椋井さんの後ろ姿を見ながら歩いて、隣の本屋の店内に一緒に入ると、レジ横にここの主任がいた。
主任は椋井さんを見て、嬉しそうに笑いながら話し掛けている。
僕は少し近くの雑誌などを開きながら、聞き耳を立てていた。
今の僕にとって、椋井さんに近寄ってくる男は気になって仕方がない。
経営者が同じのパチンコ店の店長も、敷地が隣で事務所が同じだけど、以前ここで椋井さん達と話していたのを思い出した。
ボウリング場施設内のゲームセンターの店長は、よく似た年頃で、何度か話をしているのを見かけた。
何なのかと聞いていたら、たまには本屋にも遊びに来て欲しいと、前から言われていた様だった。
主任は目尻を下げて、おしゃべりし続けている。本屋に関係の無い内容がほとんどの様だった。
本屋は、去年新装オープンした時からバイトの女性は、美人ぞろいで不自然なくらいに思っていたけど、ここの主任の趣味で採用されたと確信した。
何分か経って、だんだんと表情も早く帰りたそうな様子の椋井さんに、僕は声を掛けた。
「椋井さん、僕はもう帰りますよ。」
すると、あっ、という顔をして椋井さんは
「私もそろそろ帰ります」
と、言って鞄を持ち替えた。
とにかく、僕はトイレも行きたくなってきたし。
一緒に店から出ると、椋井さんは
「長かった…思っていたよりも」と、言って疲れた様に微笑んできた。
僕はちょっと本音を言う彼女の顔に見とれて、すぐに言葉が出てこなかったけど、何とか
「あの主任、やっぱり変わってるな」
と、言った。
椋井さんは車に乗って帰るとき、ありがとうと言って、またねと笑ってくれた。
次のシフトが同じ時が楽しみだった。
連日の部活参加で筋肉痛の中、僕が家に帰ると、母親が正式に離婚した事を報告してきた。
短く了承の返事をして、現実をちゃんと受け止めるまで、時間がかかると思った。
父親も母親も自分にとって、等しく大切な存在だから。
自分の部屋に行ったら蒼成から連絡が来た。
12月に入る前にバイト先で忘年会があって、高校生バイトも夕方の早い時間に少し参加出来るようになっている。
そのことに蒼成は
「その日は用事があるの確定だから、僕は行かない。忘年会は侑斗と行ってきて」
と、前から言っていたことを言う。
本当は何が言いたいのか分かっている。
今日、僕が学校の休み時間に言ったことで、蒼成をびっくりさせた話についてだろう。
今日の休み時間に、何気なく僕は、ずっと思っていたことを口にした。
「前から思っていたけど、椋井さんの顔が大好き。歌姫のS.Aに似てるし最高にタイプで、性格も優しいし付き合いたい」
と、つい言ってしまった。
その後、蒼成は思っていた以上に、何を言っているのかという顔で僕を見てきた。
そして、
「嘘よな。何歳上?」と、言った。
真面目で、変わったことはしない彼らしい反応と思った。
今、また改めて一番に言いたいことは、年齢の事だと。
「新汰まさか、椋井さんに告白とかしないよな?」
「全然しないわ、まだ」と、だけ返した。
椋井さんに全く相手にされていないのは、自分が一番分かっている。
火曜日が来て、営業中でも出来るだけ参加してきた社員とバイトでアミューズメントプラザと本屋の合同の忘年会が始まった。
今日は、店長のボウリング姿が見れるのが楽しみだった。
彼は過去にプロを目指していて、国体出場の時は、成績が上位までいった経歴があるらしい。
最高に上手で、お客達にも憧れられている。なので、店長はハンデがかなりある。
忘年会は、数人ずつにチームを作ってボウリング対決をするゲームがメインになっている。上位チームは景品が出る。
平日で、お客は少ないから、受付には副店長だけいる。クジ引きをして、三人ずつのチームが決まった。
春呼は英恵と僕と同じチームだった。
春呼は、ボウリングも上手い方だけど、さほど好きじゃないらしい。
英恵は、春呼と同じクラスで、甘くないクールな感じの女子。
僕は、ここにバイトに来るようになってから、レーンの調整の時とかにも投げていたから、自分の腕前は結構なものと確信していた。
椋井さんのチームに侑斗と、ゲームセンターの女子バイトがいる。
レーンも二つ隔たりがあって、彼女の表情があまり見れない。
かなり侑斗が羨ましかった。
だからといって、決勝ゲームが終わる間際に、あんなことをしてしまうなんて、自分でもやってしまったと思う。
試合が進むと、椋井さんのチームは地道にコツコツ点数を上げて、決勝戦に進んでいた。
店長のいるチームと、ここの主任と本屋のバイトがいるチームと、椋井さんのチームで決勝戦をしている。
椋井さんの投げ方が微妙なのが、やっぱり教えてあげたい気持ちになる。
それでも、真剣に狙って丁寧に投げてスコアを伸ばしている。
侑斗に話しかけながら、彼女の側に行った。なんとなくアドバイスをしたりする。
スコアに差が開いて、ほぼ店長チームの優勝が確定して、最後まで一応全員投げ終わる頃、僕は椋井さんの座っている前のスコア画面を覗き込むのと同時にそのまま、彼女の肩を後ろからハグをしてしまった。
一瞬だったけど、ビクッとした椋井さんの肩からすぐに腕を退けると、椋井さんは、顔を赤くして、こちらを見ながら言葉も無いという表情をしていた。
そしてそのまま、二人とも何も言わないままに離れた。
侑斗は、小さい声で
「何してる!」と、言って僕の肩を押した。
椋井さんに謝りたかったけど、もう彼女は同じチームの女子としゃべっていた。
それで表情も、いつもどうりだったので、うやむやになってしまった。
僕は春呼にも、時々あんな感じで寄り掛かったりする。
それは子供の頃の延長みたいなものだけど、本当はダメなのは分かっていた。