先にお店に着いてた翔子さんは、優しく微笑んで手を上げて呼んでくれた。

いつもは、もう少し落ち着く雰囲気の喫茶店とか、お洒落なカフェなどを好む翔子さんだけど、私はゆっくり座れる明るい照明のファミレスが心地良い時もある。

軽食を頼んで、程よくおしゃべりな翔子さんの話に耳を傾けていた。


 翔子さんは、独身らしく常に身綺麗にしていて、自分の価値を知っている。

スーツを着ている時もあるし、女性らしいワンピースをよく着ていて年齢を感じさせない可愛らしさがある。

  翔子さんに出逢ったのは一年半ほど前で、共通の友人の御冬の結婚式で知り合った。

御冬は、私と同じ大学の同級生で、翔子さんとは仕事仲間だったけれど、結婚してから転職していた。

 もう赤ちゃんもいて、パートで働いている御冬とは、滅多に会うことはないし、翔子さんと話が合うのは、やはり独身女性としての話題が第一と思う。

仕事の話もするけれど、現在気になっている男性がどうのとかの話で盛り上がっている。だいたいお互いの男性遍歴のことを知り合っていた。

でも、翔子さんのそれは時に謎の部分が多いというか、辻褄が合わないというか、ほぼ欠点の無さそうな彼女が、ずっと独身でいる訳を知りたいのが私の本音かも知れない。


 私が、今の職場には、たまにしか会うことのない医院長先生以外は女性しかいなくて、以前の職場の様な男の取り合い的なものに関わりがなく、安心して仕事が出来ていると言うと、優しく笑いながら翔子さんは、

「他の女子達は結婚してたり、彼氏がいる子ばかりなんだよね?話してて寂しくならない」と、聞いてきた。

私は、また言われてると思って、

「恋愛で、仕事に支障をきたすのは大変なんです。それを思うとマシかなと…」

と、返して、バイト先のアミューズメントプラザでの周りの男性達の話を出した。

 

 真面目な店長は、常に優しく仕事人で、あまり接触がない。

穏やかな対応の副店長は、新妻との間に赤ちゃんがいて、かなり節約頑張っているらしい。家も近いから毎日、自転車で勤務している。

夜学に通う主任は、苦労してるけれど何でも楽しくよく喋ってくれる。

イケメンでは無いけど、もう気心が知れている。

男子高校生の子達三人は、素直で可愛い。

それで、登崎君のことは、よく話しかけてくれるし、見てたらわかる運動神経の良さと綺麗な鼻筋の通ったところが好感持てると言った。

レーンの裏方のスタッフさんとは、あまり会わないけれど、今度、冬休みに入る前に忘年会がある様だから話すかも。

などと、最近入ったバイト先では、女子ばかりではない環境を送ってますアピールをした。

 ただの人間観察してる人と思われたかと、翔子さんの声を待つと、コンパの話を持ち出された。

「仕事関係の独身男性に声をかけておいたから、由夏さん参加してね」と、頼まれた。

過去にコンパで楽しい思い出とか無いから、乗り気にならないものの翔子さんが、どんな風に男性と話しているのか知りたくなって、了承した。


 私にも御冬の様に、若いうちに結婚したい夢があった。

それは結婚自体に夢があるというより、大好きな人がいたから。

今も彼のことは1日も忘れた事がない。

別れを決めたのは自分なのに、ずっと引きずっている事が悲しい。

 元彼の征治さんと出会った時は、彼は元奥さんと離婚協議中で、自分達のことより彼の幼い子供二人の将来を考えて別れたのが、私が22歳の時だった。

自分では、しっかり地に足を付けて生きていける様に頑張ってきたものの22歳の時点で、いきなり二人の子供の母親なんて、ちゃんと出来るはずがないのは明確だった。

自分でも愛する人を失う悲しさと引き換えに、苦しみから逃げたと思う。

そう思うのと同時に、私が少し若いからか征治さんの束縛はちょっときつくて、疲れていた。

シャツのボタンは常に一番上までしないと怒られるし、デートは休みの日全部で、終日ずっと一緒にいないと疑われるから、女友達とは疎遠になるし…

何より本当に征治さんだけしか見てない私のことを信用されてない気がして悲しいし、一々疑われて面倒に思ったのも確か。

彼の離婚原因が元奥さんの浮気発覚だったから気持ちもわかるけれど、私をいつも疑う彼が信じられない気持ちもあった。

征治さんと別れてからは、全ての束縛から解放されて初めて、自分らしさが無くなっていたことに気がついた。

それなのに、彼の全てが欠点も含めて全部愛しいことに変わらなくて、どうしようも無かった。


 私は、征治さんと出逢った会社を辞めてからも、他の人を気になったりしたけれど、本当の好きって気持ちはこんなものじゃないと思う。

全てが愛しい人になんて、もう出逢えないと思ってしまっている自分がいる。

別れてからの酷い想いも覚えている。

征治さんは、前から自分の事を好きと言っていた、私の一つ上の女子社員と付き合うかどうかの感じを見せつけてきて、わざと私の気持ちを翻弄していた。

よく考えて、二人で話し合って別れたのに、他の男性社員と普通に喋っているだけで、彼の目が怖くて辛かった。

極め付けは、会社の忘年会に参加した時に酔いの回った征治さんが、私が化粧室に行ったのを付けて来て、よりを戻したがった。

無理矢理腕を掴まれて、廊下の隅でキスされそうになったのを、ちょうど店員が見つけて横を通ってくれたから、何事も起きなかったものの、様子を見に来た先輩の女性社員に、彼と近い距離で話しているのを見られてしまった。

それから、その先輩には、まともに話をしてもらえなくなった。

私は完全に居づらくなって会社を辞めることになった。

飲み会なんて、ろくなことにならないイメージしか無い。


 土曜日が来て、朝からアミューズメントプラザにバイトに行ったら、いつもと違う静かな開店前の店内で、夜学に通う主任が、せっせと掃除していた。

他にも、登崎君と春呼ちゃんと、初めて見る女子高生らしき子がいた。

若いって元気でいいな、悩みとかも可愛いものだろうとか考えながら、笑顔で挨拶した。