早出があるし、自分の休みの日も月によって変動する。元旦も仕事がある。
今は彼氏もいないので、休みの日を趣味などではなく、お金のためバイトすると決めて4ヶ月くらい過ぎた。
 私の母はここ数年体調を崩して、少し前仕事を辞めていた。母子家庭で二人で生きていくために少しでも稼ぎたいのもあって本屋でバイトもしていた。

 母はとても優しく賢い女性で私の一番大事な人。
私をいつも励ましてくれる母の言葉は何よりやる気が出た。
ずっと仕事をしていると、本当に疲れてくるものの、場所やジャンルが違うと意外と反対にリフレッシュ出来ると思っていた。
 今日も、それなりのストレスの中、朝の早出勤務をして午後3時に明けて、少し休憩したら午後4時にはバイトに入った。
また、新しい仕事を覚えるのは面倒と思っていたけど、ボウリング場の店長は真面目な良い人と聞いていたとおりで、少しほっとした。
というのも、本屋の主任は自分で女好きを自慢してくる様な理解し難い人物だったから、いつも気が抜けなかった。
その主任が昨日の帰り近くに、私が本屋でのバイトが最後になるレジの横へ来て、自分は名残惜しく思っているとか、いつもの様にどうでもいい自慢話を言ってきて、本当にうざかった。
ただ、本屋の時は午後8時に閉店で、ボウリング場は成人女子は基本午後9時までいないといけない。
キツイので、とりあえず店長にあまり入れないとは言った。
本当に女性オーナーは従業員のことをあまり考えてない。
まだ新しい女性バイトを入れるつもりの様だけど。
それで、夕方に高校生たちが数人バイトに入って来たら自己紹介をし合って仕事の受け付けの仕事を説明される。
やはり、私の苦手なことも結構あって落ち込んでもみた。
気分もそんななので平日だし1時間早く帰らせてもらった。

 次の日、バイトに入ると、狭い休憩場所に高校生バイトの登崎君が飲み物を持って座っていた。
私は初めて話しかけた。
「おはようございます。  今から入るんだね。ここに来てどれくらいなの?」
登崎君は、すぐに人懐っこい表情を見せて高校生らしく
「おはようございます椋井さん。僕はもう1年くらいです。急に受付のあの人辞めさせられて、椋井さんが来ることになって…びっくりしました」と言った。

(そんなの私も言われるがままだよ)と、思いながら笑みを返した。
この時の登崎君は、少しクールそうな見た目とは違うよく喋りそうな子だな、との印象だけだった。
少し他愛もないことを話して、時間が来てお互い持ち場に行った。
店長は奥の部屋で個人注文のボウリングの球をお客様仕様にする仕事に入った。
まだ慣れてない私の指導は主任がする様。
彼は丁寧にそこそこ優しく教えてくれる人だった。
でも本屋のレジなどとは別物の仕事は、結構ストレスを感じた。
だいたい産婦人科医院の調理師になったのは、多くの人との関わりを少なくしたいからだったのに、合間のバイトとはいえ何気に少し派手なところに立っている自分が滑稽に思えた。